ツナ缶の油で飢えをしのいでいた猫 保護して猫アレルギーが発症するも家族に、みんなを「癒やす」

■人懐っこい野良猫

ツナくん(8歳・オス)は、野良猫だった。

2014年4月、岐阜県に住む矢部さんは飲食店を営んでいるのだが、店の駐車場の入り口付近にいつもツナ缶が転がっていて、お客さんが拾ってくるようになった。

「おかしいなと思っていたら、猫が駐車場に住み着いていたんです。ガレージの中の段ボールの上で寝ていたり、私たちの姿を見るといなくなったりしていました」

ツナくんは、だんだん人に慣れてきて、ランチタイムにお店の入り口に座ってお客様を迎えることもあった。

「とても人懐こい子で、お客さんにも『飼っているの?』と言われるようになりました」

■ツナ缶に残った油で飢えをしのいでいた

ある日矢部さんが、段ボールの上に寝ているツナくんに、「大丈夫、何も嫌なことしないから」と話しかけながら近づくと、目をつぶって頭をなでさせてくれた。矢部さんの息子さんもいつしかツナくんと親しくなり、仕事から帰ってきたら、どこからともなく出てくるツナくんと一緒に遊ぶようになったそうだ。

「実は、当時1匹の老猫を飼っていたので、その子のエサを少しあげていたんですが、どうやら息子もこっそりエサをあげていたことを後で知りました」

2014年5月5日、冷たい大雨が降る日の夜、仕事から帰ってきた息子さんは、ツナくんを抱き抱えて、「もうこの子を外に置いておけない。俺の部屋で飼う」と言ったという。

矢部さんは、15年飼っていた猫を亡くしたばかりで、もう1匹残っている子がとても難しい性格の子だったこともあり、他の子を受け入れることは絶対にないと思っていた。

「その子に残った猫生を穏やかに過ごしてもらいたいと思っていたので、ツナをうちの子にするのをためらっていました」

しかし、息子さんの気持ちは変わらなかった。猫アレルギーで、近くにいると鼻水が止まらないが、そんなことは気にせず自分の部屋でツナくんを飼うと言った。

ツナくんは、抱っこはさせたが、オシッコはできないようだった。矢部さんは息子さんの本気を試すつもりで、「自分の匂いがついていないからかもしれない。この子がいつもいるところからうんちを拾ってきて」と言った。

夜中の2時だったが、息子さんは雨の降るなか外に行き、びしょ濡れになってうんちを拾ってきた。トイレにいれた途端に、ツナくんはそこでオシッコをしたという。その日からツナくんは矢部家の家族になった。

店の駐車場に転がっていたツナ缶は、ツナくんが近くのゴミ置き場から拾ってきたものだった。缶に残っていた油を舐めて飢えをしのいでいたのだった。矢部さんは、そのことを忘れないように“ツナくん”と名付けた。

■また外の子にすることはできない

ツナくんは、元野良猫とは思えないくらい人が好きで可愛かったが、ツナくんを迎えたら、なぜか矢部さんと4人の子供たちのうち3人が猫アレルギーを発症した。今までも猫を飼っていたが、これほどひどいことはなかったという。

「目がかゆくなったり、鼻水をたらしたり、長時間いることが難しくて、他の子たちはこんなことがなかったのにと家に入れて良かったのかと悩みました」

しかし、矢部さんは、「こんなに人懐っこい子をまた外の子にすることはできない」と考え、なんとか一緒に暮らす方法はないかと思案した。

「真剣に覚悟をしたその日から、不思議なんですが、鼻水も目のかゆみも全くなくなりました。『この子と離れたくない』という強い気持ちが、体質を変えたのかもしれません」

■ ツナのいない生活なんて

ツナくんはとにかく人懐っこく、初めて来たお客さんでもすぐにゴロゴロと懐いて膝に乗る。

「猫好きでも飼えない人がうちに遊びに来て、ツナと触れ合う簡易猫カフェ状態になることも多いんです」

ツナくんはとても優しくて、ツナくんの後に三毛のみぃちゃんが来た時も、ツナくんが先住猫なのに、その子に先にご飯も食べさせて、終わってから自分が食べていた。冬になると矢部さんの布団に入ってきたのに、みぃちゃんが来てからはみぃちゃんに布団を譲って、入って来なくなったという。

ツナくんがいない生活は考えられないという矢部さん。矢部さんの体調が悪いと、ツナくんは必ず枕の横に座って添い寝をしてくれる。

「ずっと顔をなめて元気をつけてくれます。猫の舌はザラザラなので痛いけど(笑)」

(まいどなニュース特約・渡辺 陽)

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