ロシア戦勝曲「1812年」演目変更や演奏中止に賛否 交響詩「フィンランディア」に変更した中部フィルに理由を聞いた

 ロシアによるウクライナへの軍事侵攻から1週間が経った今、ロシアの作曲家チャイコフスキーの大序曲「1812年」の演奏を取りやめる動きが出始めています。同曲はナポレオン率いるフランス軍の侵攻を撃退したロシア軍を讃える内容。演奏の終盤に大砲の音のパートがあり、自衛隊の野外コンサートでは本物の大砲を発射し演奏したこともありました。同曲の扱いを巡り、ネット上ではさまざまな意見が飛び交っています。

■チャイコフスキーの別の曲を演奏「ロシアの文化はリスペクト」

 愛知県小牧市を拠点に活動するプロオーケストラ「中部フィルハーモニー交響楽団」は、3月26日のコンサートで予定されていた「1812年」の演奏は取りやめ、シベリウスの交響詩「フィンランディア」に変更。さらにチャイコフスキーのバレエ音楽「くるみ割り人形」の中から「トレパック」を追加することを発表しました。

 同交響楽団の加藤隆久理事長は「政治や経済界、さらにスポーツ界などでもロシア非難、ウクライナ支援が表明されているが、そのような中で、私たち音楽に携わる者に何ができるかと考えたひとつの答えが、今回の曲目変更です。ロシアの戦勝曲である大序曲1812年にかえてシベリウスのフィンランディアを演奏することにしました。しかしながら、音楽そのものやチャイコフスキーに罪はなく、リスペクトの気持ちは変わらないので、くるみ割り人形の『トレパック』を追加曲として演奏します」とコメントを出しました。

 同交響楽団の広報担当者は、まいどなニュースの電話取材に対し、変更理由は2つあると説明。

 「1点目は世界情勢とは関係ないのですが、『1812年』で共演する予定だった小牧市吹奏楽連盟に所属する高校の吹奏楽部の生徒の皆さんが、まん延防止等重点措置の影響で部活動ができなくなってしまい共演が行えなくなりました。もう1点は、世界情勢を考えて、『1812年』がロシアの戦勝曲ということもあるので、今のこの状況で演奏するには懸念される曲背景かなと議論もあり、それを踏まえて『フィンランディア』への変更に踏み切りました」

 「フィンランディア」は、フィンランドの第2の国歌とも呼ばれる愛国心あふれる作品です。「大国に接し苦難の歴史をたどった同国が、ロシアの支配から自由と独立を勝ち取ろうとする姿を描いています。ウクライナを応援したい思いを込めて選曲しました」と説明します。

 「ロシアの音楽自体を排除する気なのか」という意見が一部にあることについては、「ロシアの音楽を排除しようとか、チャイコフスキーが悪いとか、そういったことは全く思っていません。ロシア音楽を排除せずに、ロシアの文化にリスペクトを持って曲を取り上げようという話になり、当日は追加曲として、チャイコフスキーのロシアの踊りを題材にしたトレパックという曲をやります。トレパックを追加したことで、お客様からもプラスのご意見が寄せられています」としました。

 なお、同交響楽団内では演奏会会場で募金活動を行う案も上がっており、当日までの情勢を見ながら決めるとしています。一連の応対にSNSでは「ロシアの侵攻を批判しつつも、ロシア音楽は排除しないところがいい」「フィンランディアで応援したい」「いい判断だと思う」「粋な応援だ」などの声が上がっています。

■明石市の泉市長もTwitterで言及「私も、予定どおり行く」

 一方、アマチュアオーケストラでは苦渋の選択を迫られた例もありました。

 兵庫県明石市の市民オーケストラ「明石フィルハーモニー管弦楽団」は3月1日、第30回定期演奏会(3月21日開催)の曲目のうち、チャイコフスキーの序曲「1812年」の演奏を中止することを発表しました。

 同楽団は公式Twitterを更新し、演奏中止の理由について「ロシアがウクライナに侵攻した世情を踏まえ、演奏を中止することとなりました」「団内でも『作品に罪はない』『今回の侵攻とは曲の背景が真逆』であることから中止する必要はないとの声もありましたが、『今の状況では演奏するのは抵抗がある』との声が多く中止することとなりました」と苦渋の決断だったことを明かしました。

 演奏会の曲数を減らすことについて、「当該プログラムを楽しみにしていたお客様には大変申し訳ありませんが、ご理解の程よろしくお願いいたします」とお詫び。「その他のプログラムは予定どおり演奏予定となっておりますので、皆さまのご期待に沿えるよう最後まで練習を重ねてまいります。皆さまのご来場を心よりお待ちしております」と投稿しました。

 同楽団の発表を受け、明石市の泉房穂市長も2日、自身の公式Twitterアカウント(@izumi_akashi)で言及。「目玉曲『1812年』の演奏は中止となったが、演奏会そのものは予定どおり。私も、予定どおり行く。よろしければ、皆さんも」と呼びかけました。

■「ロシア勝利の曲、仕方ない」「排除はやりすぎ」

 今回の演奏曲の変更や中止に対し、ネット上では賛否の声が上がっています。

 賛成派の主な意見は「ロシアの勝利がテーマの曲だから」「曲の背景を考えたら仕方ない」「名曲だけどロシア軍を讃える曲」「配慮の一環だと理解します」など。一方、反対の意見としては「ロシアの音楽を排除することになる」「戦前のよう」「敵性文化の排除はやりすぎ」など。中には、現状の侵攻と重なり演者が曲に集中できないのではと演奏者らをおもんぱかる声もありました。

(まいどなニュース・金井 かおる)

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