泣きじゃくるメダリストを笑顔に変えたカメラマンが話題 「こんなエピソードがあったとは」
「いや、そっちが泣くのかー! 力が抜けるわ」ーー北京五輪スピードスケート女子団体追い抜き(パシュート)で銀メダルとなった高木美帆、菜那、佐藤綾乃の3選手がこんなセリフを口にしながら泣き笑いする瞬間をとらえた写真が話題です。撮影したカメラマンに話を聞きました。
■号泣→泣き笑い、引き出したカメラマンは
写真は、共同通信社が17日午後3時すぎ、ニュースサイト「47news.jp」の中で配信したカメラマンコラム「レンズ向け不覚にも号泣 高木菜ら3選手も泣き笑い」の中の1枚。
15日に行われたパシュート決勝。最終コーナーで最後尾の高木菜那選手が転倒し、平昌に続く金メダルを逃した直後のセレモニーでのことでした。カメラマンが「いいですか」と静かに声を掛けると3人は「いいですよ」。目を真っ赤にして肩を組む3人の姿をファインダー越しに見たカメラマンは、レンズを向けたまま泣き始めてしまいました。そんなカメラマンの姿に気付いた3人が泣き笑いしながら発した言葉ーーそれが冒頭の「いや、そっちが泣くのかー! 力が抜けるわ」でした。
カメラマンはこの時のことをコラムに「不覚にもぽろぽろと泣いてしまった」「この舞台にたどり着くまで、懸命に練習し、激走した姿を思い出して、涙が止まらなかった」とつづっています。
ニュース映像では号泣する高木菜那選手を美帆選手、佐藤綾乃選手が抱きしめる姿が何度も流れましたが、こんなやりとりもあったとは。ネットユーザーからは「いい写真」「泣ける」「この写真にこんなエピソードがあったとは」「3人が泣き笑いしていた理由が分かった」などの声が上がりました。
■「嫁からは『感情が素直に出る』と言われています」
撮影したのは共同通信社ビジュアル報道局写真部の写真・映像記者、大沼廉さん(35)。
まいどなニュースは18日午後、北京で五輪取材を続ける大沼カメラマンに国際電話し、日本で話題になっていることを伝えると「びっくりです。まさかそんなことになっているとは」と驚きを隠せない様子でした。
号泣していた3人の突然の笑顔は現場でも話題になったらしく、同僚や上司からは「お前、あの状況で3人を笑わせるとは。どんな一発ギャグ持っているんだよ」「どうしたらあんな写真が撮れるの」と声を掛けられたそうです。
ネット上には「このカメラマンは熱い心を持った人なのでは」といった声もありました。これまでの取材でも思わず涙してしまった瞬間はあったのでしょうか。
「それが、何回かあります。2012年に入社し、その5月に行われた大相撲魁皇の断髪式の取材に行かせてもらいました。大相撲が好きだったこともあり、場内に魁皇の最盛期の試合の実況が流れたとき、我慢できずにボロボロと泣いてしまいました。2014年の広島土砂災害の翌年、慰霊式典で遺族代表の方のあいさつを聞いているうちにシャッターを切るのもつらくなりました」
野暮を承知で、大沼カメラマンは普段から涙もろいところがあるのか尋ねてみました。「嫁には感情が素直に出て分かりやすいと言われています。恥ずかしいのですが感動的なドラマを見て泣くこともよくあります」。ここまで語ったところで「そう言えばまだありました、思い出しました」。
「平昌(ピョンチャン)パラリンピックでアルペンスキー男子立位の三沢拓選手が途中棄権した際、ちょうど目の前でコーチが三沢選手を出迎えました。悔し泣きする三沢選手をコーチが抱きしめている姿を見て、泣いてしまいました」
今回のパシュート3選手が見せた素顔も、心優しい大沼カメラマンだからこそ引き出せた1枚だといえそうです。
◇大沼廉さんプロフィール
2012年共同通信社入社。2016年、当時マーリンズ所属イチロー選手の日米通算安打数4257本世界記録の瞬間をとらえる。五輪取材は2018年の平昌パラリンピック、2020年の東京に続き、北京が3回目。
(まいどなニュース・金井 かおる)