世界3S都市 ドイツ・ゾーリンゲン、イギリス・シェフィールドに並ぶ中部地方の街
岐阜県関市。県外の人には正直あまり知られていない地域ですが、実は刃物の名産地で、ドイツのゾーリンゲン、イギリスのシェフィールドと肩を並べ、それぞれの頭文字をとり「3S」と呼ばれるほど世界中で知られる市なのだそうです。その歴史は700年にも及ぶそうですが、なぜこの地で刃物が盛んになったのでしょうか。
また、関市を含む岐阜県の長良川流域は、近年「持続可能な観光地100選」にも選出されたとのこと。こちらもまた世界に知られることとなったそうですが、今回はこの関市をめぐる秘密を岐阜県広報事務局(ピーアールコンビナート内)の担当者の方に聞き、ご紹介します。
■古くから伝統工芸が盛んだった岐阜県
岐阜県といえば自然が豊富で、いかにも日本らしい風光明美な風景を想像しますが、聞けばこの豊かな風土に伴って古くから木工芸、美濃和紙、東濃地方の陶磁器などの伝統文化を育んできたのだそうです。
「岐阜県は『清流の国ぎふ』を掲げ、古来から豊かな森とそれを源とする清流に恵まれています。また『清流』は、飛騨の木工芸、美濃和紙、東濃地方の陶磁器などの伝統文化を育んできました。
岐阜県関市の刃物も伝統文化の一つです。関市では現在でも約50社の刃物メーカーと250社の関連事業者が存在し、刃物の一大産地となっています。また、『関鍛冶伝承館』や『せきてらす』をはじめとした刃物と触れ合う施設も数多く存在しています」(岐阜県広報事務局・担当者)
■包丁類の全国シェアは50%超!世界に知られる刀剣の聖地
ただし、木工芸、和紙、陶磁器が豊かな自然にまつわることは想像できながらも、刃物がどうしてこの地に根付いたのかがわかりません。しかし、岐阜県広報事務局の方によれば、刃物もまた自然と密接して作られるためこの地に根付いたとのことでした。
「室町時代、関鍛冶の刀祖とされる『元重(もとしげ)』と『金重(きんじゅう)』が良質な材料を求めてこの地へ移り住んだことから関の刃物造りの歴史が始まったとされています。当時からこの地域は、砂鉄や焼刃土、炉に使う松炭、長良川と津保川の良質で豊富な水があるなど、刀造りに理想的な条件を備えていました。そのため、室町時代中期から末期にかけて300人以上の刀匠がこの地に集まり、日本刀造りに勤しんだとされています。
関の刀は『折れず、曲がらず、よく切れる』日本刀として十全の特徴を持ち、戦国時代にはそれが全国で評価され、織田信長や武田信玄など名だたる武将達に愛用されるとともに、関の刀匠は各地の大名に召し抱えられることとなりました」(岐阜県広報事務局・担当者)
一時、関市では刀剣の生産が衰退した時期もあったそうですが、その高度な技術・品質は日本国内だけでなく世界中で評価されるようになり、現在ではカミソリ、包丁、ハサミといった家庭用の刃物などに、その技術が活かされるようになったそうです。
「関の高い機能性とデザイン性を兼ね備えた包丁類は、全国シェアの50%近くを占めています。その技術は海外でも高い評価を受けており、『ドイツのゾーリンゲン(Solingen)』『イギリスのシェフィールド(Sheffield)』と並び、『関(Seki)』は世界三大刃物産地“3S”としての地位を確固たるものとしています」(岐阜県広報事務局・担当者)
■「持続可能な観光地100選」にも選出
他方、古くから守り抜かれた豊かな自然環境もまた、世界的にサステナビリティの動きと相まって近年改めて評価を受け、岐阜県の長良川流域(岐阜県、岐阜市・関市・美濃市・郡上市)は、持続可能な観光(サステナブル・ツーリズム)の国際認証機関「Green Destinations」に2021年「世界の持続可能な観光地100選」として選ばれました。これは、流域全体で、古くから受け継がれてきた多くの文化を守り、観光の要素を取り入れながら変化させている点が高く評価されたものなのだそうです。
「豊かな自然環境はもちろん、岐阜県関市内の施設では刀鍛冶の様子を見学したり、実際に玉鋼を打つ刃物づくりなど、他ではなかなか味わえない体験をすることができます。
また、県内の天下分け目の関ケ原の戦いの古戦場には『岐阜関ケ原古戦場記念館』がオープンし、その他にも城郭・山城跡など、刃物だけでなく岐阜県には戦国時代に関係する見どころがたくさんあります。新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着いた際には、ぜひ一度岐阜県に遊びに来ていただければ幸いです」(岐阜県広報事務局・担当者)
岐阜県が、ここまで世界中で評価されていることを筆者は知りませんでした。もしかすると筆者はもちろん、あなたが使っている刃物も岐阜県関市のメーカーによるものかもしれません。今後も世界に名を馳せる岐阜県の動向に注目していきたいと思いました。
(まいどなニュース特約・松田 義人)