「ペットと過ごせる時間は有限、全力で愛して」 愛猫との幸せな日々…突然やってきた別れで実感
長年、保護猫を飼いたいと思っていた西宮在住のYさんは、大阪に店を構える保護猫カフェ「猫の恵庭」に通っていた。2019年8月のある日、猫の恵庭のTwitterで「複雑な事情から複数の子猫がやってきた」というツイートを見たYさんは、胸を躍らせながら子猫達に会いにカフェを訪れた。
店内には多数の子猫がおり、店中を走り回る子猫たちの中から、2匹の子猫が気になったそうだ。1匹はお客さんのところをあっちに行ったりこっちに行ったり、ひとところにとどまらず、ずっと遊びまわる「元気で健康な子猫」。
2匹目は、子猫の中で「一番貧弱でヨボヨボしていた黒い子猫」。こちらの子猫には保護当時、2匹の兄弟がいたが、すでに亡くなっていた。
Yさんが店にいる間中、子猫は片時もそばを離れなかった。2匹は痩せていて、身体も小さく「大丈夫だろうか」と心配になり、その後Yさんは、何度か保護猫カフェに通いつめた。「元気で健康な子猫」はいつもお客さんに遊んでもらったり、やんちゃし放題。反対に「一番貧弱でヨボヨボしていた黒い子猫」はいつもYさんについてきて、背中にピタッとくっついていたそうだ。
Yさんはこの2匹を引き取りたいと考えていた。複数いた子猫の中から迎えることを決心。早速、猫を飼う準備を始め、早々に子猫達を自宅に迎え入れた。
子猫を連れて部屋に到着し、2匹が入ったキャリーバックを開けると、子猫達は恐る恐るキャリーバックから出たそうだ。しかし、数分後にはキャットタワーに上って遊び始めた。2匹一緒だから心強いのだろう。子猫達は怯える様子も全くなかった。
家の中をドタバタ駆け回る2匹を尻目に、慌てて分厚い絨毯を買いにホームセンターへ走った。子猫の名前は保護猫カフェの名前から取って、2匹で一つになるよう名付けた。「元気で健康な子猫」には「ケイ」、「一番貧弱でヨボヨボしていた黒い子猫」には「アイ」と名づけた。
ケイくんはとにかく元気いっぱいだった。おとなしいアイちゃんに執拗に絡んで追いかけまわし、よくうざがられていた。来客があると、人見知りせず誰にでも寄って行く愛想のいい子猫だ。その一方で遠慮がちな一面もあり、常に抱っこをせがむアイちゃんに遠慮して、いつしか抱っこをせがむことをしなくなった。
自分から甘えるのが苦手で、どうしても甘えたい時は就寝後、Yさんのベッドに潜り込んでくることもあった。ご飯を食べるのを忘れていても、アイちゃんが食べるのを見たら「僕も!」と奪うように食べるようなこともあった。
■突然訪れた愛猫の死
そんな幸せな日々を送っていた中、「アイちゃんの死」という悲しい現実を突きつけられた。昨年7月10日、突然体調が急変し、病院で診てもらうも原因は分からなかった。詳細な検査を行う時間もないまま、翌11日に死んでしまった。
生まれながらにひ弱でよく風邪を引き、口腔内の病気で歯もほとんど抜け落ちてしまっていた。それでもアイちゃんは、日々元気に過ごしていた。ケイくんはアイちゃんの死を理解しているのかいないのか、しばらく動かないアイちゃんの周りを不思議そうにうろうろした。一緒に育ってきたアイちゃんがいなくなり、ケイくんは目に見えて元気をなくしていった。
ご飯を食べない、水も飲まない、遊ばない、しんどそうに寝ている時間が増えた。猫はものを言えないだけで「アイちゃんを失ってショックを受けている私達と同様に、辛いのだろう」とYさんは思った。
Yさんにとって猫は子供も同然だった。アイちゃんを失って心が壊れなかったのは、ケイくんがいてくれたおかげだと語る。「ケイくんがいるからちゃんとしなきゃ」と思えたそうだ。それでも家の中が寂しくなってしまったこと、ケイくんが明らかに元気をなくしてしまったことに焦り「一刻も早く新たに猫を迎えたい」と考えた。
そんなとき、YさんはたまたまTwitterで当団体の譲渡会が地元宝塚で開かれるという情報を見つけた。地元ということに縁を感じ、譲渡会に足を運んでくれた。子猫を2匹迎えたいと考えていたが、どの子も可愛くてとても選べないと思ったそうだ。
迷いに迷って店内をウロウロしていると「触ってもいいですよ」とスタッフに声をかけられた。Yさんがサビ猫の姉妹が入っているゲージに手を入れた瞬間、1匹が手にきゅっと抱きついてきた。そのとき、Yさんは2年前に猫カフェで、背中にくっついてきたアイちゃんを「迎えたい」と、思った時の感覚を思い出した。
■新しい子猫たちとの出会い
縁を感じたYさんはサビ猫の姉妹を迎えることを決心した。そうして2匹の子猫を迎え、3匹の猫と一緒に暮らすことになったYさん。2匹の子猫は「レイちゃん」「リリィちゃん」と名付けた。名前の由来は音楽グループ「BUMP OF CHICKEN」の曲名から付けたそうだ。
最初の3日間だけは子猫を警戒していたケイくんだったが、すぐに興味津々に。子猫達もケイくんに関心を持ち、特にレイちゃんはケイくんのことが大好きになった。毎日付きまとって体をすり寄せ”好き好きアピール”をしているそう。元気いっぱいに走り回り、いっぱい水を飲み、ご飯をモリモリ食べるレイちゃんとリリィちゃんを見て、ケイくんは以前のように元気を取り戻していった。
Yさんご夫婦の生活には猫たちがいて当たり前だという。猫がいなければ仲良く暮らせていなかったかもしれない。少し嫌な空気になっても、ひとたび猫がおかしな動きをすれば、笑ってしまえるからだ。
コロナ渦で仕事や生活に変化が起き、家にいる時間が長くなっても、猫とずっと一緒に居られるから何も苦にならない。どんな悪さをされ、困ることがあっても元気でいてくれるならそれでいい。Yさんは愛するペットの死を経験したことから、たくさんの事を学んだのだという。最後にその胸の内を語ってくれた。
「猫や犬、ペットと過ごせる時間は有限だということです。どんなに元気な子でも明日には死んでしまう可能性があります。そうなった時に後悔のない様、毎日全力でペットを愛してあげてほしいです。人間の感じる時間と、小さな生き物が感じる時間は違うそうです。みなさんのそばにいる小さな子達が命を全うする最後の瞬間まで幸せでいられる様、どうかたくさん遊んでたくさん可愛がってあげてほしいです」
Yさんご家族はこの言葉を胸に、一緒に過ごせる時間を大切に過ごしている。
(NPO法人動物愛護 福祉協会60家代表・木村 遼)