捨て猫禁止の真冬の海岸 捨てられていたシャム猫を家族に「暖かい部屋で一生幸せに過ごそう」
■真冬の海岸に捨てられていた子猫たち
チャイくん(1歳2ヶ月・オス)は、2020年1月10日、真冬の瀬戸内海の海辺にベッドごと兄妹3匹で捨てられていた。お腹を空かせて鳴いていたところ、保護団体のボランティアに保護されたという。生後3ヶ月くらいで、みんな猫風邪をひいていた。“そこによく猫が捨てられている”という苦情が役所に寄せられていたので、「捨て猫禁止」という貼り紙がしてあったのだが、それでも捨てにくる人がいた。
■忘れ得ぬ猫
関西地方に住むMさんは、シャム風の猫に強い思い入れがあった。
以前に住んでいたアパートの周辺に、とても人懐こいシャム風猫の地域猫が住んでいたという。その猫は、毎日アパートの駐車場にいて、最初は近付くと逃げてしまった。
「でも、ある日、庭先の掃除をしていると、木の上からじっとこちらを見ていて、私が『おはよう』と声をかけると『ニャッ』と元気に返事をしてくれたんです」
Mさんは、その日の出来事を夫に話し、毎日猫と顔を合わすたびに夫婦で話しかけた。すると、猫も返事をしたり、近付いて来たりするようになった。
「だんだん庭にある花を愛でに来てくれたり、触らせたりしてくれるようになりました。猫にあまり興味がなかったのですが、『猫ってなんか、自分に似ているな』と思うようになり、同時に、夫婦ともにその猫のことが大好きになりました」
Mさん夫妻は、猫を飼ったことはなかったが、この猫との触れ合いを通じて、「猫を飼うなら保護猫の里親になりたい」と考えるようになったという。当時はペット不可の物件に住んでいたので、どうしてもその猫を迎えることができず悔しい思いをしたが、夫が転勤族だったので、飼育可能な物件に引っ越したら猫を飼うことにした。
■熱意が通じた
その後、Mさん夫妻はペットを飼える家に引っ越し、譲渡サイトで来る日も来る日も猫を探した。
ある日3匹のシャム猫兄妹が写った写真が目に飛び込んできて、その中で1匹だけ面白いポーズをして写っていた子猫に一目惚れした。その子がチャイくんだった。急いで募集元に問い合わせをしたが、「すでに応募多数」とのことだった。しかし、Mさんは夫婦の思いのたけを精一杯伝えた。すると数日後、里親に決定したという連絡があった。
「まだ会ってもいないのに、嬉しさのあまり号泣してしまいました。実際に会いに行くと猫一倍(!?)ご飯をモリモリ美味しそうに食べていて、『うちに来てごはんをたくさん食べて、暖かい部屋で一生幸せに過ごしてほしい』と強く思いました」
■人懐っこい甘えん坊
1月16日、Mさんはお母さんと一緒にチャイくんを迎えに行った。コロナ禍のため職業柄出向けない夫は、その日はビデオ通話で自宅から施設の内覧をしたそうだ。チャイくんたちが団体に保護されてから10日ほど経っていた。チャイくんは、施設にいる時は他の子と一緒に走り回ったりご飯をモリモリ食べたりしていた。帰りの車内ではとても大人しく、静かすぎて心配になるほどだったという。
「どうやら寝ていたようで安心しましたが(笑)リラックスしていて驚きました」
家に到着してキャリーの扉を開けると、チャイくんは「ああよく寝た!」というような顔でゆっくり起き上がり、外に出てきてキョロキョロ辺りを見渡した。猫じゃらしを手に持っていた夫に「遊ぼう!」と言わんばかりに近づいて、さっそくじゃれ始めたのにも驚いたという。
「兄妹や他の猫たちと別れても、寂しがって鳴くことはなかったのですが、夫や私と一緒にいたいようで、行く先々についてこようとしました」
動物病院で診てもらうと、しばらく人が育てていたようだった。3匹とも毛色に特徴があり、ベッドもきれいだったので、ブリーダーが捨てたのではないかと獣医師は言った。皮膚糸状菌症という皮膚病にかかっていて、ひどい環境で飼育されていたということも分かった。
■令和生まれ、YouTubeを観るのが日課
チャイくんは食欲旺盛で、好き嫌いがない。何でも食べてしまうので誤食に注意しているという。
「YouTubeを観るのが日課になっていて、『令和生まれの子』という感じです(笑)」
チャイくんを迎えてから、夫婦二人の日常は笑いの絶えない賑やかなものになった。日中は、いつもMさんのそばにいてちょっかいを出したり、おしゃべりしたりしてくれる。家にいる時間が長いMさんの良き相棒になっているそうだ。
「コロナ禍で外出もままなりませんが、おうち時間がとても楽しく、幸せな毎日です。チャイが生まれた日は、偶然にも私の誕生日と同じ頃で、神様が私たち夫婦にチャイをプレゼントしてくれたのだと思っています」
(まいどなニュース特約・渡辺 陽)