「先日泊まったホテルがすごかった。ほんと神」指差し会話シートを用意したフロントをSNSが称賛「サービス業の鑑」
いつものように筆談を予想してホテルにチェックンした聴覚障害がある女性。ホテル側の応対はそれを上回る行き届いたものでした。「先日泊まったホテルの対応がすごかった。ほんと神」という感激のツイートはSNSで注目され、「ホスピタリティというのはこのようなことなのかも」「相手の立場、気持ちになって相手のことを考える、想像力を働かせるっていうのはこういうことなんだ」と称賛の声がやみません。すべての宿泊施設にこの気遣いが広がり、そして当たり前のことになりますように。投稿したユッケさん(ハンドルネーム)に聞きました。
東京・浅草にある滞在型ホテル「ビーコンテ浅草」にユッケさんがチェックインしたのは1月中旬。予約時に「耳が聞こえないので筆談での対応をお願いします」と伝えていましたが、フロントの担当者は、チェックインの会話シートに加え、部屋の設備に関するチェックリストをまとめた会話シート、災害時用の指差し会話シートを用意していました。実は、ビーコンテ浅草にとって、筆談を希望する宿泊客はユッケさんが初めて。予約時から「ホテルとして何ができるだろうか」と考え、3種類のシートを用意していたそうです。
■後日、感謝のメール
ユッケさんによると、聴覚障害者が宿泊施設を利用する際、問い合わせに内線電話が使えず、何かあるたびにフロントまで行かなければなりません。火災報知機の警報音や館内放送が聞こえないため、災害時に逃げ遅れることへの不安も大きいといいます。「安心して過ごすことができました」と感謝の気持ちをTwitterで公開すると、2万近くのいいねが付き、共感のコメントが相次ぎました。ユッケさんに聞きました。
ーチェックインの際のホテル側の応対が注目されています
「後日感謝のメールをお送りしました。「また泊まりたい」ともお伝えしました。ホテルからは「こういった取り組みをこれからも進めていく」という力強いコメントをいただきました」
ー「他のホテルにも広がって…」と思いを書いていましたが、ホテル以外にもこうした取り組みが広がってほしいですね
「公共施設や交通機関がまず必要になるかと思います。特にアナウンスなど音だけの情報は聴覚障害のある人にとっては分かりません。また災害時の避難所も「今何が起きているのか?」を知るために、このようなツールは必要になるかと思います。市役所では筆談での対応の他に、手話通訳の派遣や遠隔手話通訳サービスといった取り組みがありますが、災害発生など緊急時はどのように対応なのかは分かりません」
ー投稿が拡散したことについて
「今までの私は「耳が聞こえないので筆談をお願いします」とその場に合わせた対応を求めることが多かったのですが、今回の経験をきっかけに自分から「どういうことに困り、必要なのか」を積極的に伝えていかなければと感じました。今回のホテルの対応が他の施設にも普及するよう発信していきたいです」
■東日本大震災の被災経験を教訓に
3枚のシートのうち、「災害時用の指差し会話シート」は仙台市に本社のある河北新報社が2020年に作成したもの。東日本大震災の教訓を共有し、地域住民らと一緒に次の地震・津波に備える巡回ワークショップの中で、生まれたアイデアといいます。震災発生直後、避難や災害の情報は音声が中心で、聴覚障害者は情報不足に陥りました。シートは、その振り返りの中からつくられたもので、「電車・バス・地下鉄は動いていますか?」「避難が必要ですか?」などの質問ごとに「はい」「いいえ」が選べ、あいうえお表で筆談もできるなど、災害時に聴覚障害者が自ら情報を得られるようになっています。
ビーコンテ浅草の支配人井田梨絵さんは、ユッケさんを迎える準備の中で、この指差し会話シートを知ったそうです。「恥ずかしながらご予約があるまでこうしたシートについては知りませんでした。安心してお泊りいただくには欠かせないものと考えています」と話しています。
ユッケさんは「気持ちの良いサービスをする・受けるために、多くの人の意見やアイデアが必要だと強く思います。ホテルだけでなく、この施設にもこんな取り組みがあった!というものがあれば、ぜひ広めてほしいです」とコメントしました。
(まいどなニュース・竹内 章)