2月から月4000円賃上げするけれど…看護師の給料の真実「年齢を重ねても収入が増えない」「仕事内容や責任の重さに見合っていない」
政府はコロナ克服・新時代開拓のための経済対策に基づき、看護師等の収入の引上げを決定した。経済を成長させ、国民に分配し、さらなる成長につなげる「成長と分配の好循環」を実現するための対策の1つだ。
収入の引上げの対象は、地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関(※)に勤務する看護職員で、57万人程度(常勤換算)となる見込み。
※地域でコロナ医療など一定の役割を担う医療機関=救急医療管理加算を算定する救急搬送件数200台/年以上の医療機関及び三次救急を担う医療機関
2022年2月から収入の1%程度(月額4000円)の引上げを決定し、10月以降は3%程度(月額平均1万2000円相当)引き上げる仕組みをつくる方針だ。2020(令和2)年賃金構造基本統計調査では、看護師の平均給与は33.8万/月(夜勤手当、時間外勤務手当など含む)で、月額4000円アップすれば34.2万円、12000円アップで35.0万円になる。金額に関わらず、もらえる側として収入の増加は喜ばしいことだろう。
ところで、看護師の給料は世間からどのように認識されているのだろうか。
SNSでは「看護師は高給取りなんだからおごってくれるよね?って言われる」、「やっぱり看護師は給料高いって偏見持たれる」と看護師が発言するように、周囲から給料が高いイメージを持たれることがあるようだ。
一方で、現在の収入に満足している看護師は多いとは言えない。公益社団法人日本看護協会(以下、看護協会)の調査(2019年)によると、離職を考えている看護師のスタッフ(非管理職)は44.9%にのぼる。そのうち、現在の就業先で働き続けるために実現したいと考える項目について、最も多かった回答(43.9%)が「仕事に見合った賃金額」だった。辞めたいと思うスタッフの多くが、仕事に見合った賃金をもらえていないと感じている。
実際の看護師の給料は、若いうちは同年代の中では高い水準であっても、年齢を重ねるにつれて状況は変化する。
平均月額給与を看護師と産業全体で比較すると、20代では産業全体を上回るものの、35歳以降に逆転。この差は徐々に開き、40代前半では約7万円、50代前半には約15万円になる。
このように若いうちは給料が良いものの、ある年齢を超えると産業全体の中で低い賃金水準になる。
看護師の給料が伸び悩む要因として、公的・民間問わず、多くの医療機関の給与体系が、国家公務員の看護職員の医療職俸給表(三)に大きく影響されていることが挙げられる。医療職俸給表(三)は法律で定められた国家公務員の給与体系で、基本的になだらかにしか給料が上がらないという特徴がある。医療職俸給表(三)は職務によって1~7級に分けられ、1級が准看護師で、看護師は2級からスタート。次の3級に上がるためには、看護師長になる必要がある。副看護師長でも新人と同じ2級で、約8割の看護職員が2級のままである。ただし、看護師長になり、3級以上に昇格できるのは約1割強という割合だ。
看護協会は「一般の企業では40歳代で課長職、50歳代で部長職に就く者が相当程度の割合で存在するのに対して、看護職員のうち管理的な立場に就く者の割合は極めて少ない」と指摘する。もともと給料が上がりづらいうえに、昇格できる職員も少ない。結果として年齢を重ねても収入がなかなか増えないという状況だ。
仕事内容についても、多職種より管理する人員が多いケースがある。他の職種と比べると、看護師長に相当する事務課長が「2係以上又は構成員10人以上の課の長」であるのに対し、看護師長は部署内の40~50人の職員を管理しなければならない。にもかかわらず、看護師長は事務課長より賃金は約15万円低い現状がある。
看護協会では、看護職の賃金について「仕事内容や役割・責任の重さに見合っていない」と主張。40代前半での看護職員と一般労働者の賃金格差月額7万円を解消することを目標に、各年齢層での基本給のベースアップと、賃金体系の見直しを政府に訴えている。年齢層として就業者が最も多い40代前半での賃金格差がほぼ解消されれば、結果として生涯賃金の格差縮小につながるという見込みだ。
看護師の認識や現状を考えると、世間の一部にある「看護師は高給取り」というイメージとは必ずしも一致しないようだ。今回の収入の引上げによって、そのギャップはどのように変わるのだろうか。
(看護師ライター・野田 裕貴)