メガネの聖地、福井・鯖江で「メガネが売れない」理由 業者に聞いたリアルガチな事情
国内で流通するメガネの、優に95%以上が作られているという福井県鯖江市。地元の人たちの産業への関わりは様々ですが、この地、鯖江を拠点に展開するメガネブランドも複数あり、金子眼鏡、ayame、EYEVAN、銘品晴夫作、内藤熊八作、三六眼鏡製作所、SABAE・OPTといった人気フレームは全国のメガネ店、セレクトショップなどでも扱われ、技術力の高さやデザインなどで特別な支持を得ています。
言うまでもなくメガネの聖地と呼ぶに相応しい地域で、街中にもメガネにまつわる表示が数多くあり、お土産物などもメガネモチーフのものがいっぱいあります。
一方、意外と少ないように思ったのがメガネの小売店。メガネ屋さんをチラホラ見かけることはありながらも、全国のシェア95%を誇るメガネの聖地としては正直意外で、これはいったいどういうことなのだろう、と疑問に思いました。
そこで今回は、前述の鯖江メガネブランドの一つであり、鯖江市のランドマーク的ショッピングモール、アル・プラザ内に出店しているメガネ店「SABAE・OPT」および「SABAE・OPT アウトレット」の代表・荒谷直嗣さんに、地元のメガネの変遷とリアルな事情を聞いてみました。
■鯖江のメガネ作りの歴史は117年!
まず、荒谷さんにこの地・鯖江で何故メガネ産業が栄え、現在産業に関わる人はどれほどなのかを聞きました。
「鯖江のメガネ産業は今から117年前の1905年に始まったと言われています。鯖江では冬場、雪が降りますから農耕・稲作ができなくなるため『他に何かできることがないか』という理由からメガネ作りが始まったようです。
日本のメガネ作りは、大阪が発祥と言われており、大阪の職人さんを鯖江に招いて、作り方を教わり、そのまま広まっていきました。
現在、鯖江でなんらかのカタチでメガネ作りに関わる業者の数は、統計上の『4人以上の事業者』で250弱とされています。ただ、実際は1~2人でやっている業者が多いわけで、それを含めると、おそらく統計の3倍以上はメガネに関わる仕事をしている人がいるんじゃないかと思います」(荒谷さん)
メガネ産業に関わる業者の事業内容は様々で、プラスチックフレームのみに関わる業者、ブリッジなどの部品のみに関わる業者、プレス業者、卸しのみに関わる業者、荒谷さんのように自社ブランドを立ち上げ、小売店も同時に運営する業者など、これもまたその全体像を掴むことは難しいそうです。
「私自身は地元の小売店の3代目で、もともとメガネだけでなく、時計・宝石などを扱うお店をやっていました。今も時計・宝石のお店も並行して運営しながら、メガネのほうで小売・製造を行う『SABAE・OPT』を展開しています。ただ、地元でよくささやかれるのは『鯖江でメガネは売れない』というもので、やはり地元でのメガネの小売りは、思うように流行っているわけではありません」(荒谷さん)
■“聖地”で「メガネが売れない」理由とは!?
メガネの聖地・鯖江ですが、荒谷さんから「地元ではメガネが売れない」という頓知のようなお話が出ました。筆者はてっきり「メガネ産業が盛んで、『メガネ』という製品に対し、厳しいプロの目を持つ人が多いため、そう簡単には売れない」ということなのかと思いましたが、よく聞いてみると、そういうことではないそうです。
「『メガネに対して厳しい目を持つ人が多いから』ということではなく、『知り合いとか友人のどこかに声をかければタダでメガネが手に入る』『どこかから出てくる』というほうが正しいですね。
また、『メガネに対して厳しい目を持つ人が多い』というのも実は誤解で、むしろ鯖江の人たちは『メガネを知らない人』が結構いるように思います」(荒谷さん)
メガネの聖地なのに、メガネを知らない人が多い!? どういったことでしょう。
「昔はよくお客さんから『オレはメガネ作りに関わっている。メガネのことならなんでも知ってるから安くしろ』とか言われたりしてケンカになることがありました(苦笑)。
地元では確かにメガネ作りに関わる人たちが多いです。しかし、その関わり方は多岐にわたり、部品といった細かい部品の製造のみを請け負う業者さんなども多くいます。そのため、メガネ全体の話となると意外と知らない方が多いように思います。こういった誤解から私がやっているようなメガネの小売店では、一部のお客さんと話が通じない……なんていうことが起こってしまうんですね」(荒谷さん)
■業界の悪しき慣習が残っている!?
また、荒谷さんによればプロ同士の間でも、「鯖江のメガネ業界特有の慣習」に驚くことも多かったとか。
「冒頭でもお話しした通り、うちはもともと時計・宝石・メガネの小売から始まっていますが、一方で『SABAE・OPT』として製造・卸しの業務も行なっています。そういった際、卸し先のメガネ屋さんと話をしていると、『売れんかったら返品するぞ』『陳列している際に、フレームが曲がったら新しいのに変えて欲しい』といったメチャクチャな要望をされることもありました。こういった要望を飲むとなると、例えば10年前に卸したメガネが、10年後に返品されたり、新しいものに変えないといけないということになります。
かつてはそんなムチャに対応したとしても『売れていた』『儲かっていた』のかもしれませんが、残念ながら、今なおこういった悪しき慣習だけが残っているのがメガネ業界でもあります。
私はこういったメガネ業界の矛盾を、自分なりに変えていきたいと思っています。『本気で良いメガネを安く作る』が当店のコンセプトですが、この通り、産地ならではの素晴らしいメガネを、できるだけ安くお客さまにご提供できるようなサービスに努めるようにしています」(荒谷さん)
■メガネを必要とする顧客から喜んでもらえることが嬉しい
地場産業のリアルな状況をお聞きしましたが、しかしそうであっても、荒谷さんは「メガネが好きだ」という思いには変わりがないとも。
「もともと私は機械モノが好きで、元々の時計の店では修理などもやっていました。しかし、メガネというものは、人によっては生活する上で欠かすことができない必需品で、医療用具でもあります。こういったメガネを必要とする方に、販売・サポートさせていただき、喜んでいただけ、報酬までいただけることはとても嬉しくありがたいことです。
こういった経緯から、時計ではなくメガネをメインにするようになったわけですが、メガネに対して、一般の方はもちろん、プロのメガネ屋さんでも意外と知らなかった誤解というものは多いです。『フレームのデザインによって、同じレンズであっても見え方が違う』『レンズは膨張収縮などによって、経年劣化が必ずある』など。こういったことも徹底して考え、今後もメガネを必要とするお客さま一人一人に寄り添ったサービスを行なっていきたいと思っています」(荒谷さん)
荒谷さんの業界への提案、顧客への徹底したサービスは、特に顧客にとってはありがたいことです。この思いに裏打ちされた「SABAE・OPT」のメガネへの本気のこだわり、機会がありましたら是非鯖江のお店で確かめてみてください!
(まいどなニュース特約・松田 義人)