ウイスキー文化の変遷… ハイボールを否定する戦前のウイスキーの広告が話題に
ハイボールを否定する80年前のウイスキーの広告がSNS上で大きな注目を集めている。
件の広告はサントリーウイスキーが昭和17年に雑誌「中央公論」(中央公論新社)に出稿した
「ウイスキーのほんとの味を生かした飲み方は生(き)のまますするやうにして飲むか、冷水でうすめて飲むかです。炭酸水で割ると、炭酸水の好きな人は別だがウイスキーの持っている深い味が死にます。」
というもの。傍らには同社の「サントリーウイスキー白札」とおぼしき挿絵が書かれている。
戦後はトリスバーから現在の角ハイボールに至るまで、サントリーウイスキーがハイボールブームをけん引しているが、戦前にはまったく推奨していなかったという衝撃の事実。明治、大正期からバーテンダーとして活躍した秋田清六や浜田晶吾によると戦前の本格バーではすでにハイボール(ただし氷は入れなかった)の飲み方は定着していたというが、当時の酒飲みたちの間でウイスキーの飲み方について相当な喧々諤々があったことがうかがえ興味深い。
この広告を紹介したインターネット専門古書店「古書森羅」(@kosyosinra)の投稿に対し、SNSユーザー達からは
「平成『サントリー角ハイボール!』
昭和17年『…』」
「確か開高健先生が寿屋時代に流行らせたのではなかったでしょうか?」
「良いウイスキーはストレートで飲んでももちろん美味しいし、ハイボールにするとまた違った表情が見える、水割りでも腰が折れない。
そう思ってるハイボール大好きなスコッチファンです
要は外野が『これが本当の飲み方!』なんて言うのはナンセンスですな」
「80年後、何度目かのハイボールブーム。白州のハイボールはウマい。80年前のサントリーがなんと言おうと異論は認めない(笑)。」
など数々の驚きの声や考察が寄せられている。
古書森羅の担当者にお話を聞いた。
ーーこの広告をご覧になった際のご感想をお聞かせください。
古書森羅:仕事柄たくさん古い雑誌広告を見ていますが、たった80年でこんなに変わってしまうことに驚きました。
ーー今回のSNS上の反響についてご感想をお聞かせください。
古書森羅:実は私自身はまったく飲めないので、お酒がお好きな方の感想を見てハイボールが愛されていることに感動しています。
◇ ◇
サントリーホールディングス株式会社の担当者にもお話を聞いた。
「ご指摘の広告が作成されたのは80年以上前のことで、当時ウイスキーは日本人にとってもまだ馴染みのない物でした。
生活に定着していなかったウイスキーの魅力を伝え・お客様に試していただくために、日本の洋酒文化を切り開いてきた我々の先人達が、大変苦労して生み出した広告のひとつであり、ウイスキーの歴史の貴重な1ページだと考えています。
多くの時間を経て、ハイボールを提案している現代とは考え方が違うかもしれませんが、ウイスキーの歴史のひとつとしてご理解をいただきますようお願い申し上げます。」
◇ ◇
80年前の酒飲みたちはどのような思いでウイスキーを味わっていただろうか。また80年後の酒飲みたちはどうだろうか。こんな想像をめぐらせるのも、文化と歴史に根差したお酒の一つの愉しみ方に違いない。
(まいどなニュース特約・中将 タカノリ)