83歳で挑む「太平洋ひとりぼっち」 堀江謙一さんに聞いた、マーメイド号の進化「60年前は無線も何もなかった」
1962年8月12日の午後、サンフランシスコ湾でセーリングを楽しんでいたヨットの船長は、シングルハンド(一人乗り)の小さなヨットを見つけます。そのヨットは、外国から入港してきた旗(検疫を願い出る黄色い旗)を立てていました。「どこから来た?」の問いかけに、若者は「日本から」と答えました。
そう、その若者は堀江謙一さん。全長6メートルにも満たない小型のヨットで、たった一人で太平洋を渡ってきたのです。
敗戦から17年、当時の日本はまだ観光目的での海外旅行が許可されていなかったので、正式なパスポートも持ってませんでしたが、アメリカはこの英雄を拍手で迎えました。
後に「太平洋ひとりぼっち」という、石原裕次郎さん主演の映画にもなった伝説的な航海です。
■伝説の航海から60年後…19フィートのヨットで三度目のチャレンジ
以後、堀江さんは海洋冒険家として様々な航海を成し遂げられますが、中でも2002年、最初の航海と同じ19フィートのヨットでの40年ぶりの太平洋横断は、西宮からサンフランシスコまでを辿り直す旅でした。
初代マーメイド号はラワンの合板で作られていましたが、この時のMALT'Sマーメイド3号には、ウイスキー貯蔵用の樽に使われた木材や、アルミ缶リサイクルのアルミ材などが使われていました。
そして先日、来年2022年にこの二度の航海と同じサイズ、19フィートのヨットで、サンフランシスコから日本への太平洋横断にチャレンジされる、というニュースがありました。「太平洋ひとりぼっち」から60年、83歳での大航海です。
■新しいマーメイド号はアルミ船体
2021年11月27日に、広島県尾道市のベラビスタマリーナで進水した「サントリーマーメイド3」は現在、兵庫県の新西宮ヨットハーバーで仕上げとテストを行っています。船体はアルミ製で、設計は2002年の艇と同じ横山一郎さん。なお、初代マーメイド号を設計された横山晃さんはお父さんです。
今回で三代目の、19フィートのマーメイド号。初代にはGPSはおろか、無線や電話などの通信手段さえありませんでした。なので装備でいうともちろん二代目、三代目と格段に進化しているのは当然なのですが、その艇としての基本的な性能や性格はどうなのでしょうか。大きく変わったのでしょうか。その辺りのことを、現在シェイクダウン中の堀江さんにうかがってみました。
「(艇としての性格は)まああんまり変わってませんね。だんだんと性能は良くなってるとは思いますけどね。装備はもちろん、2002年とか今回とかは衛星電話が付いてますからね。全然違います。(最初の時は)無線も何もなかったからね。明かりも石油ランプで取ってましたからね。全然違いますけど、ヨットそのものはそんなに差はないと思いますけどね。大きく分けて、帆は三角とかなんとかいうのは変わらないですからね、そういう意味では。ただウインドベーン(機械式の自動操舵装置)が最初のには付いてなかったんです。それをまあ付けたのは違いが大きいですね。楽ですよ、操船するのがね。両手が離せますからね。まあ昔も離せましたけどね、違いますよね」
繰り返しになりますが、最初の航海はGPSが無い時代なので、自船の位置は六分儀という、大昔に発明された測定器を使って、太陽や天体を観測して計っていました。今回の航海にもそれは持って行かれるそうです。その辺りも含めて、航海の基本的な部分はあまり変わらない、ということなのかもしれません。
今回は飛行機でサンフランシスコに飛んで、60年前とは逆に日本を目指す航海です。サンフランシスコに展示されている初代マーメイド号にも、もちろん再会されるそうです。
ヨットは、来年2月には船便でサンフランシスコに送られるとのことです。そして3月に出航、新西宮ヨットハーバーにゴールされるのは初夏の頃です。
筆者もぜひその時には港で出迎えたいと、いまから楽しみにしています。
(まいどなニュース特約・小嶋 あきら)