美術雑誌にガン無視された異端の催し 大棍棒展 「木を殴りつけ非日常を楽しむんだ」 展示200本中70本が売却済み

打撃音と「オエー」という合いの手が会場に響きます。思う存分棍棒(こんぼう)で木を殴りつけると、汗をぬぐう来場者の表情は晴れやか。会社員の男性(36)は「めちゃくちゃスカッとする。こんな風に全力で何かを叩くことなんでない」と笑みをこぼしました。65樹種で作った200本の棍棒を展示、販売、そして試し殴りできる「大棍棒展」が2月11~20日午前11時~午後7時、大阪市中央区北浜2の北浜Nギャラリー(ホテルTHE BOLY OSAKA地下1階)で開かれています。なぜ棍棒?「試し殴り」がTwitterのトレンド入りするなど異様な盛り上がりを見せる展示の主催者、東樫(あづま・かし)さん(30)に聞きました。

■棍棒作り 畑の杭打ちが始まり

東さんは大阪府富田林市出身。高校中退後、カナダへ渡り、帰国後、会社勤めなど変遷を経て、現在は奈良県宇陀市大宇陀で田畑を開き、ニワトリを飼ったりしながら1人で暮らしています。時折、草刈りや木の伐採などの仕事を請け負いながら、「人類堆肥化計画」(創元社)を著したり、家庭教師で中学生に英語や数学を教えたりと、独自の生活スタイルを築いて山のふもとで暮らしています。

棍棒は里山で暮らす中で、自然と使うようになった道具だったといいます。「畑の杭を打ったり、木を切り倒す時の楔(くさび)を打ち込んだりする時に、クヌギで木槌(きづち)を作ったのが始まりです」。実用のために作った棍棒でしたが、人にあげると「予想以上に喜んでもらえた」といい、様々な樹種の原木を削り、今回の展示を行うことになりました。会場を貸してくれたホテルTHE BOLY OSAKAの間宮尊ゼネラルマネジャーは高校時代の友人です。持つべきものは友達ですね。

■思い切り殴る。非日常を楽しんで

棍棒は手に入りやすいカシ、ケヤキ、クヌギから希少なヒトツバタゴ、ビワまで、製材所の協力も得て多様な姿形を取りそろえました。東さんは「樹種によって重さや色合いも異なる。持ってもらったら違いが分かる」と話します。確かに手に取ってみると、ずっしり重いものから、ひょいっと持ち上げられるもの、樹皮の荒々しさや木肌のきめ細かさまで異なる趣きがあります。そして、「(棍棒の持つ)暴力的なところも魅力。思い切り殴ることって、普通ありませんから」とにっこり。そうです。今回の展示では、棍棒で思い切り木を殴りつけるコーナーもあります。意味わかりませんか?わかりませんよね。

間宮さんが美術雑誌に案内を送りましたが、返事はありませんでした。世間が棍棒にどれだけ関心があるのか、分からないまま展示はスタートしましたが、すぐにTwitterで反響を呼び、「試し殴り」がトレンドワードに。「試し殴りしたい」「試し殴りという試着のような気軽さ」と殴りたい衝動にかられた善男善女がコロナ禍にも関わらず訪れました。1日10本、3千円の手頃なものから6万円の希少な樹種のものまでどんどん売れ、6日目までに70本がはけ、売り上げは約70万円。東さんは「こんなに人が来てくれるなんて想像しなかった」と笑みを浮かべます。

プレゼントとして買って行く女性や、誕生日プレゼントに購入する男性がいたと言います。東さんは「持ち手を丸く削るのは割と大変。『案外難しいことしてるんやな』と思ってもらえたのかな」と話します。入場無料で図録は1000円。試し殴りは無料でできますが、音がホテルまで響くため、午後3時までしかできないのでご注意を。

(まいどなニュース・伊藤 大介)

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