本革を加工する老舗メーカーが、まさかの素材でエコな商品を開発「遺せる人や企業でありたい」
パイナップルからつくられた財布やバッグが、エコに敏感な人々から高い支持を受けている。開発したのは「株式会社ナダヤ」(東大阪市)でパイナップルとアモーレを合体させた造語のブランド「ピニャーレ」を展開し、売り切れ続出中という。なぜ、本革メーカーが革以外の製品を手掛けるようになったのか。自己矛盾とも思える背景を取材した。
匠の技で本革製品をつくり続けて来た東大阪の老舗メーカーにとっては、ある種の”革命”と言っていいのではないか。何しろ、革とは全く違う素材で製品開発するという発想の大転換。言わば、創業60年を超える企業のアイデンティティーを否定するようなものだからだ。
しかも、その素材というのが、あの甘くておいしいパイナップルと言うのだから意外や意外。では、どうして革製品専門店が革以外の製品にも着目したのかというと、そこはSDGs、つまり持続可能な開発目標を達成しようとする時代の流れがあった。同社Web事業部に所属し、ピニャーレ・リードマンの肩書を持つ社内の”異端児”武山大輝さんが言う。
「SDGs、ビーガン、アニマルフリーといった考え方に大企業が率先して取り組んでいる中、革製品専門店として長く、いいものをつくってきた私たちに何ができるかと問いかけた結果です。革製品も大切な命を生かし切るという点でエコな面も残していますが、一度革から離れてみては、となりました。それができるのも社内に自由な風が流れているからでしょう」
使われている素材名は「ピニャテックス」と言い、フィリピン産パイナップルの葉の部分を原材料にし、これをスペインのメーカーが生地に仕上げている。その品質の良さからナイキは靴、シャネルは帽子の素材として注目しているそうだ。
「これまで、これといった使い道がなく、燃やすしかなかった葉っぱをいかすことでCの削減につながり、農家の収入にもなっている」と武山さん。なるほど、地球に優しく、農家の財布にもプラスになっているというわけだ。これぞ、まさしくサステナブルではないか。さらに、パイナップルの葉だと、リンゴやバナナなどと違い、90%が植物性由来になるというメリットまであると言う。
ナダヤがパイナップルからつくっている小物は長財布、二つ折り財布などの他に名刺入れ、キーケース、カバン、ポーチ、コースターなど13種類。長財布は6色ある。実際、武山さんはテストも兼ねて赤色の名刺入れを愛用しているが、それを手に取り、角の部分がこすれて傷んでいるのではないかと、なめるようにチェックしたが、全く問題なさそうだった。
「1年以上使っていますが、結構気に入っています。コーヒーをこぼしても大丈夫」と武山さん。手触りは和紙のようで、それでいて軽くて丈夫。耐水性に優れ、耐火性も備えている。
そんなことからエコに敏感な人には大好評。2020年「地球感謝の日」にあたる12月9日に販売を開始して以降、順調に売り上げを伸ばしている。SNSでも「動物の革じゃないものを探していた」との声が多く寄せられており、手作業ということも相まって、需要に供給が追っつかない状態が続いているという。
さらに、このような先駆的な取り組みが評価され、昨年11月15日には、モノづくりの街として知られる東大阪市の中においても一段と価値のある「東大阪ブランド商品」に認定されてもいる。最後に今後の夢や目標を聞くと、こんな答えが返って来た。
「革の未来を創造するメーカーとして、私たちには長年培ってきた技術や誇りもあります。その一方で遺せる人、例え小さな会社でも遺せる企業でありたいと思っています。いまを必死に生きることは大切ですが、いまをおろそかにしてもいけない。身の回りや生活の中でエコな商品を1つ持つことで、変化のきっかけであったり、気づきにつながれば、と思います」
これが本革の老舗メーカーが伝えたいメッセージ。商品の選択肢が多いのは悪いことではない、と思う。
◇革製品専門店「株式会社ナダヤ」
〒577-0824 大阪府東大阪市大蓮東3丁目4-2
電話 06(6720)1522
(まいどなニュース特約・山本 智行)