新型コロナ「今の分類には限界がある」状態が悪くても軽症に分類されることも 米国内科専門医が指摘
「新型コロナで「軽症○人」という報道がありますが、今の分類は「肺炎」に特化した分類なので実際には軽症ではないことがあります。
鼻水や咳だけの方もいますが高齢者で
・発熱や食欲不振で急性腎障害
・感染で心不全が悪化
・衰弱して立ち上がれない
これらも肺炎がなければ「軽症」に分類されます」
と、ツイートしたのは米国内科専門医で、米国で新型コロナウイルス感染症患者の治療にあたっている安川康介医師。
投稿には、現在の日本の重症度分類(厚生労働省)が引用されていました。日本には「コロナは風邪」と言う人もいますが、安川医師は、オミクロン株は確かに軽症の人が多いが、現在の重症度分類では分かりにくい。「状態の悪い人はもっといる」と言います。それはなぜなのか聞きました。
日本の重症度は肺炎の有無によって決まる
--日本の新型コロナウイルス感染症の重症度分類はどのようにして決められたのでしょうか。
安川医師「新型コロナウイルス感染症が最初に流行した中国から、主に肺炎を伴う感染症で、多くの場合呼吸不全を伴うと報告されました。そのため、2020年のパンデミック開始当初の段階で、日本の新型コロナウイルス感染症の重症度分類は、肺炎の有無や酸素の必要性によって決められました」
--肺炎でなければ、かなり辛い症状があっても「軽症」とされることもあるのでしょうか。
安川医師「『軽症』にもかなり幅があって、発熱が続き、咳が出て、下痢や嘔吐を繰り返して脱水になり、急性腎障害になっても、肺炎がなければ分類上は『軽症』になるのです。しかし、軽症だから入院させなくていいというわけではなく、実際には、その方の状態、基礎疾患の有無や社会的背景を考慮して総合的に判断されます。肺炎がある場合は、中等症II以上(酸素が必要)であれば必ず入院させた方がいいと考えます」
状態が悪くても「軽症」に数えられる可能性
--現行の重症度分類では、真の重症者数は分からないということですね。
安川医師「重症度分類は肺炎に特化しているので限界があります。オミクロンの特性(動物実験では、デルタに比べて肺で増殖しにくいという報告がある)とワクチン接種者が増えたことにより、以前よりもはっきりとした肺炎が見られない患者さんが増えたように思います。特に、高齢者で新型コロナウイルスに感染した人は、はっきりとした肺炎が見られなくても入院が必要なケースがあります」
--肺炎でなくても入院が必要な人もいるのですね。
安川医師「そうです。たとえば、発熱や食欲不振、もしくは感染による下痢や嘔吐といった消化器症状で脱水になり急性腎障害が起きている方、新型コロナウイルス感染により心不全が悪化した方、感染症で意識障害がある患者さんがいます。今、米国ではこうした、今までのような肺炎が主体ではないけれど、新型コロナウイルス感染症によって状態が悪くなり入院される方が多くいます。日本では、こうした症状があっても肺炎がなければ『軽症』に分類されるので、ニュースなどで発表される軽症者数、重症者数だけでは一概に感染状況を語ることはできないと思います。新型コロナウイルスに感染して入院が必要になった患者数や酸素が必要な中等症(米国では重症に分類される)の患者数なども重要な指標として考える必要があります」
--ワクチン未接種者で入院が必要になる場合、どんな症状が主流なのでしょうか。
安川医師「症状は多彩です。ただワクチンを接種された方に比べると、ワクチン未接種の方は、典型的な新型コロナウイルスによる肺炎で入院される方が今でもいます」
「自分が良ければそれでいい」という問題ではない
--分類上ではなく、実際のところオミクロン株に感染しても軽症のことが多いのでしょうか。
安川医師「若くて、基礎疾患のないワクチン接種者は、確かに新型コロナウイルスに感染しても死亡するリスクは非常に低いと言えます。特に、若くて、3度目のブースター接種を受けた人は、発症しても軽症のことがほとんどでしょう。ただ、高齢者や免疫機能が低下している人やワクチン未接種者は、感染したら重症化するリスクを抱えています」
--オミクロンに変異したのを機に、新型コロナウイルス感染症は「風邪になった」と言う人もいますが。
安川医師「『デルタに比べて病毒性が低下した』とか『弱毒化した』と言っても、ブースター接種が進んでいない日本では、感染者の絶対数が増えれば入院しなければならない人や重症化する人が増えてしまいます。感染者の増加により医療は逼迫し、新型コロナウイルス感染症ではない病気の診療にも影響が出て来ます。実際に米国では既にそうなっていて、感染が広がり過ぎたため、交通や物流、教育など、さまざまな社会生活に影響が及んでいます」
--個々ができることとは何なのでしょうか。
安川医師「新型コロナウイルス感染症をただの風邪と軽視をせずに、かといって必要以上に怖がってもいけません。手洗い、マスク、距離、換気など、重要な感染予防策は変わりません。特に、若くて基礎疾患がなく、ワクチン接種をした人は個々人のリスクは大きくないにしても、高齢者をはじめとした重症化リスクのある人も社会で生活しています。社会全体として感染が広がれば一定数の方が重症化して医療体制に負荷がかかります。新型コロナウイルス感染症以外の診療にも影響が出ること、医療以外の社会生活も止まってしまう可能性があるという認識を共有することが大切です。感染症は一人だけの問題ではないのです」
※この取材は2022年1月18日に行いました。その時点の情報に基づいています。
<安川康介先生プロフィール>
米国内科専門医、米国感染症専門医。ワシントンホスピタルセンターホスピタリスト、ジョージタウン大学医学部内科助教。
(まいどなニュース特約・渡辺 陽)