飼い主が認知症で入院、家に置き去りになった猫を保護 乳がん末期で余命わずか…ボランティア「最期を看取りたい」

埼玉県内で猫の保護活動に取り組む「ハピネスねこ譲渡会」。今年初めての保護は三毛猫のとみこさんでした。推定10歳を超える高齢猫。昨年12月26日、飼い主のおじいさんが認知症で入院し、室内でひとりぼっちで取り残されていました。おじいさんの入院を聞きつけた近所の夫婦がとみこさんに玄関先で餌や水をあげていたといいます。

しかし今年に入り、とみこさんの食欲がなくなり、1月2日には全く食べなくなりました。そこで、近所の夫婦が動物病院の先生に相談。先生を通じて「ハピネスねこ譲渡会」の代表・海老塚貴子さんのところに保護の依頼があったのです。

「保護依頼は、私が15年ほどお付き合いのある動物病院の先生を通じてでした。とみこさんにご飯をあげていたご夫婦はおじいちゃんとかねてから交流があったそうです。おじいちゃんは認知症が進んでいたらしく。一人で生活できないレベルになってきたみたいで、26日に入院。その翌日の27日からとみこさんは室内でひとりぼっちになりました。

身内の方はとみこさんの引き取りを拒否されたため、近所のご夫婦が身内の方からかぎを借りて玄関先に餌と水を置いてしばらくお世話をされていたとのこと。年始にとみこさんが何も食べなくなり、ご夫婦自身が保護を考えたらしいのですが、既に6匹の保護猫や保護犬がいたため保護先を探していたそうです」

■近所の住民から保護依頼…ボランティアが三毛猫を引き取る

こうして依頼を受けた海老塚さんは、1月4日におじいさんの自宅へ。近所の夫婦の立ち合いのもと、とみこさんを保護しました。

「おじいちゃんのお宅は一軒家で、外から見ても物があふれているような状態。認知症のためお掃除などができず、かなり散らかっていたようです。許可がないため私自身は室内には入れませんでしたが、お世話をしていたご夫婦のご協力でとみこさんをキャリーに。人懐っこい性格で体調を崩していたこともありおとなしく入ってくれました」

無事に保護されたとみこさん。海老塚さんのところに到着後、用意したケージと暖めておいた猫用ベッドにすぐに入り、しばらくすると安心したように眠ったそうです。

■飼い主にとって心の支えだった三毛猫 乳がん末期と判明

とみこさんは、おじいさんの自宅の庭にやって来る野良猫でした。情がわいたおじいさんは、6年ほど前にとみこさんを飼うようになったといいます。 

「おじいちゃんが住んでいたところは、私が6年ほど前にTNR(Trap/捕獲し、Neuter/不妊去勢手術を行い、Return/元の場所に戻す)をしたエリアです。とみこさんも避妊手術をした子でした。おじいちゃんはもともと猫を飼っていて、死んでしまったところにとみこさんが現われて…おじいちゃんにとって、心の支えになっていたみたいです」

一方、海老塚さんが保護後、とみこさんは乳がん末期だと動物病院の診察で判明。余命はもう1カ月もないと宣告されました。

「とみこさんは、がんが足などにも転移して上皮がんにもなっていました。またおじいちゃんもとみこさんの乳がんの治療で通院していたようです。治らない乳がんだと言われたらしく、それを聞いてどんなにショックだったでしょう…」

保護から数週間経った今、乳がんで体調は優れないもののかなり落ち着いてきたというとみこさん。特に名前がなかったらしく、海老塚さんが「とみこ」と名付けたとのこと。名前を呼ぶと、返事をしたり、ゴロゴロと喉を鳴らしているとか。

また、食欲のなかったとみこさんは、病院で出された消炎鎮痛剤や食欲増進の薬を飲んでからカリカリフードを食べられるように。そうはいっても呼吸は荒く、残りわずかの余生を海老塚さんのところで過ごします。

そんなとみこさんのことを入院先でも気に掛けているというおじいさん。海老塚さんはとみこさんの写真を撮って入院先の人を通じておじいさんに渡してもらっているそうです。 

■高齢者のペット問題 取り残された犬猫たちはどうすれば?

海老塚さんによると、入院したおじいさんのように周りのサポートのない高齢者がペットを飼っているケースが周囲で年々増えているといいます。

「うちの母もアルツハイマー型認知症の1人暮らしで愛犬がいました。もう愛犬は亡くなりましたが、認知症が進む中で愛犬への世話に関しては私たち家族のサポートなしでは無理なものでした。現在、高齢者と一緒に暮らすペットの数は予想を上回るものと思います。何かあったときに家族が残されたペットのお世話をすることが難しい場合もたくさん出てくるはずです」と海老塚さん。

さらに、ペットだけ残された場合になかなか許可が取れず家の中に入れなくて保護が遅れてしまうケースもあり、「人の敷地に入るためには許可が必要であったり、あるいはペットの所有権もあったりと。それが『保護の壁』になっています。特にペットショップで買った猫の場合は、保護に伴う所有権の移行が必要で、その手続きを弁護士が入らないといけません。だから、緊急時にペットの救出で入室ができることがもっとスムーズにいくような法整備などが必要だと感じます」と話します。

今回のおじいさんが入院したケースについては「身内の方の許可があり、とみこさんをすぐに保護できましたが、おじいさんと交流のあった夫婦が近所にいなかったら猫のことに気付かなかったかもしれません。ラッキーでした。たいていは猫を飼っていることに気付かれない場合が多く、そのまま置き去りにされて死んでしまったりすることが少なくありません」。

こうした超高齢社会におけるペットと暮らす高齢者の現状を踏まえ、海老塚さんはこう訴えます。

「高齢者の方は自分に何かあった際にペットを一時的にでも託せる誰かを探しておく、あるいは地域のボランティア団体に相談しておくなど、とにかく誰にも気が付かれず置き去りとなり不幸な運命を動物たちがたどらないようにしていただきたいです。 

何かあった際にペットのための連絡先を誰かに伝えておく、玄関や部屋に貼っておく。まずはそこから始めていただけたらと思います。これは飼い主となった人間の責任です。また、ヘルパーさんや近隣の方もその方にペットを含め関わってほしい。理想は介護する方、近隣、地域ボランティア、行政がペットを最後まで不幸にしないように連携できること。さらに高齢者の残したペットを受け入れる一般のボランティアさんや里親制度のようなものが地域でできればと考えます。

今回は以前からおじいちゃんと猫ちゃんに関わってくださっていた近隣のご夫婦がいたから助けられた命です。優しさや、動物を守りたい気持ちがつながって悲しい思いをする動物がなくなることを願っています」

    ◇   ◇

※1月13日に取材してから10日ほど過ぎた24日、とみこさんが旅立ちました。ご冥福をお祈り申し上げます。 

■「ハピネスねこ譲渡会」では、東武スカイツリーライン「獨協大学駅」西口にて毎週土曜日、猫の譲渡会を開催(夏期、荒天中止)しています。

(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)

関連ニュース

ライフ最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング

    話題の写真ランキング

    リアルタイムランキング

    注目トピックス