始まりは「幽霊が焼けと言ったから」? 奈良の夜空を焦がす炎と花火…大スペクタクルな「若草山の山焼き」
毎年1月の第4土曜日に行われる奈良の伝統行事、若草山の山焼き。山肌を焼き尽くす炎と花火、その壮大な眺めは人々を惹きつけて大賑わいです。今年(令和4年)は1月22日に行われる予定です。
若草山は標高342メートルのなだらかな山で、奈良市街から見ると笠を三つ重ねたような形をしているので三笠山とも呼ばれます。一般に「どら焼き」といわれるお菓子を奈良や京都、大阪などでは「三笠饅頭」と呼びますが(どら焼きと三笠饅頭がまったく同じものかどうかは諸説あります)、まさにそういう形をした山が三つ重なってるんですね。
そしてそもそもなぜ山を焼くようになったのかというと、これも諸説あるのですが「幽霊が焼けと言ったから」なんだそうです。
若草山の山頂には鶯塚古墳という大きな前方後円墳があって、そこから出た幽霊が「1月に山を焼かないと良くないことが起こるよ」と言ったのだとか。それで若草山に火を付ける人が続出して、1738年には奉行所が「放火禁止」のお札を立てたなんて記録もあるようですが、それでも収まらなかったといいます。
勝手に燃やすと近隣の寺社にも火の手が迫ったり危なくてしかたがないので、「それでは麓の東大寺、興福寺、それに奉行所が立ち会った上で安全に山焼きをしましょう」ということになった、のだそうです。
現在の山焼きの様子は?
16時45分、春日大社が飛火野に設置する「春日の大とんど」から火をもらう「御神火奉戴祭」から始まります。その後、水谷神社、野上神社で祭礼があって、18時15分から花火が打ち上げられます。そして18時30分、山麓から一斉に点火され、山焼きが始まります。
燎原の火、という言葉がありますが、麓から線状に燃え広がった火は瞬く間に山腹を駆け上がり、およそ30分から1時間で若草山を焼き尽くします。近くで見るとまさに山火事といった勢いで、「これってええのん?ホントに大丈夫なん?」と不安になるほどです。新春の奈良の風物詩、まさに古都の夜空を焦がすような勇壮な光景ですね。
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【注意】2022年は新型コロナウィルス感染予防のため、奈良公園周辺からの観覧は事前予約制になっています。なお、この予約は昨年12月25日で終了しています。また例年よりも花火の時間を縮小し、18時15分から山焼きの点火が行われます。また、山焼きの様子はライブ配信される予定です。詳しくは奈良県の公式ホームページをご覧ください。
時間を圧縮して見せる、山焼きの写真
山焼きの様子は、近畿エリアではたいてい翌日の新聞に載りますね。山全体が赤々と燃えていて、その上に花火が上がっている写真です。ただしこれは現地でリアルタイムで見るとこんな風には見えません。花火と山焼きは同時に進行しませんし、また山焼きの火は麓から徐々に上がっていくわけで、山全体が一気に燃えたりしないからです。
これは「多重露光」という写真のテクニックです。花火の時間から山焼きの点火、そして全体に燃え広がって終わるまでの間に何度も撮影をして、それを重ね合わせているのです。つまり、時間を圧縮して一気に見せているということですね。
デジタルカメラが出来る以前、フィルムの時代には、フィルムを送らないで一コマの画面に何度も写し込むという方法などで撮影していました。もしその途中で不意に強い光が入ってしまったりしたら失敗ですから、まさに一発勝負です。デジタルの時代になってからは、何枚も撮っておいて後で画像編集ソフトで合成することができるようになりました。とりあえず三脚などでしっかりとカメラを固定して、最初から最後までアングルを変えないようにさえ気をつけておけば比較的簡単に撮れます。
山焼きは奈良の街中のどこからでも見えますが、人気の観覧場所はやっぱり間近に見られる飛火野でしょうか。距離が近いので迫力があります。ただ、写真を撮りたい場合にはちょっと人が多く、また意外と木が邪魔になったりします。撮影に徹するのでしたら平城宮跡の方がいいかもしれません。目で見るにはちょっと距離が遠いですが、望遠レンズだと花火も含めていい感じに収まります。また場所が広いのであまり混み合うことも少ないと思われます。
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一年で一番寒さの厳しい時期、しかも夕暮れから宵にかけてという冷え込む時間帯です。くれぐれも防寒対策を万全にして、ぜひお出かけください。
(まいどなニュース特約・小嶋 あきら)