「死んでしまうかもしれない」と子猫を保護 ツンデレだが、介護の疲れを癒してくれる
■庭に現れた子猫
ニャーちゃん(10歳・メス)は、2011年の夏を過ぎた頃、東京都に住む小更(こぶけ)さんの実家の庭に現れた。その日は天気が良く、ニャーちゃんは植木鉢の上で日向ぼっこをしていたという。
小更さんは幼い頃に飼っていたシマリスやヒヨコを野良猫に殺されたことがあった。
「そのため猫にはまったく興味がなく、ましてや飼うなんて考えたこともありませんでした。でも、ニャーの可愛さに夢中になってしまいました」
ニャーちゃんは、毎日日向ぼっこに来るようになり、小更さんは「ニャー」と呼んで、こっそり餌をあげていた。家のドアが開く音がしたり、小更さんが外出先から帰ってくる気配がしたりすると、ニャーちゃんはどこからともなく「ニャー」と可愛い声で鳴きながら現れた。
「こんなことされたら本当にメロメロです。冬になった時、玄関横にフリースを入れた段ボール箱を置いてあげたら、気に入ったようでそこで寝るようになりました」
■死んでしまうかもしれない
当時、小更さんは実家で祖母の介護をしていた。担当のケアマネージャーさんも大の猫好きで、自宅だけでなく事務所でも野良猫をたくさん保護して飼っていた。その人もニャーちゃんのことを気にかけていた。
「ヘルパーさんや訪問看護師さん、お医者さんなど、家に出入りする方はみなニャーのことを可愛がってくれて、会えると喜んでいました」
ある日、小更さんはケアマネさんから、「まだ子猫だけど、妊娠していると思う。身体が小さいから耐えられないのではないか」と言われた。翌日、夜中に窓を開けてこっそり外の段ボール箱をのぞいてみたら、寝ていたはずのニャーちゃんの姿はなく、玄関前に一匹の赤ちゃん猫が産み落とされていた。
「でも、その子は息をしていませんでした。周りには血もけっこう流れていたので、あの子はどこかに隠れて死んでしまう。もう会えないかもしれないと悲しんでいたのです。でも、ニャーは、翌日ごはんを食べに戻ってきました」
その時、小更さんは、「この子に会えなくなるのは考えられない、保護しよう」と決心したという。
■春に迎えたから「ハルちゃん」
小更さんは猫を飼ったことがないので、何をどうしたらいいのか分からなかった。途方に暮れていたが、お母さんが勤める会社に保護活動をしている人がいたので、相談して捕獲してもらった。
「捕獲後、避妊手術のため病院に連れて行きました。お腹の中にはもう一匹赤ちゃんが入っていましたが、残念ながら育っていなかったそうです」
手術を終えた後、ボランティアのところで数日預かってもらい、2012年3月17日、小更さんはニャーちゃんを迎えた。見違えるようにきれいになっていた。
「家に来てしばらくはケージの中でじっとして警戒していましたが、数日したら恐る恐るケージの外に出てきました。撫でても怒らないし、喉を鳴らしてくれたので、『これは大丈夫』と確信しました」
家にはすぐに慣れたようで、日当たりの良い木箱の上がお気に入りの場所になった。
外にいた頃は、鈴が鳴るようなかわいい声でニャーと鳴くので、「ニャーちゃん」と呼んでいたが、春に家に迎えたので、「ハルちゃん」という名前にしたという。
■みんなを笑顔にしてくれる
ハルちゃんは、ビビりなツンデレ猫。甘えたい時は鳴き続けて「かまってアピール」をするが、かまってあげると急にプイッと向きを変えてしれーっとする。びっくりすると、「こんなところに?」と驚くような狭いところに隠れて、しばらくすると埃をまとって出てくる。
ハルちゃんを迎えた当時、小更さんは仕事を辞めて祖母の介護をしていた。
「その後、私自身と家族も大病を患い、ハルがいなかったら相当落ち込んだと思います。ハルを見ているだけで癒されました」
マイペースなハルちゃんは、いつもみんなを笑顔にしてくれる。すっかり家族の中心になり、かけがえのない存在なのだという。
(まいどなニュース特約・渡辺 陽)