東京湾に浮かぶ製鉄所の島「扇島」で野良猫が大繁殖 「劣悪で暮らせる環境ではない」…愛護団体が順次保護へ
「4匹の子猫たちに餌やりをしてきたが、成長してまた増えてしまう。野良猫たちがかわいそうで…子猫だけでも保護してもらえますか?」
川崎市にある鉄鋼メーカー「JFEスチール」の製造拠点の従業員から動物愛護団体「幸 アニマルサポート」(同市)代表・浜田幸さんのところにこんな相談が入りました。野良猫がいるという場所は、東京湾に浮かぶ人工島「扇島」。広さは、約600ヘクタールで東京ドーム120個以上の広大な敷地です。同市の離島でJFEスチールの高炉があり、JFEスチール専用の海底トンネルでしか渡れず、関係者以外は立ち入り禁止になっています。
浜田さんは、扇島についてこう話します。
「扇島は、以前から川崎市民の間では“猫の島”と呼ばれ、いつのまにか野良猫がいついて繁殖したそうです。また、JFEスチールの敷地は広大で扇島だけではなく、陸地側にも渡田地区、池上地区、水江地区と、全域に数えきれない野良猫がいます。JFEで働く相談者からは、『長年にわたる厳しい餌やり禁止で、おびただしい数の猫たちが死に、また繁殖して増えるというのを繰り返している』とのこと。扇島については2023年度に高炉は廃炉になりその一帯からは人がいなくなるんです。
昨年(2021年)9月ごろから相談はあっても、なかなか具体的に保護を依頼してくる方はいませんでした。私たちはJFEに餌やり禁止の解除を申し入れるなどし、また同時に全国からもたくさんの意見や要望が寄せられたことによって、会社が餌やり禁止を解除。そこで、猫を心配し見守ってきた従業員さんたちもやっと、猫を救うために動いてくださるようになりました。そして、餌やりをされていた従業員の方から野良猫の保護をお願いされ、11月に初めて私たちもJFE構内からの従業員さんが救出してくださる猫たちを保護できるようになったのです」
■2023年度に高炉休止で人がいなくなる…川崎のボランティアが保護に乗り出した
本来ならば現場に足を運んで保護を行うという浜田さん。関係者以外入れないという特殊な環境だったため、従業員さんに扇島から浜田さんが代表を務める「幸 アニマルサポート」の事務所に猫を連れて来てもらうようお願いしました。
「とにかく連れて来ていただいてからお話をと、段ボールに空気穴を開け、脱走しないようにテープでしっかり止めるなど電話で説明。従業員の方は捕獲の際にひっかかれるなどけがをされながらも勇気を振り絞って、まず1匹の猫をJFEの敷地外へ連れだしてくださいました。『チビ子』ちゃんと名前を付けて世話をされていたという雌の子猫。4兄妹の中で一番小さくやせていた子でした」
無事に保護されたチビ子ちゃん。そのまま浜田さんの団体とともにJFE構内の猫の救済活動を行う動物愛護団体「犬猫救済の輪・TNR日本動物福祉病院」に搬送、入院しました。不安でブルブル震えていて、数日間ご飯も食べられなかったといいます。
さらに、チビ子ちゃんの兄妹猫たちも保護しようと従業員にキャリーケースなどを渡し、続いて雄猫の「チビ太」くんも保護されました。元気のなかったチビ子ちゃんは、チビ太くんと会ったことで、安心した様子をみせて少しずつ元気を取り戻していったそうです。
■保護された兄妹猫、従業員からの餌が命綱だった
JFE構内でご飯をもらって何とか生き延びてきた兄妹猫チビ太くんとチビ子ちゃん。従業員さんが隠れて運んでくれる餌が命綱でした。
「チビ子ちゃんたちを連れてきた従業員の方の心配は、餌やりをするなど猫をかわいがっていることが会社に知られたら処罰されるのではないかということ。転勤する可能性もあるし、知られる前に早く連れ出して一般のご家庭でかわいがられるならば子猫たちを保護してほしいとのお話でした。子猫たちは生後1歳未満の若い猫たち。鉄粉をかぶるので身体が黒っぽくうす汚れていました。抱っこをすると手が黒くなってしまって。その後救出されたJFE敷地内の猫たちも、みんな鉄粉で真っ黒でした」(浜田さん)
そして、保護されたチビ太くんとチビ子ちゃんの兄妹猫は、ワクチン接種や不妊手術などを経て里親さんが決まりました。浜田さんによると、チビ太くんには「ポチ」、チビ子ちゃんには「プチ」という新たな名前が付けられたとか。2匹の様子について、里親さんが話してくれました。
「2匹は少し警戒している様子で昼間はほとんどダンボールハウスの中で寝て過ごし、夜は起きて2匹で部屋中を走り回るなど元気に遊んでいます。完全に慣れるまで適度な距離を保ちながら接しようと思いますが、少しだけ触れるようになりました。食事はロイヤルカナンのドライフードとちゅーるの総合栄養食を与えています。ポチは食欲旺盛でよく食べますが、プチは最初食が細かったので直接ちゅーるを食べさせていました。でも、最近は皿に入れておいたドライフードも食べてくれるようになりました。また、2匹ともトイレもちゃんとしてくれて、1回も失敗がないので助かっていますね。お外で育った猫たちなので体調が心配なところがありますが、大切に育てていこうと思っています」
■JFEの猫たち…機械に入り込み巻き込まれて死亡、熱い鉄板で大やけども
JFE構内では、今もたくさんの猫たちが苦しんでいます。浜田さんによると、従業員からの相談が増え、どんな環境なのかも明らかになったといいます。四六時中の騒音のストレスから逃れることもできず、粉じんがかなり舞っているそうで咳の症状がひどい猫も多かったり。工業用水に鉄粉が混ざった水を飲んでいたりしているうえに、長年の厳しいエサやり禁止のため、飢えでやせ細っていたりと、衰弱して短命の子がほとんどだそうです。敷地内では大型ダンプに轢かれて命を落とすことも…。
「犬猫救済の輪・TNR日本動物福祉病院」の代表・結昭子さんもJFE構内で生きる猫たちのことをこう訴えます。
「これまでは不妊手術も行っていなかったので、子猫はどんどん生まれるが環境の悪さからほとんどは育たないし年を取った猫も生きていけないと餌やりさんから伺いました。JFEの担当者さんには、構内にいる猫たちを、私たちや他の愛護団体さん、行政に引き渡してくださるよう何度も要望しておりますが、劣悪な環境の構内に閉じ込めたまま一切敷地外に出そうとしません。ただ、JFE側は広大な敷地にわずか20数カ所に餌を置き、会社で不妊手術をして、地域猫として適正に管理していると主張されています。
製鉄所の劣悪な環境から猫たちを救出保護できるまで、『餌やり禁止の解除』と『不幸な命を生み出さないための不妊手術』は、絶対に必要なことでしたから、それだけでも突破できたのは、全国から皆さまがたくさんの声を寄せてくださったおかげです。寒さが厳しくなっても、今も猫たちは風雨をしのぐ餌場も寝場所もない劣悪な環境下で過ごしています。少しでも温かい場所を求めて機械に入り込み巻き込まれて死んだり、鉄の加工ラインなど熱い鉄板はどこにでもあって大やけどを負います。高い位置の古いパイプから漏れる液体が猫の背中にかかってやけどもするし死ぬこともあると聞いています。痛ましい事故が相次いでいます」
■JFE構内の猫たちを順次保護、シェルターの開設へ
「幸 アニマルサポート」では、製鉄所の環境は、猫が暮らせる環境ではないと考え、保護に取り組んでいます。JFE構内から猫の引き取りを進めながら、順次里親を募集。そして、負傷や病気を持っているなど譲渡が難しい猫たちのために保護シェルターの開設に向け物件の購入を決め、現在クラウドファンティング(READYFOR)で支援を呼び掛けているところです。また、里親のほか預かりボランティアも募集しています。(※子猫の譲渡については車で30分位までの範囲の方)。里親希望や預かりボランティアについてのお問い合わせは、幸 アニマルサポート「yukianisapo2220@gmail.com」まで。
(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)