外猫シロちゃんがお家の子になるまで 今は…ごはんをくれたお婆さんを「お母さん」のように見守る日々

今日はシロちゃんが、診察に来ました。

シロちゃんの筆頭飼い主であるお婆さんは91歳なのですが、軽度の認知症です。そのお婆さんと娘さんのおふたりで来られました。

シロちゃんとお婆さんの出会いは、10年以上前に遡ります。当時、お婆さんのご近所さんで、自宅の周辺にいる猫達のお世話をまめになさる方がおられました。ですので、周辺には5~10匹の猫が行ったり来たりしていました。そして、その猫達は、お婆さんの庭にもやってきていました。

シロちゃんも、いつのころからかお婆さんの庭に現れ、やがて毎日来るようになりました。シロちゃんは逞しく、仲間の猫達と走ったり、ひとりで畑を散策したり。お気に入りの場所は、門柱の上と、家の正面に置いている自転車のサドルでした。どう見ても「ウチの猫」に見えました。

しかし、シロちゃんがお婆さんのお宅の子になるまでには、ここからさらに長い時間が必要でした。というのも、お婆さんの家には、15歳のアメリカンショートヘアのミーコちゃんと、つい半年前に迎え入れたばかりの保護猫ルー君がいたのです。ですから娘さんは、シロちゃんのことは気になるけれども、静かに暮らす老猫のミーコちゃんに負担があってはいけないと思い、すぐさま家の中に入れることをためらったのでした。そして、シロちゃんには外猫をしてもらうことにしました。

お婆さんは元来猫好きなので、すぐにシロちゃんにごはんをあげる仲となりました。お婆さんは、子供の頃にも白猫を飼っておられたらしく、それで気持ちも入ったのだと思われました。

まだ認知症を発症していなかった当時のお婆さんが、ご近所の方から聞いた話によると、もともとシロちゃんは近くの誰かに飼われていたそうです。その方が引っ越すことになり、出発するときにシロちゃんを探されたそうなのですが、外に行ったっきり見つけられず、やむなくシロちゃんを置いていかれたということでした。

そして、シロちゃんは自分の運命を受け入れ、新しく自分を飼ってくれる飼い主さんを探して町を放浪していた…ということのようでした。

このとき季節は春でしたが、それから夏が来て秋が来て…。寒くなってきた頃には、お婆さんは軒下に段ボールを置き、その中に毛布を入れて、シロちゃんの寝床をつくってあげました。しかし、それだけでは寒かったようです。雪の降る夜などは、シロちゃんは屋根に登り、2階の娘さんの部屋の窓をトントンした日もあったそうです。娘さんは「シロちゃん、いつか入れてやろうね」と思ったそうです。

お婆さんがシロちゃんに与えるお食事は、ラーメンライス(!)でした。お婆さんのお孫さんが食べたインスタントラーメンの残り汁をご飯にかけて、与えておられました。そんなお食事でも、シロちゃんは文句も言わずに食べていました。シロちゃんは時折、気を遣ってお礼の手土産にスズメやモグラの子供を持ってきてくれて、家族をビックリさせました。

それから季節は再び春から夏に、夏から秋に…シロちゃんはずっとお婆さんの家に通ってきました。娘さんは、ずっと通い続けるシロちゃんを見るにつけ、「シロちゃんはウチを選んでくれてるんやわ!」ととても光栄に思っておられました。

その冬は、シロちゃんの寝床は昼は段ボールと毛布、夜は家裏の土間になり、古い洗濯機の上に小さなコタツと毛布を置いてもらえることとなりました。ごはんも、近くのホームセンターで買う最安値のドライフードに格上げになりました。

朝になると、土間から外に出て行ってもらうのですが、かなり抵抗されました。しかし、この頃からミーコちゃんがだんだん食べなくなってきて、少しずつ小さくなっていくミーコちゃんを見ていると、娘さんはシロちゃんを家の中に入れてあげることは出来ませんでした。

そしてさらに1年が過ぎた秋、残念ながらミーコちゃんが16歳半で亡くなってしまいました。「ミーコちゃんはずっと家の中で過ごすことが出来て幸せだった」と、娘さんはおっしゃいました。そして冬を迎えたある日、ようやくシロちゃんを家の中に迎え入れる決心をされ、動物病院へつれて行かれました。

シロちゃんは、お腹の毛を剃ると手術の跡があり、避妊済みであることがわかりました。動物病院から帰り、そのまま家の子になりました。シロちゃんはすぐに馴染んで、その夜からお婆さんと一緒に寝ました。以後は、家族はシロちゃんを大切に大切にしておられます。「これまでシロちゃんは厳しい日々を過ごしてきたね、ごめんね。今後は家でゆっくり過ごしてもらいますね。」と娘さんはおっしゃいました。

やっと内猫となったシロちゃんですが、やっぱりお転婆は治らず、よく家出をしています。玄関の扉を開けて出ていくと、もう1匹の家猫ルー君も一緒に出て行ってしまうので、捜索が大変でした。ルー君は見つかると大人しく抱っこされて帰るのですが、シロちゃんは決して捕まえさせてくれず、外遊びに満足するまで帰りませんでした。

シロちゃんは外猫1年目のときにラーメンライスをいただいていたおかげ(?)なのか炭水化物好きになり、家猫になった途端、ガリガリだった身体はみるみるうちにぷくぷくになっていきました。

そして今日は、シロちゃんの健康診断でした。血液検査をすると、中性脂肪の値が振り切れていて、測定出来ないほどの高値となっていました! 遠心分離した血液も、血漿が真っ白でした。中性脂肪が問題ない猫ちゃんの血漿は本来透明なのですが…。

中性「脂肪」というと、脂肪の摂りすぎをイメージなさる方もおられると思いますが、中性脂肪が高くなる主な原因は、糖質の摂りすぎです。そして中性脂肪は、皮下脂肪として蓄積されます。大事なシロちゃんのことなので、娘さんは今日からシロちゃんの糖質制限することにしました。つまり、炭水化物の少ない、なるべく肉がたくさん入ったフードを食べてもらいます。

実はシロちゃんは、お婆さんのことを「面倒を見てあげないといけない」と思っているようなのでした。認知症の進んでいくお婆さんのことは、娘さんもとても心配しておられます。娘さんが仕事で家を留守にするときは、さらに心配になります。でも、シロちゃんが一緒にいてみていてくれると思うと少し安心なのです。

シロちゃんは毎晩、お婆さんのお布団に一緒に入って添い寝します。顔の向きも同じです。そしてお婆さんが起きるまで、お布団の中に一緒にいます。

お婆さんがショートスティに行って家におられないときは、シロちゃんは2階の娘さんの寝室のドアを叩くのですが、娘さんの布団の中には決して入りません。布団の上でずっとフミフミしたり、毛づくろいをしたりしています。お婆さんはシロちゃんにとって子供で、娘さんはシロちゃんにとってお母さんなのかも知れないですね。

本当に、いつまでも元気なシロちゃんでいて欲しい、そしてお婆さんの「面倒」を見ていて欲しいと思います。

あれから世間の流れで、猫達は全員家に入れてもらうようになり、今は外を行き来する猫はいなくなりました。

(獣医師・小宮 みぎわ)

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