政治家でマリオが一番うまいと豪語した故海部元首相 ファミコンブームへの理解に再び脚光 「教育的効果は大きい」と答弁していた

1月9日に亡くなった海部俊樹元首相。1960年の初当選以来、自民党の要職を歴任し、平成初期の1989年から1991年にかけて政権を担当した政治家だが、今SNS上ではそんな彼が1980年代のファミコンブームに示した理解が大きな注目を集めている。

きっかけになったのは「府元晶」「竹谷新」の名義でも知られるゲームライター、ゲイムマンさん(@geimman)の

「ファミコンブームの頃、子供たちへの影響が国会で議論されたことがある。

海部俊樹元首相は当時文部大臣だったが、スーパーマリオブラザーズを自らやり込んだ上で、『こういうのを全部強制的に辞めさせるのも、時の流れに逆らうことになる』『教育的効果は製作者が考えた以上に大きい』と答弁した。」

という投稿。ゲイムマンさんにお話をうかがった。

後年、雑誌のインタビューで、「私は政治家で一番マリオが上手い」と豪語するほどだった海部元首相。2020年に香川県で「ネット・ゲーム依存症対策条例」が施行されるなど、いまだに個人的な印象や不正確な情報に拠ってテレビゲーム害悪論を振りかざす政治家は数多い。「そんな人たちに海部俊樹さんの爪の垢を煎じて飲ませたかった」というゲイムマンさんの投稿に対し、SNSユーザー達からは

「そういえば最初に読んだひらがなはファミコン版聖闘士星矢の隠しパスワードだったなぁ 日常生活よりも頭使うしBGMも良く出来てるから、運動と睡眠不足に気を付ければゲームは良いと思う」

「私は子供の気持ちとか流行りとか、一緒にするゲームの楽しさ知りたくて、Switch買ってフォトナ始めた!結果ハマって、毎日隙間時間見つけて一緒にやってる。ゲームで釣るのも一つの方法。ハマる理由もわかるし、ゲームの世界にもマナー違反、禁止事項はある。好きな事を奪わずに分散させる方法はある」

「ゲームは敵!みたいに言う大人もいるけど 『ワクワクするものを届けたい』と思って作ってくれる大人もそれを認める大人もいる。ゲームは立派な文化。」

「海部元総理はどこまでクリアしたのか気になる>スーパーマリオブラザーズ」

など数々の共感の声が寄せられている。

ゲイムマンさんにお話をうかがってみた。

ーー海部元首相のこの答弁を聞かれた際のご感想をお聞かせください。

ゲイムマン:海部さんがこの答弁をしたことは、新聞かテレビで知ったと思います。1986年のことなのではっきりとは覚えていないのですが、後に海部さんが首相になったとき「あのときの文部大臣が!」と思い、嬉しかった記憶があるので、文部大臣時代から好感を持っていたはずです。

香川県の「ネット・ゲーム依存症対策条例」が話題になったときに、この海部さんの答弁を思い出しました。私は今、香川県を舞台にしたゲームを作っているのですが、登場人物のセリフの中でこの話を取り上げようと思い、当時の答弁に加え、手元にあった雑誌「マルコポーロ」(文藝春秋)の「ゲームの極楽」という記事を参照しました。例のツイートは、このセリフを基にしたものです。

「マルコポーロ」は「ファイナルファンタジーVI・3DO発売直前特集」と書かれているので、1994年3月頃発売の号だと思います。この中に海部さんへのインタビューが載っています。

ーー当時のゲーム害悪論についてはどのように感じておられましたか?

ゲイムマン:当時の害悪論については、以前私が「ゲーム批評」(マイクロマガジン)という雑誌で記事を書く際に調べたのですが、「週刊平凡」(マガジンハウス)1986年3月14日号に、ゲームに対する様々な意見が紹介されていました。

その中には、「あんなゲームは自分のことしか考えないでやるものだから“いじめ”につながっちゃうんです」「性格がねじれて、人間の会話ができないような子に育っちゃうんじゃないか」といったものがありました。

一方で同誌では、「これからの世代が生きていくためにはコンピュータと英会話は必需品」「要はいろいろな遊びがあることを教えてあげること。ファミコンは“時代の洗礼”のひとつ」といった声も紹介されていました。

ーーゲームの教育的効果や子供の人格形成にあたえる影響について、ご意見あればお聞かせください。

ゲイムマン:私は医者でも学者でもないので、はっきりしたことは答えられません。ただWHOですらこの問題に関する質問に対して、はっきりしたことは答えられなかったのです。

香川県の条例等では、WHOでゲーム障害(ゲーム依存症)が疾病として認定されたことをゲームへの規制の根拠にしています。しかしゲームメディア「AUTOMATON」の「『ゲーム障害』の認定根拠となる文献をWHOが示せず。専門家の問い合わせから波及」という記事によると、オックスフォード大学のPrzybylski教授が、疾病に認定した根拠をテドロス事務局長に尋ねたところ、WHOから「あなたはこの問題に対する多くの文献を知っているはず」と、はぐらかすような返答をされたそうです。

さらにWHOで疾病認定に関わっていた人物が、「ゲーム障害を認定するよう、各国、特にアジアの国々から甚大な圧力を受けた」と述べているとのこと。

そもそもWHOが定義した「ゲーム障害」も、「プレイ時間をコントロールできない症状が12ヶ月以上続く」など、かなり極端な状態に限定されています。にもかかわらず香川県の条例などはこれを拡大解釈し、18歳未満の全ての児童に規制を強いています。

香川県教育委員会が県内全ての小中学生に配ったパンフレットがありますが、この中では「ゲーム依存症とはWHOが認定した国際疾病」という言葉のすぐそばに、「ゲームをやりすぎると脳が萎縮する」という、「ゲーム脳」仮説(2002年に日本大学文理学部の当時の教授が発表し、マスコミや教育現場で広まった偽科学)に基づく文言を載せ、中国の大学生が書いた論文から引用した脳の写真を載せています。

ちなみに「ゲーム脳」については、私がかつてCESA(一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会)の「ゲーム白書」に寄稿した解説文が、ネットに上がっています。

ーーこれまでのSNSの反響についてご感想をお聞かせください

ゲイムマン:ツイッターを始めて12年以上経ちますが、今まで私のツイートへのリツイート数は、最高で100ちょっとくらいでした。ですからリツイートが1万を超え、いいねが4万を超えたのには驚きました。インプレッション数を見て、「こんなに多くの人がツイッターやってるんだ」とあらためて感じました。

多くの方々が海部さんを思い出し、若い方々もその業績に興味を持ち、逝去を悼むきっかけになったのであれば幸いです。一方で、国会の議事録を調べて、海部さんの答弁はそこまでファミコンに好意的ではなかったのではないかと疑問を呈した方がおられました。この方のリプライにもかなりリツイート、いいねがついていますが、これは良いことだと思います。

私のツイートがもともと香川県議会への不信をきっかけに作ったゲーム中のセリフを基にしていますし、またツイッターなのでかなり端折っています。ですから議事録のオリジナルを多くの人が見るのは、良いことだと思います。ただし、あの議事録だけだったら、私もこういうセリフを書かないですし、ツイートもしなかったでしょう。

8年後の「マルコポーロ」で既に首相を経験し大物政治家になっている海部さんがテレビゲームの特集記事に出て、文部大臣当時の経緯を語ったり、3DOでゴルフゲームをプレイしたり。これを読んだらかなり印象が変わると思います。議事録に載っていないと指摘された「教育的効果」についても、この記事の中で海部さん自身が、国会で答弁したと述べています。

またこの記事によると、海部さんは国会でファミコンの影響が話題になったのをきっかけに、「実際にやってみてからでないと答えられないと思い、やり始めた」そうです。

ゲーム害悪論を声高に唱える人々は、単に自らのゲーム嫌いを、他人に押しつけているに過ぎません。そう考えると、海部さんがもともと特にゲーム好きではなかったにもかかわらず、息子さんに教わりながらファミコンをプレイして、ああいう答弁に至ったということに、むしろあの答弁の価値があるのではないかと思います。

◇ ◇

ファミコンが1980年代に物議を醸したように、現代もさまざまな新しい社会問題が発生している。ただ若者文化やマイノリティーにすり寄ればいいというのではないが、海部元首相のように真摯に世の変化に対応しようと姿勢は今の政治家たちにもっとも欠けている資質ではないだろうか。

(まいどなニュース特約・中将 タカノリ)

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