「たとえ死しても、情報は伝え続ける」廃虚の赤ん坊、産院シェルターの妊婦…キエフから日本語で発信 ウクライナ人男性の思い
ロシアによるウクライナ侵攻が始まって10日目。住宅地への爆撃も続き、民間人の被害も増え続ける一方で、両国による情報戦も熾烈さを増している。そんな中、ウクライナに住む男性が、現地のニュースを日本語に訳し、SNSのTelegramで発信している。ウクライナには総動員令が出ており、男性もキエフの自宅で召集を待つ。3日夜、オンラインで取材に応じ、「いつまで更新できるか分からないが、たとえ私がいなくなっても友が更新を続けてくれる。愛する日本の人たちに、私の目の前で起きている真実を知ってほしい」と声を振り絞った。
「ウクライナ、キエフ州、チャイカ村で爆撃があり、その黒煙のせいで空が見えなくなった」
「ウクライナ、ジトーミル市の学校がロシアの爆撃により破壊された」
ミサイル攻撃を受け、真っ黒に崩れ落ちた集合住宅。室内で上がる炎。煙が低く垂れ込めた映像には「キエフ近郊のボロヂャンカ市 恐ろしい それは『ロシアの世界』。無意味で、残酷だ」とのメッセージが添えられている。5日夜には南部オデッサの産院のシェルターで身を寄せ合う妊婦の様子なども伝えられた。
発信しているのは、サシャさん(47)。ウクライナは親日国として知られ、アニメなど日本の文化に親しむ人も多い。サシャさんも、武士道など日本の文化が好きで、ネットで独学で日本語を学び、日本語を知っている友人らとSNSやメールでやり取りをしてきた。
2月24日早朝からロシアによる攻撃が始まり、地下シェルターに逃げた。母や娘たちはキエフ市内のシェルターに避難し、今のところ無事という。自身は総動員令を受けて、自宅に戻った。3月2日に召集を受けたがいったん待機となり、またキエフに攻め込んでくるロシア軍部隊を発見し次第、召集がかかる予定だという。
侵攻以来、日本にいる知人らからも連絡が入るが、その中で、目の前で起きていることや報じられているニュースと、日本でのニュースの違いを見せつけられた。
「東部の都市ハリコフの状況は、本当に地獄。ロシア軍は容赦なく、誰でも攻撃している。学校もマンションもミサイル攻撃を受けた。もうキエフにも安全な場所はない」とサシャさん。「日本にも、数日後にはオフィシャルなメディアを通じて情報や映像が届くのかもしれない。でも、きっとそれは『やさしく』された情報。ウクライナの真実は、もっと残酷」
日本語ができる友人らとTelegramにグループチャンネル「NEWSウクライナ・ロシア現地から」を作り、現地のニュースや自らが目にした光景を投稿。日本人とも連携して投稿を続けているといい、グループに入れば誰でも情報を見ることができる。
「ロシア兵が来れば、僕も戦場に行く。怖くはない。プーチンの好きなようにはさせない」とサシャさん。「これからは情報の戦いになる。でも全然足りない。いつ召集がかかるか分からない。そうなったら私はもう更新はできないかもしれない」と訴え、こう続けた。
「それでも、私がいなくなってもチャンネルは情報を伝え続ける。リアルな状況を知る人が多ければ多いほど、そして早ければ早いほど、いいと思っている。どうか、私たちのことを知って、一緒に『戦争反対』を言ってほしい。広く知らせてほしい。さもないと、この戦争は世界に広がり、安全な場所はなくなってしまうかもしれない」
(まいどなニュース/神戸新聞・広畑 千春)