貴金属の高騰はいまに始まったことではありませんが、意外なところにも影響を与えていました。歯科医で吉本興業所属の芸人でもある”パンヂー陳”こと、陳明裕さんによると、治療した金歯は絶対に捨ててはいけないそうです。本題に行くまで少々時間が掛かりますが、今回はタメになる話です。独特の”パンヂーワールド”に触れてみてください。（聞き手・山本智行）

ーーきょうはちゃんと「歯にまつわるタメになる話」を聞かせてくださいね、先生。

陳明裕（以下、陳）：任せて下さい！それやったら、この前、ついに出てきたんで、その話にしましょか。

ーーもう“出た出た話“はいらないです。お化けも、お通じも、コロナもやりましたから。

陳：いやね。実はうちの診療室に、あの“イソップ童話”でおなじみの“泉の女神”が出た、ときのような場面に出くわしたんですよ。

ーーそんなわけ、ないでしょうが。それに世間ではよく間違えてはりますが、あれに出て来る泉の神はギリシャ神話に登場するヘルメース神。ですから実は女神ではなく、男の神様なんですよ。

陳：えーーっ、僕が子供のころ読んだ「良い子の絵本」にはきれいな女神さまが泉から現れてましたよ。それが男だったってことは、あの絵本の神さま、はるな愛さん的なメイクをしてたってことですか！？

ーーしてたって、誰が絵本に登場する神様に女装させるんですか!?罰当たりますよ。おそらくヘルメースは旅人の守護神とも言われているので、木こりが旅先で斧を落として困っている所に現れた設定になっているんでしょう。それに日本人の感覚からしたらヘルメースって名前だけじゃ男女の判別がつかないので、女神さまの設定に。その方が絵本らしくなると考えたのでしょうね。きっと。

で、女神さまが出た話はどうなったんですか？まさか「木こりの患者さんが歯が痛い言うて来院しました」というだけではないでしょうね。

陳：いや、うちんとこは街なかで開業してますから、さすがに「木こりの患者さん」は、お見えになった事ないです。

ーーじゃ、なんですのん？

陳：この前、ある患者さんが「歯に詰めてた金属が取れたから付け直してほしい」って、取れた金属片をティッシュペーパーに包んで持って来はったんです。それで先にチェアーにご案内し、順番を待ってもらっていたら突然「あっ！」って声を上げはったんで、聞くと「ティッシュを開くときに持ってきた金属を、うがいする所に落としてしまった」って言わはるんです。

ーーまさか、歯を落としただけの話とちゃいますよね？

陳：で、落とした詰め物を探すため、排水口のフィルターを外してみたら結構、それらしい金属片が何個か引っかかっていて、どれか見分けがつかんのです。

それでね、確認のために「あなたが、いま落としたのは、この金歯ですか？こちらの銀歯ですか？それとも普通の健康保険のこの詰め物ですか？」って尋ねたんですわ。その時に、あっ、いま僕、例の泉の女神様みたいなことを聞いてるなって、思ったわけです。

ーーだからヘルメースは男の神様ですけどね。まあ、いいや。

陳：すると、その患者さんは「先生、私が落としたのは金歯でも銀歯でもなく、この健康保険の詰め物です」って指差しはったので「あーなんて正直な患者さんだ」って感心しました。

ーー陳さん、ご褒美にその歯を金歯に変えてあげたとか？

陳：いえ、心で思いましたが、それは口には出さず「じゃ、虫歯の所は少し削って、これを洗って消毒して付け直しましょうか？」って聞いたんです。すると、患者さん「それをまた口に入れるのはちょっと気持ち悪いですし、治してから随分経ってますから新しくやり直してください」って言うんです。

ーーなんや、タメになる話があるからと言うので聞きに来てるのに、それって、だれのタメになるんですか。

陳：だから「歯の詰め物がダメになる話」ですけど？

ーーそんなんダメ！あ～、アホらし。

陳：待ってください。本題はここからです。さっき「金歯、銀歯、保険の詰め物」という話しましたよね。そのとき、保険の歯が一番安いみたいに言いましたけど、そうでもないんです。

ーーどういうこと？

陳：実際は保険で行う詰め物の金属の多くは金銀パラジウム合金でしてJIS規格で規定されており、金12％以上、パラジウム20％以上含有しています。中でもパラジウムは電子部品や自動車排気ガス規制の触媒などの需要の高まりから10年前は1グラム当たり1000円台だったものが、最近は9500円超えに。金よりも2割くらい高いんです。

ーーへー、陳さん、歯医者さんみたいですね。

陳：そのため、歯科用金属の値上がりに保険点数が間に合わなくなって、所謂、逆ザヤが生じたりしますので、歯医者は金パラを使って保険治療をすればするほど、損する事もあり得る状態なんです。

ーーそんな価値があるとは知りませんでした。

陳：ですから歯医者さんで金歯とかを外してもらったら、そのまま捨てずにもらって帰った方がええです。金歯とはいえ一応、貴金属ですから買い取って貰えます。どうです。「タメになる話」でしょ？

ーー確かに。でも、人の口の中に入ってた金歯なんか買って貰えるんですか？

陳：もちろん。最近では一般の買い取り業者さんでも扱ってる所が増えてきているようです。ただし、かぶせ物が抜いた歯にくっついたままだったりすると、買い取る方は感染リスクもあるし、歯から外したり他の不純物から金やパラジウムを抽出するのに結構、手間がかかるので、小さな詰め物などでは、そっちのコストの方が高くなっちゃうかもしれませんが…。

ーーいやー、きょうは案外いいこと聞かせて貰いました。今度、歯が悪くなって抜いたときは業者さんに買い取ってもらおっと。

陳：そんなこと楽しみにするより、抜かんで済むように毎日、ちゃんとお手入れして下さい！

（まいどなニュース特約・山本 智行）