小学生のニジマス放流体験報じる記事に違和感 「外来種であることを大人は教育すべき」 明治初期に米から移入された歴史
ニジマスが外来種であり、放流により各地の河川の生態系に深刻な被害を与えているという事実がTwitter上で大きな注目を集めている。投稿者に聞いた。
きっかけになったのは信濃毎日新聞デジタルの記事「ニジマス『行ってらっしゃい』 上田市西内小2年生が放流体験 渓流釣り16日解禁を前に」(2月15日公開)を引用リツイートしたイラストレーター、ウラケン・ボルボックスさん(@ulaken)の
「子供にニジマス放流させる前に、大人にニジマスは外来種ですと教育してほしい。『行ってらっしゃい』じゃないんだわ。」
という投稿。
たしかにニジマスはその在来種かのような名称と食用種としての知名度から外来種と気付いていない人が多い。ウラケンさんの投稿に対し、Twitterユーザー達からは
「外来種とは知りませんでした。子供の頃、大水になると滝下の石垣にいて、手で捕まえたりしました。今は釣り堀でいくらでも釣れてしまうし、店でも売っています。在来種に害を与える魚なのですか。」
「これ見た時唖然としましたわ。他のお魚おるやんけ…何故よりによってそこなんだろうか。」
「市民にニジマスの発眼卵を配って育ててもらい『育て鱒ター』として放流する、なんて事業もあります。それも『食育』の文脈で募集が流れてきます。産業化していると、市民の意識もそちらに流れがち。」
「今やニジマスはたくさん品種改良されていて、100円寿司とかで回っている『サーモン』はほぼニジマスを強大化したドナルドソントラウトというものになります…味は確かに美味しく、釣り物としても人気のある魚で好きですが、今後は生息場所を池など管理を強化していくのが必要ではないかなと思います」
など数々の驚きと共感の声が寄せられている。
ウラケンさんにお話を聞いた。
ーーウラケンさんがこの問題をお知りになった経緯をお聞かせください。
ウラケン:長野で行われている放流は、Twitterのタイムラインに流れてきたニュースで知りました。そもそも私はイラストレーターであり、生き物の専門家ではありません。
以前、「侵略!外来いきもの図鑑 もてあそばれた者たちの逆襲」(パルコ)という本を出さないかというお誘いをいただき、どのいきものを取り上げるかは編集さんの方でほとんど決まっていたのですが、その中にニジマスの項目があり、その時はじめてニジマスが外来種であると知った程度の人間です。
しかしその本のために外来種導入・侵入の経緯を調べた結果、外来種の歴史は、言わば人の “業(ごう)”の歴史であり、何かと悪者扱いされる彼らは言わば人の業の被害者なのだと実感しました。
ーー今なおニジマスが各地で放流されるこの状況について、あらためてお考えをお聞かせください。
ウラケン:ニジマスは環境省、農水省による「生態系被害防止外来種リスト」において「産業管理外来種」に選定されている侵略性の高い外来種です。各地の放流は密放流以外は基本的には地元の漁協の協力や管理によるもので、F1という繁殖能力がない個体とされています。
レジャーで釣り人が全て釣り切り、産卵期は梅雨の増水で流されほぼ全滅するとされていますが、在来種の水生、陸生昆虫、甲殻類などを食べることには変わりありませんし、F1種が繁殖できないとしても、逃げ出した個体が越冬し成長するケースもあるようです。かれらは大きくなるにつれ魚を食べる傾向も強くなり、在来種の魚も食べます。産業利用のための放流であるにしても、完全に管理することが難しい自然河川への放流は河川生態系を破壊する行為です。
しかしその放流行為と同じくらい問題視しているのは、ニジマスに限らず、ホタルやその他の生き物を環境教育の一環として子供に放流させ、あたかも美談かのようにメディアが報道することです。放流は先に述べたとおり、外来種、国内外来種の問題を孕んでいます。教育として子供にやらせると子供はそれを正しいことだと思い、大人になって同じことを繰り返し、代々放流が続きます。そもそも環境が悪化して個体が減ったのであれば、その環境改善を先にやらなければいくら放流してもその生物が元のように増えることはありません。
ーーこれまでのSNSの反響へのご感想をお聞かせください。
ウラケン「(ニジマスが外来種だと)知らなかった」という反応が最も多いです。やはりニジマスといういかにも在来種っぽい名前が一因だと思いますが、彼らの本名はレインボートラウトで、明治10年に当時の水産庁の主導でカリフォルニアから食用魚として移入されました。つまりそれ以前は日本にいなかった外来種です。
◇ ◇
ニジマスは広く産業利用されているため完全に日本から排除することは難しいだろう。しかし、せめてこれ以上在来種の生息域を脅かすような無暗な放流がおこなわれないよう、行政は何らかの働きかけをするべきではないだろうか。
なおウラケンさんがニジマスの問題を知るきっかけになった著書「侵略!外来いきもの図鑑 もてあそばれた者たちの逆襲」では他にもさまざまな外来種とそれらが引き起こす問題を紹介している。日常生活で知ることは難しい重大な問題に触れることのできる良著なので、ぜひ多くの方にお読みいただければと思う。
(まいどなニュース特約・中将 タカノリ)