自転車のカゴにいた猫を保護 人も猫も一目惚れする「魔性の猫」が、家族の絆を結んでくれた

 大阪府池田市在住のRさんは高校3年生の冬に悲しい出来事に見舞われた。Rさんが3歳の時から、祖父母の家で飼われていた愛犬のウリちゃんが亡くなってしまったのだ。

 当時、Rさんの家族は「ペット不可」の賃貸物件に住んでおり、ペットを飼うことはできなかったが、祖父母の家に行く度に犬や小鳥とよく遊んでいたそうだ。それだけにウリちゃんの死はRさんの心に暗い影を落とし「こんなに悲しい思いをするならペットは飼いたくないな…」と落ち込んだという。

 やがてRさんが大学生となった頃、両親が一戸建てのマイホームを購入した。家族全員がそれぞれの部屋を持つようになったが、その反面1人で過ごす時間が増え、コミュニケーションをとることも少なくなったという。それまで精神的に辛いことがあると、大好きな愛犬と過ごすことで沈んだ気持ちが嘘のように明るくなっていたというRさん。しかし、その愛犬はもういない。憂鬱な気持ちを解消できない日々を送ることもあったそうだ。

 「単純に動物と触れ合いたい!」

 そう思うと、以前から気になっていた豊中市にある保護猫カフェに足を運んだ。猫を飼った経験はなく、保護猫カフェはとても新鮮だった。初対面でも膝に乗ってきたり、撫でられてうっとりする様子をみて「猫ってこんなに懐いてくれるんだ!かわいい!」と、嫌なことは忘れ、気が付けば猫とおもちゃで遊ぶのに夢中になっていた。

 Rさんは元々、ボランティア活動に興味があったそうで、保護猫活動についてスタッフから話を聞いた。保護猫活動の現状や殺処分についての現状を知り「私にも何かできることはないか」と考えた。そして「保護猫を飼いたい」「ボランティア活動をしたい」と考えるようになった。

 2019年。大学3年生のとき運命的な出会いが訪れた。初めて猫を飼うことになり、お世話が難しそうな子猫ではなく成猫を迎えたいと思い、里親募集サイトを見ていたところ、奈良県にいる1匹の猫を発見。ピンク色の鼻と、前後ろ足すべての足先が白く、靴下を履いたように見えるオス猫で「かわいすぎる!」と、一目惚れしたという。

 しかも、投稿サイトには保護主の背中に乗った写真もあった。Rさんの母親が過去に飼っていた猫も背中に乗る癖があり、母親も心惹かれ、2人で譲渡会に足を運んだ。

 その間、別の譲渡会へも何度か訪れたことがあったが、多くの猫は怖がって縮こまることがほとんど。しかし、Rさんが一目惚れした猫は、ずっと猫じゃらしで遊ぶ強者だった。猫は「警戒心が強くて、ツンデレ」というイメージを持っていたため、とても愛らしく感じ、「ぜひ、家族に迎えたい!」と保護主に伝えた。

 その際、保護主はこの猫を保護するに至った経緯を教えてくれたそうだ。ある晴れた朝、保護主が自転車に乗ろうとすると、自転車のカゴに猫が乗っていたのだという。驚きながらも近づいてみると、1歳ほどの猫で、お腹がすいていたのかすがるように鳴いていた。人懐っこく、逃げる様子がなかったため、保護猫活動をしている知人に相談し、保護することとなった。

 見ると、爪が切られたあとがあったことから「おそらく飼い猫だったんじゃないか」と、聞かされた。Rさんは「こんなに可愛くていい子を捨てるなんて…」と悲しく、やるせない気持ちになった。どこかにトラウマでも残っていないか、と気にもなったが、後日、自宅に迎え入れると、家に入った途端、用意していたおもちゃで遊びはじめ、遊び疲れるとベッドですやすやと眠った。

■保護猫と暮らし始めて、家族にも起こった変化

 想像以上に自由な性格に驚いた。人間に捨てられたのかもしれないと聞いていたので「これからは“楽しく”過ごしてほしい」という願いから「ラク」という名前を付けた。ラクは猫も人間も大好きで、毎日玄関まで送り迎えしてくれるそうだ。

 ラクを迎えてから4カ月後に、もう1匹の保護猫「コト」を迎え、2匹はすぐに仲良くなった。Rさんは当団体で預かりボランティアをしてくれているのだが、ラクは何をしても怒らない、おおらかな性格のため、アイドル的存在で預かっていた猫たちにもモテモテだ。ラクは猫も人間も一目惚れさせてしまう魔性の猫となっているようだ。

 保護猫と暮らし始めて、Rさん家族にも変化が起こった。毎日「かわいい、かわいい」とラクの話題が出ないときはないほど。「きょうはラクとこんなことがあった」「私のほうがラクに愛されている」と、自慢大会は夜な夜な開催されているそうだ。

 一軒家に住むようになり、それぞれの部屋で過ごすことが増えていたが、ラクを家族に迎えたことで「家の中の雰囲気が柔らかくなった」とRさんは感じている。つらいことがあっても出迎えてくれるラクの姿を見ると、全部どうでも良くなってしまうのだという。

 そんなRさんはラクからたくさんの幸せをもらい「猫に恩返しがしたい!」と、ボランティアを通じて、1匹でも多くの猫が幸せに過ごせることを切に願っている。譲渡会で参加者から「本当に猫を飼っても大丈夫なのか」「責任もって世話をできるのか」といった悩みを相談されると、Rさんは決まってこう伝えている。

 「真剣なあまり、なかなか保護猫を迎える決断ができないかもしれないが、そんな方だからこそ大切にしてくださると思います」

 猫と人の幸せを願いながらRさん家族は笑いが絶えない日々を過ごしている。

(NPO法人動物愛護 福祉協会60家代表・木村 遼)

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