専門家に望むのは「分からないことは、分からない」と言う誠実さ 豊田真由子が考える第6波との向き合い方

オミクロン株による感染が急増し、まん延防止措置が34都道府県に適用され、緊急事態宣言の発出も議論になっていますが、わたくしは、これまでとの状況の違いなども踏まえれば、過剰となる規制は避けるべきだと思いますし、過度に不安を煽ることも、また一方で、リスクを過小評価することも、ともに妥当ではないと思います。

コロナ渦が始まってすでに2年、大切なのは、必要以上におそれも軽視もせず、世界の状況も含め、現状をできるだけ“正確に”認識し、そして、「リスクはゼロにはならない」という現実を受け入れること、高齢者や基礎疾患のある方などは重症化することもあり気を付けていただくとともに、過剰な規制により社会全体に生じるマイナスが大きいことも踏まえ、できるだけ日常をきちんと回すようにする、という覚悟を持つことだと思います。

オミクロン株による感染の急拡大に直面しているのは、世界各国同じです。そうした国々が、どのように対応してきているか、そして、それはどういう根拠や国民理解に基づくものであるか、といったことも参考にしながら、考えてみたいと思います。

なお、わたくしは、医療現場や政策担当者、一般の方々等、広くお話をうかがうようにしていることはもちろんですが、加えて私的なことになりますが、親類に新型コロナで亡くなった者や、コロナの治療に当たっている医療関係者等もおり、亡くなった方の無念もご家族の悲しみも、医療従事者の大変さ等も、分かっているつもりでおります。それでもなお、現下の状況において、「一国の新興感染症対策とは、どうあるべきか」を考える際には、「国民生活・社会経済の維持と感染拡大防止策は、車の両輪であり、バランスを取る努力をすることが大切」と、改めて強く思う次第です。

■世界と日本の最新の感染動向から見えてくること

2022年1月31日時点で、日本は、新規感染者74136人(7日間平均)、重症者783人、死者48人。なお、これまでの最多は、新規感染者25992人(2021年8月20日)、重症者2223人(同9月4日)、死者216人(同5月18日)です。

現在の世界各国の状況と比べてみると、下記のとおり、1月30日時点(7日間平均)の新規感染者数は、OECD加盟国38か国中、日本の新規感染者数(7日間平均)は、少ない方から5番目、死者数(同)は2番目で、それぞれ上位国の10分の1、30分の1ほどとなっています。

(「まいどなニュース」サイト以外で閲覧されている場合、グラフが表示されないことがあります。その場合は、「まいどなニュース」でご覧いただければと思います。)

 上2つのグラフからは、OECD加盟国の中で、日本の感染者・死者数は、相対的にかなり少ないこと、そして、下3つのグラフからは、世界でも日本でも、現在オミクロン株によって感染者が史上最多を記録している中でも、死者数については、これまでと比較すると、少なくなっているということが、分かります。

もちろん、亡くなられた方やご家族にとっては、それはあまりにも甚大な被害・悲しみであり、相対的に以前より減っているからよい、というような話では全くないわけですが、あくまでも、「全体として、これまでと比較して見ると」ということになります。

■この段階に至っては、「どこまでのリスクを許容できるか」を考えるべき

新興感染症への対応は、ウイルスの感染力・病原性の変化、ワクチンや経口薬の開発・普及状況、社会経済の悪化の度合い等々、状況の変化によって変えていくべきものです。

そしてそれは、「国として、当該感染症について、何を目指すのか」の設定と、「国民が、感染状況やリスクについて、どこまでを許容するのか」という価値判断によって変わってきます。

これについては、「絶対的にこれが正しい」という、ただ一つの正解があるわけではなく、

①国民の多くが、「ウイルスの重症化リスクが低下しているのであれば、ある程度感染が広がっても、できるだけ通常どおり生活したい。そのためには、ある程度のリスクは許容する」と考えるのか、それとも、

②「国民生活がある程度停滞してもいいから、感染拡大をできるだけ抑えてほしい」と考えるのか、によって大きく変わってくる(※ただし、「行われているその対策に、実際に感染拡大抑止の効果がある」ことが前提)ということになります。

現実問題として、リスクはゼロにはなりません。そして、過剰な規制による社会経済活動や国民生活の停滞は、思っている以上のマイナスをもたらします。

■根拠や効果に疑問の大きい規制は、国民に不信感をもたらす

「これまでの個々の対策の効果を検証するべき」という声がありますが、実際の複雑な社会において行われた新興感染症の多くの対策のうち、どれがどの程度、実際に寄与したのか(あるいは寄与しなかったのか)に正確な答を出すのは、実は極めて難しい問題です。非常に単純化して申し上げれば、その他の条件をすべてほぼ同じにした二つの社会において、当該対策を行った社会Aと行わなかった社会Bを、比較検証しなければ、正確な答は出せないので、それは、一定の統計的処理を行うことを前提としても、容易なことではありません。

また、対策の効果という意味では、例えば「飲食店の営業や酒類提供を数時間短縮すること」の感染抑制の効果や、「会食5人はダメだが、4人はOK」というルールの有用性等については、率直に言って、大きな疑問があります。

それに、感染の波というのは、基本「増えたら必ず減る」ものなので、その意味でも、例えば「第5波の急減は人流抑制の成果」とする説については、「時期が重なっただけとも言えるし、明確なエビデンスは無いよね・・。対策は違えど、どこの国も増えたら減ってるよね。」という指摘自体は当たっています。

「科学」が人々の疑問や信頼に応えようとすることはとても重要ですが、特に新興感染症を巡っては、すべてのことに明確な一つの解が存在するわけではなく、どんなに優れた“専門家”であってもその時に「その時点での最適解」が分かるわけでもない、という現実の認識と、そして「分からないことは、分からないときちんと言える」ことが、真の専門家の誠実さというものだと、私は思っています。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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