相続人が93人存在する「特定空き家」連絡を取るだけで120万円の費用も 他人事ではない相続対策、どうすべきか
「民法等の一部を改正する法律」で令和3年4月に公布されたものの施行日が定まってなかったものについて、昨年12月に施行日が発表されたものがある。いわゆる「所有者不明土地関連法」だ。今回はこの制度に着目してみたい。①所有者不明土地の「発生予防」を目的に相続登記の申請が義務化される法律が令和6年4月1日に施行される。また、②所有者不明土地の「利用の円滑化」のための見直しが令和5年4月1日に施行になる。
①の相続登記については、不思議なことにこれまで義務付けはされていなかった。任意であるのだから所有者の実態が判明しづらくなくなるのは当然だ。改正後は原則、相続から3年以内に登記する義務が生じ、登記しなければ過料が課されることになる。
②の土地利用の円滑化のための改正では、財産管理制度の見直し、共有制度の見直しを行い、すでに利用が困難になっている土地を有効活用できるようにする。こちらの改正のうちで今後大きな影響が予想されるものとして、遺産分割協議を原則10年以内に行わないといけなくなることがあげられる。相続から10年を経過してしまったときには法定相続分通りに相続したものとして登記される。これにより誰が法定相続人であるかを登記で確認することが可能になるのだ。なおすでに10年を経過している相続については2028年3月末まで猶予期間がある。
全国の土地の所有者不明率は20.3%で、面積では約410万ha、すでに九州の土地面積を上回る。(平成28年地籍調査)こうしてみると制度改正は、遅きに失した感もある。
兵庫県姫路市に相続人が93人存在する「特定空き家」がある。特殊な例ではあるが、そうなった原因は過去において適正に遺産分割や相続登記が行われなかったことと、戦前の家督相続から戦後の民法上の法定相続に変更されたことが周知されていなかったことにもあると考えられている。子、親が既に他界していて、相続権は7人の兄弟姉妹に移ったが、それを認識されていなかったことも要因の一つだとされる。姫路市は家系図をつくり相続人を確定させて各人に連絡をとることだけで約120万円もの費用を要したそうだ。(200人中93人が生存)
では、我々は今後の相続対策としてどうすればよいのか。重要なのは生前の法律行為のできるあいだに遺言書の作成、あるいは民事(家族)信託といった遺志の表示を行っておくことにある。もちろん生前贈与を行うことも有効だ。相続税・贈与税のことも考慮しないといけないわけだが、それよりも財産の管理、分割、承継といったことのほうがより重要だと考える。そしてこれらの法律行為は、認知症等によって行えなくなってしまうリスクが誰にでもあるのだ。そして、なにもできずのまま相続を迎えると遺産分割協議というハードルが目前に立ちはだかる。
コロナ禍において将来に対する不安と在宅の時間が増えて、家族会議の場が増えたという話をよく聞く。それならばこの機会に行動を起こす、あるいはコロナ禍の落ち着いた際にはすぐに行動を起こせるよう準備を進めておいてはいかがだろうか。
◆北御門 孝 税理士。平成7年阪神大震災の年に税理士試験に合格し、平成8年2月税理士登録、平成10年11月独立開業。経営革新等認定支援機関として中小企業の経営支援。遺言・相続・家族信託をテーマにセミナー講師を務める。