念願だった保護猫を迎えたら…2度の脱走危機 今では万全の対策を施し“安心猫ライフ”

 2015年夏、西宮市在住のNさんは初めて猫を家族に迎え入れることになった。Nさんは元々は犬派。まだ独身のころ、父親が仕事場から連れて帰った犬を飼っていたそうだ。結婚してからは動物を何も飼っておらず、親戚の犬をときどき預かったりしていた。

 そんな「私がなぜ猫を?」と自身でも理由は分からないが、突如自分の中に猫ブームが到来したのだという。SNS上でアップされるお気に入りの猫写真を集めたり、猫雑誌やグッズを買い集めたりしていたそうだ。しかし、段々と本物の猫が飼いたいと思うようになり、ペットショップを覗きに行ったりして気を紛らせていた。

 当時の職場で親しくなった同僚が4匹の猫を飼っていた。仕事の休憩中、その友人が話す猫との日常を聞くことが楽しみになっていた。どんどん自身の中で妄想が膨らんでいき、ついに「猫が飼いたい」と口走ってしまった。ただ、当時Nさんの母親は体調を崩しており、度々様子を見に行っていたため、時間や気持ちに余裕がなかった。

 猫好きの同僚から里親募集情報が入る度、里親に立候補するか悩んだが、諦めていた。そんな悶々とした日々を送る中、母親の体調も徐々に良くなり、ついにその瞬間はやってきた。道端に捨てられていた、まだ生後1カ月くらいの子猫3匹を、子供が拾って大阪のあるペットショップに連れて来たそうで、里親を探していた。そのペットショップの方は近所にいる野良猫や捨て猫を世話して里親を探し、猫たちを里親の元に送り出してきた。

 「ジャストなタイミングで、里親募集中の保護猫の話が出たんです」。これには夫も賛成してくれ、喜び勇んでその話に飛びついたそうだ。Nさんは子猫3匹のうち、1匹の里親に名乗りを上げた。3匹の子猫は皮膚病と猫風邪を患っていたが、お店の方が治療を施し、良くなってから子猫はNさん宅にやってきた。子猫の第一印象は小さくて細く、所々ハゲておりお世辞にも可愛い子猫ではなかったそうだ。それでも待ち望んだ子猫は可愛く、Nさんは虜になった。

 子猫は特徴的な柄をしていた。ピンクの小さな鼻の下に2カ所黒い斑点があり「ああ、女の子なのにヒゲがある」と思ったそうだが、背中にあるウサギの様に見える模様とともに、れっきとしたチャームポイントになった。牛のように白地に黒の斑点模様なのでmoo(モー)ちゃんと命名した。

 もーちゃんはどちらかといえば大人しい子だったが、ご多分にもれずカーテンはビリビリ、障子は穴だらけに。襖は破るわ、ベランダの網戸まで破られ、あっという間に家の中はボロボロになった。何事にも興味津々で賢く、Nさんの後をついて回り、家事をよく見ていたそうだ。ある時、Nさんをまねて炊飯釜に入ったお米を、クルクルとかき回し洗うような動作を見せた時は、思わず感心して「もーちゃん賢いねー」と言ってしまったそうだ。

 一方で、普段からあまり鳴かず、のんびりとよく寝る子で、自分が撫でてほしい時はコテッと横に転がって甘えて来たかと思えば、納得したらさっさと行ってしまう。いわゆるツンデレ猫だ。そんなツンデレもーちゃんだが、Nさんがインフルエンザで寝込んだ時はずっとそばで添い寝してくれる優しい一面もみせた。

 「私のことを家族だと思ってくれているもーちゃんのためにも、健康に気をつけて元気でいなければ」としみじみ思ったそうだ。

■ベランダの網戸がビリビリ 脱走の危機

 大人しい子ではあったが、これまでに2度脱走の危機があったのだという。もーちゃんを1匹でお留守番させた日のこと。Nさんは帰るなり部屋の中の惨状に驚いた。ベランダの網戸がビリビリに引き裂かれていたのだ。ベランダの窓は開けて網戸だけの状態で出かけていた。ちなみにNさんの住まいはマンションの9階である。幸いまだ小さな子猫だったので、ベランダには出ずに家の中にいてくれたから良かったものの、ベランダから転落してしまう可能性もあったので肝を冷やしたそうだ。

 はじめのころは猫の行動がよく分かっておらず、子猫の爪が網戸を引き裂くとは想像もしていなかったという。それからNさんは脱走対策を考えるようになった。猫は手先が器用で自ら窓や扉を開けたり、並外れた跳躍力で少しの障害物など飛び越えて行ってしまう。脱走対策を施さないと簡単に外へ出てしまうのだ。

 なぜ外に出てはいけないのか?と思った方もいるかもしれない。猫にとって外は危険がいっぱいだからだ。室内飼い猫が脱走した場合、8割が見つからないと言われている。もし見つかっても、病気に感染してしまう可能性もある。当団体も今まで捜索依頼を受けたことがあったが、見つからなかったり、残念ながら死体で発見された場合もあった。

 脱走対策をすることは大切な愛猫を護る為に非常に重要なことだ。当団体では里親さんに、きちんと脱走対策を施してもらうことにしている。Nさんはまず窓に柵を取り付けた。突っ張り棒2本にワイヤーネットを取り付けるだけで、簡単に柵を作ることができる。同じ要領でキッチンの入口にも柵を作り、侵入を防いだ。

 もっとも、猫と生活していく中で何度も猫の賢さ、器用さに驚かされることとなった。玄関に通じる扉はドアノブを下に降ろして開けるタイプだが、いとも簡単に開けられてしまった。ドアノブにジャンプをして、前足でドアノブを引っ張って開けるという芸当を目の当たりにした時は、驚きのあまり何も言葉がでてこなかったそうだ。ドアノブには子供の安全対策であるチャイルドロックなどの便利グッズが有効だ。

 もーちゃんの脱走の危機はもう一度起こった。ベランダの両脇にあるパーテーションの下側には隙間があり、くぐって隣に行ってしまったのだ。たまたま隣の方もベランダに出ており、咄嗟にベランダの窓を開けてもーちゃんを部屋の中に入れてくれたそうだ。隣人の機転で事なきを得たが、ベランダから木を伝って脱走したり、転落してしまったという悲劇を耳にしたことがある。

 NさんはSNSで迷子猫の投稿を見かける度に「外で怖い思いをしていなければいいけど…」と可哀想に思っていたそうだが、もーちゃんが脱走してしまった時のことを想像するとさらに胸が締め付けられる思いがした。

 「猫ちゃんのためにそういうことが起こらないよう、私達人間が本当に気をつけなければと思います」。Nさんご家族ともーちゃんは、脱走対策が施された家で安心安全に、憧れだった猫ライフを満喫している。

(NPO法人動物愛護 福祉協会60家代表・木村 遼)

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