日本の冬はつらいよ アマゾン育ちのカピバラは温泉でスキンケアをしていた!
南米・アマゾン育ちのカピバラにとって、乾いた日本の冬はお肌の天敵といいます。山口大学の研究者たちが、カピバラ9匹(2~12歳)を21日間、湯田温泉(山口市)につからせたところ、乾燥肌がしっとり肌になり、リラクゼーション効果も確認されました。冬の風物詩ともいえるカピバラの露天風呂ですが、身を寄せ合い、目を細めてお湯につかる彼らは、暖かい故郷の水辺を思い出しているのかもしれません。
山口大学大学院共同獣医学研究科3年の井中賢吾さんと木村透教授(実験動物学)が論文を公開。秋吉台サファリランド(美祢市)と湯田温泉配給協同組合の協力を得た研究で、成果はネイチャー社の『Scientific Reports』に2021年12月9日に掲載されました。
動物園で人気のカピバラは、温度湿度の高いアマゾン川流域の湿原に住むげっ歯類です。寒さと乾燥に弱いため、日本の冬期は肌荒れを起こすといいます。研究では、「白狐が見つけた美肌の湯」の故事があり、アルカリ性で美肌効果があるとされる湯田温泉から採取した35度のお湯に、1日30分21日間つかってもらい、肌荒れの改善やリラクゼーション、保湿効果を検証しました。
■21日後、荒れていた肌が
結果、荒れていた肌が21日後には正常な皮膚に回復。皮膚の一部を分析したところ、肌の水分量が増加し、肌荒れに伴い酸性に傾いていたpHは弱アルカリ性に留まっていました。アルカリ性のお湯は、人間の皮脂を溶かし角質層を軟化させるため、肌がすべすべになる効果が見られますが、同じようなことがカピバラの肌でも生じたとみられます。また肌の色素沈着の原因となるメラニン値が低下し、血行状態が改善するという美白・美肌効果が示されました。
リラックスの度合いを調べるため、さまざまな条件で撮影したカピバラの表情写真をもとに、快適な状態を「ベースラインで穏やか」「中程度の快適」「明らかに快適」に3分類。心地いいほど目を細め、耳の角度が後ろ向きに変わることが判明しました。こうした評価をもとに、入浴中のカピバラを観察すると、心地よくくつろいだ状態になったことが確認されました。
また入浴後の体温をサーモグラフィーで調べたところ、入浴後30分にわたって保温状態が保たれていることが示されました。温泉が湯冷めしにくいことは古くからいわれていましたが、人間同様カピバラでも証明されました。
■温泉入浴を警戒する個体も
温泉によってカピバラの心身にどのようなことが起きたのでしょうか。木村教授に聞きました。
ーカピバラにとって日本の冬は
「元来高温多湿の地域に生息し、日中は水中ですごす時間が多い彼らにとって、寒冷・乾燥の気候は辛い環境と考えます」
ー皮膚の状態が悪くなると
「皮膚局所的に見た場合、ヒトでもひびやあかぎれなど手に生じると日常の生活で支障が出ることは誰もが経験していると思います。動物の体の中で皮膚は一番大きい組織です。その皮膚の状態が良好でないと体全体のコンディションに影響が生じます。体調を崩し、体の抵抗力が低くなってしまいます」
ー今回の研究の苦心した点を
「こどもの頃から温泉入浴した個体は問題ないですが、ある程度年齢が進んだ個体は温泉入浴に警戒すことがありました」
ー今回の研究をステップに次はどのようなテーマを
「湯田温泉の入浴で湯冷めが起こらない理由です。温泉水の能力を成分の面からではなく、別の物理化学的測定で明らかににして、長期温泉入浴効果と結び付けたいと考えています。また、傷の治りについても、温泉の効果を検証したいと考えています」
(まいどなニュース・竹内 章)