170匹の猫を多頭飼育していた一軒家を保護施設に…NPO代表に聞く、多頭飼育者=「アニマルホーダー」の実態とは?
埼玉県八潮市にある動物保護施設「NPO法人ねこひげハウス」を運営している代表の石川砂美子さん。170匹を超える猫の多頭飼育の一軒家を引き取り、2011年から同施設を開設しました。現在は、病気や負傷した猫などを保護しながら85匹ほどの猫をお世話しているといいます。
石川さんが保護を始めたのは「アニマルホーダー」との出会いでした。異常な数の動物を集めて飼うが、十分な世話ができない、そんな多頭飼育者である「アニマルホーダー」の実態や、施設を開設するまでの経緯などを、石川さんに伺いました。
■「アニマルホーダー」の男性と動物病院の待合室で出会ったのが保護活動の始まり
--10年ほど前に、アニマルホーダーと出会ったということですが。
「10年前はただの猫好きの1人で、ボランティアにも保護猫活動にも関わっていない生活を送っておりました。1匹の子猫を公園から拾い、猫を初めて飼育したことで猫の本当のかわいさを知ったのです。当時の職場の駐車場に行き倒れた茶色の大人猫がいて、放っておけなく自宅へ連れ帰ることにしました。治療をしてもらっていた動物病院の待合室で、現在の施設の元飼い主いわゆるアニマルホーダーと出会いました。
猫を5匹も連れている年配男性。私の目には異様に映り声を掛けましたところ、人には言えないほどの猫を飼っていると。聞けば100匹を超えるとのこと。そのときは、倒れるほどびっくりしたのと同時に猫好きとしては大変興味があり、また近所だったこともあったので、現施設となった一軒家に後日お邪魔したことが保護をすることになった猫たちとの出会いとなりました」
--一軒家に足を運ばれて、いかがでしたか?
「当時の一軒家にはあふれるほどの猫たちが詰め込まれ、臭い汚い飲水もヘドロのようで・・・かわいい猫たちに会いたい気持ちはかき消され大変悲しい気持ちになりました。もう少し良い環境に整えてあげたい。その一心で仕事をしながら毎日のようにお手伝いに通ったことがボランティアだと知らずに保護活動を始めたきっかけとなります」
--徐々に猫たちを保護しようと働きかけたわけですね。
「はい。飼い主はアニマルホーダー。当時50代のご兄弟でした。知り合いのボランティアにもお手伝いに入ってもらいましたが、『俺の猫だ』だと言われて、なかなか手放してくれませんでした。そこから動物愛護やボランティアの勉強をして、飼い主から信頼を得るためにほぼ毎日お世話に通い、かれこれ4年かかりましたが、1匹をようやく里子に出せたんです」
--どのように信頼を得られたのでしょう?
「何回も通いながら、『かわいがられているよ』と、譲渡希望先の幸せな様子の先住猫たちの写真を見せた上で、『1匹お渡ししてみない』と尋ねたんです。そこで、ようやく1匹を譲渡することができました。さらに、一軒家の猫たちをサポートしようと、任意の動物愛護団体『ねこひげハウス』を作り、後にNPO法人を立ち上げることとなりました」
■アニマルホーダーとは? いわゆるネグレクト「保護したところで終わってしまう」
--いわゆるアニマルホーダーとは、どういうことなのでしょうか?
「自身のキャパを超えてもどんどん保護して増やしていく多頭飼育者のことです。アニマルコレクションとも言われています。お家に入れても世話をしない。ネグレクトで、保護したところで終わっちゃうんです。本人に指摘しても気付かず、集めた動物を決して手放さない。ボランティアさんの中にも多く、『いっぱいいるから引き取ろうか』というと、拒否されます。アニマルホーダーは、外よりは室内に生きているだけで幸せだろうといった感覚で保護をしているのではないかと感じます。
私が出会ったアニマルホーダーのご兄弟も同じです。冷暖房のあるお部屋でお水やご飯などはあるけれども、そのまま冷たい板の間で寝かせていました。また、猫の飲むお水入れは洗った形跡がなくドロドロ。ただ、ワクチン接種やウィルス検査、去勢避妊手術などは行っていました。とはいえ、獣医師から厳しく言われたからやったとのことでした。とにかく彼らは、里親探しをするわけでもなく際限なく猫を集めていたようです」
--こうしたアニマルホーダーと出会ったら?
「そもそも室内で動物を多頭飼育しているのが明るみに出ないことがほとんどです。万が一、異常な多頭飼育者を見つけたら、行政機関の保健所や動物愛護団体に通報して環境改善といったサポートをしてもらうことが必要だと思います」
--現在はNPO法人を立ち上げたあと、多頭飼育者の一軒家を借り上げ猫たちを引き取り、里親探しやお世話、看取り看病やケアをしているとのことですが。
「そうです。2年ほど前に現在の施設を借り上げ、施設に居た猫たちの所有権を移動してもらいました。完全にねこひげハウスの子たちになってからは家賃や光熱費、医療費などを全てこちらでまかなうため、大変ではあります。ただ、飼い主に理解してもらうために、毎日機嫌を伺いながら治療や里親探しの許可を得ていたのが、自由にできるようになったことで精神的にかなり楽にはなりましたが・・・。
一軒家でもともと暮らしていた子たちは、今や10年以上のシニア猫です。腎臓病がほとんどですが、ここ数年は看取りが年間で15頭前後となっています。つらいのは、長年かわいがってきた子たちと看取りや里親さんのところに出すなど、お別れが毎月のようにあること。ですが、寂しい悲しい反面、責任を果たせたと思う安堵感もあります。そして、彼らたちが私にたくさんの病気や介助、介護のやり方を教えてくれます。毎日が勉強です」
■アニマルホーダーから引き取ったキジ白のシニア猫 今も施設で過ごし、里親募集中
多頭飼育者から引き取った猫たちのほか、子猫や病気やけがを負った犬猫なども保護しているという「ねこひげハウス」。代表の石川さんは80匹以上の犬猫と暮らしています。
多頭飼育者から引き取った猫の中で特に気に掛けているというのが、キジ白の福くん(雄)です。11歳のシニア猫。もともと40匹ほどの猫がいた6畳のお部屋に兄弟とともにいたとのこと。母猫は出産して数日後に死んでしまいました。兄弟の中でもひときわ目立つ大柄な猫。同じくらいの大きさの猫にけんかをけしかけたりする少しボス気質なところがあるとか。兄弟猫たちは既に里子に出ましたが、福くんだけ譲渡先が見つからないそうです。
福くんについて「すごくスリスリしてくる甘えん坊な猫ちゃんなのですが、とても抱っこが苦手」という石川さん。「体重は7キロくらいで体が大きく、大型猫が好きな方からの希望はあるのですが・・・里親希望者は大型猫を既に飼っているご家庭が多く、先住猫さんとの相性を見られます。ですので、マッチングが難しく譲渡会に参加してもなかなか決まりません。そんな福ちゃんにも幸せになってほしいので、ご縁をいただける方を探しています!」と話してくれました。
「ねこひげハウス」には福くんをはじめ、里親募集中の猫たちがいます。このほか、ボランティアやサポーターさんも募集中です。
(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)