オミクロン株にどう備えるか 豊田真由子が考える「感染拡大防止」と「社会経済活動の維持」のバランス

新型コロナのオミクロン株の流行が懸念されていますが、現時点の状況にかんがみると、「感染症対策」と「社会経済活動の維持」のバランスを取ることが、より一層求められていると思います。オミクロン株の性質や各国の対応状況などから、日本の取るべき対策を考えてみたいと思います。

■感染拡大防止と社会経済活動の維持は、車の両輪

新興感染症対策というのは、ウイルスの性質の変化や、ワクチンや治療薬の開発・普及状況、社会経済の受けているダメージの状況等に応じて、(あらかじめ準備は緻密に行いながらも)、柔軟に変えていくべきものです。

もしオミクロン株が、「感染力が強く、重症化リスクは高くない」のだとすれば、これまでとは対応が変わってくるはずです。

オミクロン株に関する諸外国の状況を見ていると、今後日本でも感染者数の急増は十分あり得るわけですが、感染者数が増えたからといって、直ちに、緊急事態宣言、営業自粛・時短要請、休校・・といった、これまでと同じ対応を取るのではなく、重症者の状況や医療の逼迫状況等に重きをおいて考えるべきだと思います。

もちろん、第5波の教訓として、入院や、宿泊・自宅療養ともに、必要な方に適時適切に医療が提供できる体制を、あらかじめ整備しておくことは必須です。

純粋に「感染拡大を抑制すること」だけを考えたら、どれほどでも厳しい規制をかければよいかもしれません。そうしておいた方が、政府が非難を受けるリスクも格段に下がります。しかし、そうしてコロナ渦で失われたもの、取り返しのつかないことも、非常に多いということは、皆様が実感されているところではないでしょうか。

「感染拡大防止」と「社会経済活動の維持」は、「ブレーキ」と「アクセル」ではなく、「(死活や社会という)車の両輪」です。両者を如何に、バランスを取りながら、車を前に進ませていくか、の手腕が問われています。

■水際対策と市中感染

テレビ等で市中感染の個別事例が大きく取り上げられますが、水際対策は、あくまでも市中感染を遅らせる「時間稼ぎ」に過ぎず、したがって、市中感染は当然に起こることです。新型コロナに限らず、感染初期のウイルスの増殖が少ない段階では、一定の割合で検査をすり抜けてしまうので、完全に国を閉じない限り(※)、ウイルスは必ず入ってきます。

(※)自国民の保護は、国家の責務であり、日本に帰国したいという邦人を、国は受け入れないわけにはいきませんので、「完全に国を閉じる」ことはできない、ということになります。これは、各国とも同じです。

また、市中で感染が広がった段階では、水際で1人見つけるために数百人を拘束するようなオペレーションに、多大な人員やコストを使う意味が減じますので、市中感染の進展に応じて、「水際対策」から「国内対策」に資源を振り向けることになります。

そして、(よほどの故意を持って、感染するような行動を取ったということでなければ)、感染した方が悪いわけでは全くありませんので、なんというか、感染した方を責めるような風潮が感じられることを危惧します。どなたにとっても、「明日は我が身」でもあります。

■オミクロン株の性質は?

オミクロン株は、現時点では、暫定的なものではありますが、デルタ株に比して、実効再生産数は高く、入院リスクは低いという数字が出されています。

南アフリカ、デンマーク、イギリス等のデータ分析によれば、オミクロン株の実効再生産数は、デルタ株の3~4倍になるということです。

英国インペリアルカレッジロンドンの研究(査読前)では、デルタ株に比べてオミクロン株は、通院が20~25%減少、重症化して入院が40~45%減少したとのことですが、「サンプル数が少ないため、リスク評価は時期尚早」とされています。

世界で最初にオミクロン株の流行が確認された南アフリカの国立伝染病研究所によると、オミクロン型で入院が必要になる割合は、感染者のうちの2%台で、デルタ株と比較して、入院リスクは8割低く、重症化リスクは7割低かったとのことです。

ただし、調査対象である感染者の中には、すでに新型コロナに感染したことのある方やワクチン接種者、若者など、もともと重症化リスクが低い人が多くいるので、逆に言えば、高齢者やワクチン未接種者、基礎疾患のある方などは、重症化するおそれもあり、いずれにしても、年代別やワクチン接種歴別等の解析が求められると思います。

香港大学によれば、デルタ株と比べて、オミクロン株は、気管で増殖しやすいために、周囲に広げやすく、逆に肺では増殖しにくいため、肺炎にならずに重症化しにくいといった説もあります。

後遺症については、まだ詳しいデータが分かっていません。

ここで留意すべきは、仮にオミクロン株の重症化リスクがそれほど高くなくても、感染力が強く、感染者数が大幅に増えれば、重症者数は増え、医療への影響も懸念されるようになるということです。

また、英国等では、医療従事者がオミクロン株に感染し、あるいは濃厚接触者となって、出勤できなくなる、という事態が実際に生じています。

いずれにしても、現時点では、過度に楽観視することなく、基本的な感染防止策を続けることが肝要ということになります。

■ワクチンの3回目接種

英インペリアルカレッジロンドンの研究によれば、オミクロン株に対するファイザーワクチンの効果を、「2回目接種後半年経過」、「3回目接種後1か月経過」で比較してみると、発症予防効果は7.9%→48.4%、重症者予防効果35.2%→85.5%、死亡抑制効果50.4%→91.7%となったとのことです。

日本でも市中感染が始まっており、特に、高齢者や基礎疾患のある方など、ハイリスクの方は、接種をなさるベネフィットが大きいと考えられます。

12月末までに、ファイザーだけで1600万回を送付済みで、市中在庫はファイザーで約770万回、モデルナで約115万回分あり、市中には2500万回近くのワクチンがあることになります。メーカーの違うワクチンを接種する交差接種も含め、準備ができた自治体から、希望する人に接種を進めていくということだと思います。そしてまた、パンデミックを収束させるためには、途上国を含めた世界全体に、ワクチンを行き渡らせる必要があります。

■海外の対応状況

オミクロン株にどう対応していくかは、各国も判断が分かれており、また、状況に応じて、随時、対応を変えていっています。米英仏は、一日の新型コロナ新規感染者数(7日間平均)が、それぞれ約24万、11万、7万人(12月27日)という規模になっており、職場の人出不足等から、隔離措置の緩和などの動きも見られます。

オランダは12月19日から、ロックダウンを再び実施し、ドイツはワクチン接種済みの人にも行動制限を拡大して大規模イベントは無観客となり、フランスは週3日のテレワークや飲食店利用時のワクチン接種を義務付けました。

一方、米国のバイデン大統領は、「パニックに陥る必要はない」として、大幅な行動制限の再強化には消極的で、ワクチン接種の促進と検査態勢の拡充で乗り切る方針を示しています。そして、(すでに世界で感染が拡大している状況を受け)アフリカ南部8か国からの入国制限も12月31日から解除することとしています。

英国は新年に向けての追加策は取らないとした一方、英国の各自治政府、例えばスコットランドやウェールズでは、イベント参加者数の制限や社会的距離の確保の措置等を導入しています。

また、米国や欧州の一部の国では、オミクロン型の感染者や濃厚接触者が急増して、医療や交通(列車・航空機など)のインフラにおける人手不足が生じてしまっていることもあり、隔離について緩和の動きが見られます。

米国は12月27日、感染者が無症状の場合は、隔離期間を従来の10日間から5日間に短縮し、濃厚接触者については、ワクチン未接種者等には5日間の自宅待機を要請する一方、追加接種を終えた人等は隔離不要としました。英は、ロンドンを含むイングランドで22日から、感染者の自己隔離期間を10日間から7日間に変更し、フランス、イタリアでも、同様の動きが見られます。

シンガポールは12月26日、オミクロン株の重症化リスクは低いとして、オミクロン株の感染者について、医療施設でなく自宅療養を認める、濃厚接触者に対する専用施設での強制隔離も撤廃するなど、規制を緩和しています。

■日本はどうするか?

日本はまだオミクロン株の感染者が少ない状況(12月28日時点の感染者は、合計332人)ですが、海外の状況も参考に、今後を見据えた対応を取る必要があります。

12月28日、脇田国立感染研所長(厚労省アドバイザリー・ボード座長)らが、下記のような「オミクロン株への厳格な対応の見直し」を求める提案書を、政府に提出しました。内容は極めて妥当だと思います。

・感染者は症状に関わらず入院としているのを、デルタ株と同様に、重症度に応じて無症状・軽症者は自宅や宿泊施設での療養とする。

・感染者の入院部屋を原則個室から、デルタ株の入院者と同室可能とする。

・濃厚接触者は宿泊施設での健康観察としているのを、宿泊施設と自宅の併用可能とし、期間の短縮も検討する。

新型コロナ感染者は、現在、医療的には入院加療が必要ではない軽症の方も、「感染防止のために」入院することとされていますが、感染者が増加してくると、同様の対応では重症者への病床確保が難しくなるため、都道府県が、重症者を優先とする医療体制へ移行することができるとされています。

私はそもそも、新型コロナの無症状者・軽症者を入院させるという原則が、実態にマッチしていないと思っています。医療機関は本来、「感染を防止するための施設」ではなく、「(新型コロナに限らず)必要な人に必要な医療を提供する施設」です。

無症状・軽症者が重症化することもありますので、ハイリスクの方は宿泊療養を基本とし、必要になったらすぐに適切に医療につなげる体制の構築が必要だと思います。

政府は、機内の濃厚接触者の同型の感染割合が0.1~0.2%程度で、それ以外の場合とほぼ同水準との知見が得られたため、感染者が出た航空機の同乗者全員を濃厚接触者としてきた措置について、12月28日に感染者の列と前後2列の計5列にする従来の対応に戻しました。

保健所や関係各所の負荷も膨大です。こうした、状況に応じた柔軟な対応が求められると思います。

◇ ◇

新型コロナによって、そして、様々な規制によって、経済的・精神的苦境に陥ってしまわれた方やご家族、女性や子どもの自殺・不登校の増加といった事象も大いに憂慮すべきことです。

子どもや若者が、様々な実体験を通じて、吸収し、培われる様々な学習や感性や友情の力は、これからの人生の土台となるはずのものですが、若く多感な時期に得ることのできなかった経験というのは、残念ながら後から取り戻すことができません。

後に撤回されましたが、「オミクロン株の濃厚接触者は、当日の大学受験を認めない」というのは、大変ビックリ&がっかりでした。「これまでずっと地道な努力を重ねてきた生徒たちをどうやって応援するか」「相互にリスクを下げる現実的なオペレーションとはどういったものか」を必死で考えるのが、教育行政に携わる大人たちの役目だろうに、と心底思います。

年末年始の帰省については、私は、事前に検査を受ける、移動や現地での行動に気を付ける、などした上で、行っていただいたらいいと思います。この2年間、会いに行くのを控えている間に、大切な人に二度と会えなくなってしまったというお話を、たくさん聞きます。

今回、随分と情緒的なことを申し上げているように見えるかもしれません。

私は米国で公衆衛生学を学び、WHOと厚労省で感染症に対峙しました。純粋に「感染拡大を抑制すること」だけを考えたら、どれほどでも厳しい規制をかければよいのかもしれません。しかし、人間の実際の生活や人生というのは、人と触れ合い、学校や会社や地域に出かけて行き、趣味や運動をし、食事をして語らい、美しきものを愛で、そうした様々な出来事の積み重ねで成り立つものだと思います。

科学に立脚しつつ、人間の思いや時間の貴重さや社会の全体を見渡し、為すべきことを考えることが、政治や行政には求められています。

大きな流れで見て、国民が新型コロナをどの程度許容するのか、ということも重要になってきます。

オミクロン株については、まだまだ今後の状況を注視する必要がありますが、一般論で言えば、新興感染症の流行については、ワクチンや治療薬の普及などとともに、「感染力が強く病原性の弱い株」が支配的になることで、「病原性が強い株」と置き換わり、感染しても重症化しないということになれば、通常のインフルエンザと同じような扱いになり、パンデミックは収束する、というシナリオがあります。

古来より、人類の歴史は感染症との戦いの歴史です。大きな犠牲を払いながらも、これまでパンデミックは必ず収束してきました(そうはいっても、次から次に、新たな感染症がやってくるのですが)。

だいじょうぶです。がんばってまいりましょう。

来る年が、佳き年でありますように。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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