渋谷はしぶや?しぶたに?…どちらが「しっくりくる読み方」ですか? NMB48・渋谷凪咲の名字のルーツ
NMB48のメンバ-渋谷凪咲(しぶや・なぎさ)。アイドルというだけではなく、達者なトークで関西テレビ「かまいたちの机上の空論城」など、バラエティ番組でも活躍している。この「渋谷」のルーツは何だろうか。
そもそも「渋谷」は地形由来の名字である。「渋」とは、「渋滞」という言葉に使われるように、流れが澱んでいることを示している。従って、「渋」のつく名字は「渋谷」の他にも、「渋沢」「渋川」「渋井」など、水に関係するものが多い。「渋谷」とは、流れの澱んでいる谷を指している。
ところで、「~谷」という名字は大きく「~たに」と「~や」の2つの読み方がある。「~がい」や「~がや」は「~や」の変化形だ。
そして、この2つの読み方には分布のパターンがみられる。一般的に西日本では「~たに」が多く、東に行くにつれて「~や」が増えていく。これは「~谷」という地名の読み方の分布と同じ傾向である。
ただし、名字の場合、「たに」と「や」の境界線は一定していない。「森谷」「竹谷」の場合は関西・北陸以西は「たに」が多く、東海以東では「や」が多い。「岩谷」では東海北陸までは「たに」が主流で、関東では「や」が多くなり、東北ではほぼ「や」と読む。「松谷」の場合は南関東まで「たに」が多く、北関東では「や」が多くなる。そして、東北ではほぼ「や」である。つまり、境界線こそは名字によって違うが、西日本は「~たに」で、東北では「~や」というのが基本だ。
ところが、「渋谷」はこの法則に当てはまらない。「渋谷」が最も多い青森県では、東北にもかかわらず80%以上が「しぶたに」と読む一方、関西では「しぶたに」と「しぶや」が混在しており、渋谷凪咲の出身地大阪でも3分の2が「しぶや」と読む。さらに西日本でも岡山県では「しぶや」が多いなど、一定しないのだ。
その理由は、最も有名な一族である関東の渋谷(しぶや)氏の影響が大きい。この渋谷氏は桓武平氏で、相模国高座郡渋谷荘(現在の神奈川県大和市)に住んで渋谷氏を称したのが祖。この一族が武蔵国に新たに領地をもらい、そこも谷間地形だったので自らの名字から「渋谷」と名付けた。今の東京・渋谷である。
渋谷氏は源平合戦では源氏方につき、鎌倉時代になると薩摩や佐渡、陸奥などに一族が広がった。従って、本来は東日本の読み方である「しぶや」が全国に広がったのだ。
一方、青森県の渋谷(しぶたに)はつがる市や五所川原市に多く、関西や北陸から北前船で移り住んだ人達とみられる。
◆森岡 浩 姓氏研究家。1961年高知県生まれ。早稲田大学政経学部卒。学生時代から独学で名字を研究、文献だけにとらわれず、地名学、民俗学などを幅広く取り入れながら、実証的な研究を続ける。NHK「日本人のおなまえっ!」にコメンテーターとして出演中。著書は「47都道府県名字百科」「全国名字大事典」「日本名門名家大事典」など多数。