5年前ビビッときて迎えた保護猫 ペットロス→休職から救ってくれた存在、今では最愛のツレ
兵庫県宝塚市在住Nさんは11年間飼っていた愛猫を急に亡くしたことで、長らくペットロスから抜け出せずにいた。しかし、猫好きはやめられず、地域に住んでいる地域猫や猫カフェに癒しを求める日々を送っていたという。
2015年、仕事で行き詰まり、休職することになった。「心情的に何かに支えてもらわないと立ち直れない」と、追い詰められていたNさん。1カ月ほど経ったある日「それは猫しかいない」とハッと気づき、再び猫と暮らす決意をしたそうだ。
早速、大阪にある保護猫カフェを訪れた。猫部屋に入って一番最初に視界に入ってきたのが「すすむ」という推定1歳ほどのオス猫だった。
すすむは1歳にしては小柄ですばしっこく、お客さんやスタッフの元をチョロチョロしていた。性格は人懐こく、初めてのお客さんにも物怖じせず「遊んでー!!」と擦り寄っていた。たくさんのお客さんを”接待”していたので「営業部長」と呼ばれ、親しまれていた。そして、とても食いしん坊で、スタッフがおやつを手に持っているのを目ざとく見つけ、飛びついていた。
「すすむにひと目惚れした時の気持ちは何とも言葉にし難いのですが、とにかく”ビビッときた”の一言です。だれかの結婚会見のようですが、出会ったその時から”この子しかいない”と感じました」
初対面の場面をいきいきとした表情で語ってくれたNさん。当時、仕事に行き詰まり、停滞していた自分の心を「すすむ」と前向きな響きの名前が勇気づけてくれたともいう。
「勝手に運命を感じ、里親になる決意をしました」
そんなNさん。そのころは、あえてペット飼育不可のマンションを選んで住んでいたため、すすむを引き取るために転居を決めた。物件探しから始まり、引っ越しに少し時間がかかったが、すすむと暮らすための準備は楽しく、Nさんの心は少しずつ前を向き始めた。このころには、すでに復職することが決っていたそうだ。
そして、待ちに待ったすすむのトライアルの日がやってきた。保護猫カフェのスタッフが2人で新居に連れてきてくれた。すすむは、新しい環境に物怖じせず、すぐに慣れてくれた。しかし、保護猫カフェでたくさんのお客さんに愛され、たくさんの同僚猫たちと賑やかに暮らしていたからか、寂しそうに四六時中、Nさんのそばから離れなかったそうだ。
食いしん坊なのは相変わらず。美味しいおやつをもらえるまでNさんの指を甘噛みしていた。あまりにひどい時は、すすむの耳を触ったり、水の霧吹きをふんわりかけたりして、噛むと嫌なことが起こると教えたが、なかなか癖は治らなかった。
そこで「寂しさからのストレスもあるのかな?」と、2匹目を迎えることを考えるようになった。そうして、すすむを迎えてから4カ月後、今度は保護猫カフェから白黒柄の「あさひ」を引き取った。あーたんが加わってことですすむは大喜び。人間への過剰な執着も収まり、それからは落ち着いて過ごせるようになったそう。
一緒に暮らし始めて5年が経ったある日、Nさんが交通事故で緊急入院することになった。実はNさん、近隣にある私たちの団体(NPO法人動物愛護 福祉協会60家)でボランティアをしてくれている。交通事故にあったNさんは、切羽詰まって猫達のお世話を当団体に依頼した。
Nさんが退院するまで私たちは通いでお世話することになった。猫達は健康に問題なく過ごせていたが、異変を感じ取ったのか、普段は人懐こいすすむが物陰に隠れて近づかなくなった。
1週間後、無事に退院し、帰宅したNさんは、猫達に対面した時の事が忘れられないそうだ。階段の上からチラッと、こちらの様子を伺うすすむ。階段を登って再会した瞬間、それまで聞いたことのない声で「ふんにゃ~あ」と一声鳴いたそうだ。
Nさんは左腕を骨折しギブスで釣っていたため、すすむを抱き上げられず右手を伸ばしてなでながら、その場で泣き崩れたという。すすむはその後、Nさんが復職するまでの1カ月間、べったりと寄り添い、片時もそばを離れなかった。そして、半年以上たった今でも、ほとんどNさんから目を離さないそうだ。
「本当に心配してくれたようで、退院後、再会した時の表情が忘れられません。いまでは家族以上の存在。ツレと呼ぶにふさわしい相手になっています」
猫と暮らしたことで、Nさんの生活にも変化が表れ、すべてに前向きになれたと言う。
「すすむとの出会いがなければ、復職もできなかったかもしれません。以前と同じように働けるようになり、すすむとあさひを養うために仕事に向き合える自分になれました。
猫は人に寄り添い、人の心を癒す存在だと思います。特に人間からひどい仕打ちを受けた子たちは、心に傷を負いながらも、再び人間を信用しようとしてくれます。その姿に日々触れることで、人間の心の傷も自然と癒えています。
猫との暮らしは癒しに満ち、勇気や希望を与えてくれると思います。少なくとも、私はそばにいるだけで癒されています」
Nさんは運命を感じた出会いから5年が経った今も、最愛のツレとして猫たちと満たされた生活を送っている。
(NPO法人動物愛護 福祉協会60家代表・木村 遼)