「地方配属にされたという投稿、心の中で防人歌と呼んでる」地方配属に嘆く東京人を防人になぞらえた投稿が話題
「毎年TLを賑わせる『東京生まれ東京育ちなのに地方配属にされた』という投稿、心の中で防人歌と呼んでる。」
地方配属に嘆く東京人を防人になぞらえた投稿がSNS上で大きな注目を集めている。件の投稿は素材メーカー勤務のアラサー男性、さえちゅんさん(@ryman_saeba1919)によるもの。
防人歌(さきもりのうた)とは、飛鳥時代に東国から派遣され九州沿岸防衛の任についた防人たちが詠んだ和歌のこと。家族との別れや任務による困窮を嘆く内容が多く、特に
「唐衣 裾に取りつき 泣く子らを 置きてそ来ぬや 母なしにして」(唐衣にすがって泣きつく子供たちを置いてきてしまった。母もいないのに)
というものが有名だ。地方配属される東京人と防人…言い得て妙なさえちゅんさんの投稿に対し、SNSユーザー達からは
「大学出て福岡に配属された時『太宰府15km』って表示に涙が止まらなかった。『あぁ、左遷させられたんだな』と。」
「今なら海外に飛ばされるリスクは相当低いですからまだマシなのかも?」
「まっとうな会社だと思います。東京目線、東京の感覚から抜け出すために必要かと。だって東京ってかなり特殊な地域ですよ😲!」
「都落ちとか言われます。」
など数々のコメントが寄せられている。
さえちゅんさんにお話をうかがってみた。
--地方配属される方たちの投稿をご覧になる際のご感想をお聞かせください。
さえちゅん:率直に言えば、「今年もこの季節が来たか…」というものです。
多くの企業では4月~8月ごろに新入社員の配属発表や実際の配属が行われるので、これらの投稿はこの時期に多くみられます。新たなステージへの期待と希望に溢れた呟きの中に、縁もゆかりもない地へ赴く不安を吐露した呟きが紛れていたりするのですが、例年「そうなる可能性があるのがわかって入社したのではないか?」とか「そんなの自己責任ではないか?」とか「だったら最初からそういう会社を受けなければよかったのではないか?」などといった指摘を受けることも多く、時にはこれらの集中砲火に耐えられずにアカウントを削除してしまう方もいらっしゃいます。
正直、ここで指摘されている内容は全く持ってその通りだと思いますし、この指摘の内容を否定するつもりはありません。ですが私自身も縁もゆかりもない地に勤務した経験があり、その際の不安や心細さも痛いほど理解できる部分もありますので、例年のこの流れには胸が痛むことがあるのも事実です。
--さえちゅんさんが地方配属を言い渡された際のご心境をお聞かせください。
さえちゅん:配属を言い渡された際の心境は、正直なことを言えば「マジか…!」って感じです(笑)。喜怒哀楽で表される感情というよりは、一瞬空白が出来るような感じというか。
私自身、就活時は転勤の可能性は認識していましたし、地方勤務も覚悟して腹を決めて就活をしていました。なので当然、頭では理解しており腹落ちもしているのですが、実際に言われるとポカンとしてしまって…(笑)。
敢えて言葉にすれば、頭での理解に心が追い付いてないような状態かと。だから心が追い付くまでは感情の空白が出来たり、不安定になったりするのではないかと思います。
ですが実際に行った感想は、「案外、何とでもなるな」というものです。勤務した土地は縁もゆかりもなく、知人や友人も誰一人としていない地域だったのですが、それ故に自分と向き合うことが出来たかなと思います。余暇の時間をほぼすべて自分の為に使えたので、今までやろうと思っていたけど出来なかった勉強や読書、趣味などをガンガンやりました。
また私の職場は工業地帯の中にあったので、他の企業の工場とも直に関わることが多く、製造や物流、貿易などの現場に多く触れることが出来ました。百聞は一見に如かずではありませんが、教科書やニュースで知ったものが実際に目の前で動いている様子を見るのは素直に面白かったです。
そうやって過ごしているうちに、自分は意外と「住めば都」タイプの人間ということを発見し、俗にいう「一皮むけた」状態になったのかなと思います。もし自分がずっと若いまま単身で、経済的な不安もないならば、色々な地域を転々とするのも面白そうだなと思ったりもします(笑)。ただし、これは私が偶然そのタイプであっただけで、万人がそうとは限らないとも思いますが……。
--これまでのSNSの反響についてご感想をお聞かせください。
さえちゅん:件の呟きにいただいた反応としては先ほど申し上げた指摘と同様の反響をいただくことが多かったです。
ですが私がそうであったように、こういう不安や心細さに関する呟きをする人も、頭の中では正論を理解している人が多いんじゃないかと思うのです。でも、人間は心がある生き物なので、完全にはロジカルに生きられない。必ず心の中には「そうは言っても…」というような行き場のない思いがあったりするものではないかと。
こんな風に仕事のために縁もゆかりもない地へ赴き、遠く離れた故郷や家族や友人を想う、そういった呟きがまるで万葉集の防人歌のようだと思い、このような呟きをいたしました。
一説では防人歌が集められた背景として、防人の制度が揺らぎ始めた奈良時代中頃に、防人に関する情報収集の一環として行われた可能性があることが指摘されております。昭和~平成の働き方が揺らぎ始めている現代にも、もしかしたら同じことが言えるのかもしれません。
このような理由から、外部の方へ「これから遠くの地で働く若人をどうか暖かく見守ってほしい」という思いと、配属される方へ「勤務地では大過なく、無事に任期を終えられますように」という願いを込めて、万葉集の編者の一人と言われる大伴家持の「今替る 新防人が 船出する 海原の上に 波なさきそね」という歌を追記させていただきました。
話は飛躍しますが、大伴家持の詠んだ歌には他にも「新しき 年の始の 初春の 今日降る雪の いや重吉事」というものがあります。これは万葉集の最後を締めくくる歌であり、彼自身最後の歌ともいわれております。この冬は全国的に寒波に見舞われ各地でも降雪が観測されておりますが、皆様にとっての2022年が、この降り積もる雪のように良いことがつもり重なる年になる事を願います。
◇ ◇
引用した反響にもあったが、東京は首都であるがゆえに日本の中でもかなり特殊な地域。一度はじっくり地方から日本を見渡してみるのもよい経験かもしれない。
(まいどなニュース特約・中将 タカノリ)