不思議な縁で結ばれた3匹の猫との共同生活 ペットロスに陥った夫婦の元に2匹の保護猫、そして1匹の野良猫

 2020年5月上旬、兵庫県尼崎市在住のAさんは20年間、ともに暮らした愛猫「しーちゃん」を亡くた。最期は看護生活だったので「この子を看取って喪が明けたら夫と連泊旅行でもして人間だけの生活、ってものをしてみよう」と考えていたが、いざいなくなるとどっぷりとロス状態に陥ってしまったという。

 そんなとき、いつものようにAさんの夫が仕事から帰ってくるなり、こう話しかけてきた。

 「何か猫にあげられるもの、ない?」

 事情を聞くと、マンションの駐輪場にあるバイクの座席に、成猫が1匹ちょこんと座っているのを見つけたという。夫は駐輪場を使っていないので、普段なら気にする場所でもないそうだが、その日はなんとなく目が向いたそうだ。

 2人はキャットフードを手にいそいそと駐輪場を訪れた。その猫はすでにサクラ耳。不妊手術を終え、おそらく人にご飯をもらってはいるが、警戒心はそこそこ強そうに見えたという。

 まだ「しーちゃん」の四十九日も明けてない夜の出来事だった。その日から見かければ、ご飯をあげる関係になり、やがて朝も夜も見かけるようになり、1日2回ご飯をあげるようになった。

 しかし、近くにいるとあまり食べないので、ご飯と水の皿を置いて10~15分したら皿を下げにいくというやり方を続けた。そんな生活を数カ月続けているうち「動物のいない暮らしには耐えられない」と思うようになった。

 Aさん夫婦は愛猫の四十九日の直後に開催されていた譲渡会に足を運んだ。その譲渡会でご縁があり、当団体の保護猫「黒の助」と「小梅」の里親になってくれた。初めは怖がっていた2匹も、しだいにAさん夫婦になじんでいった。

 一方、2人は外でご飯をあげている猫の名前を黒の助と小梅のように和名にしたいと考え、こっそり「小春」と命名した。それと同時に「小春との距離感が縮まりそうなら家の子にしたい」と思い始めていたが「まずは黒の助と小梅に家族として認めてもらうのが先。小春はまだ触れる子じゃないから、そうなるにしてもずっと先の事だろうね」と話していたそうだ。

 そうして数カ月が過ぎ、気が付けば年が明けていた。この頃になると、小春はフェンス越しに体を触らせてくれるまでになっていた。暖冬とはいえ、外は寒い。雨降りでご飯を食べに来なかったり、来ても食べが悪かったりすると不安を覚え、何日も会えない日が続いたある日、2人は小春を家に入れる話し合いをした。

 黒の助と小梅を迎えてまだ半年ほどしかたっておらず「新しい子が来ることでストレスにならないか」と、悩んだが「小春に会えなくなったらどれだけ後悔するだろう」と思い、保護することを決断したという。

■初めての野良猫を保護「お願いだからうまくいって!」

 Aさん夫婦にとって野良猫を保護するのは初めて。相談を受けた当団体では、捕獲器の使い方をレクチャーし、野良猫に優しい病院を紹介した。猫を保護する時は、猫同士で病気が感染するのを防ぐ必要がある。しばらくの間、小春を隔離できる部屋を整えてもらい、保護作戦を練った。

 作戦は絶対に失敗したくなかったため、捕獲は慎重に時間をかけた。小春がご飯を食べている横にさりげなく捕獲器を置いて、少しずつ慣れさせていき、捕獲するまでに2週間以上かけたそうだ。

 いざ、捕獲結構というその日。小春がいつもご飯を食べている場所に捕獲器を設置し、警戒されない様にAさん夫婦は建物の隅に隠れて様子を伺った。すると、すぐに小春は姿を現し、捕獲器に入っているご飯を食べるためにゆっくりと、その中に入っていった。

 「お願いだからうまくいって!」

 2人の間に緊張が走った。しかし、小春は肝心の踏み板を踏まずに、ご飯を食べ終わってしまった。

 「あぁ、失敗した~」

 そう思った次の瞬間「カシャン!」と捕獲器が閉まる音が聞こえた。どうやら捕獲器から出る時に踏み板を踏んだようだ。Aさん夫婦は心底安堵した。

 「カシャン!って音がしたときのこと、忘れてないです」

 捕獲された後、小春は怖さからしばらく「シャー!」「フー!」と威嚇していたが、2人は少し収まったのを見逃さず、その足で動物院に直行し、様々な検査を受けた。

 その結果、小春の年齢は8歳以上と判明。両前脚に骨折跡があるが、生活には支障はないだろうとのこと。腎数値は悪いながらも今すぐどうこうなる程ではないということ。さらに軽度の心筋症であることが分かった。歯が悪かったので抜歯をしてもらった。

 しばらく小春は隔離生活を続けた。一方、黒の助と小梅は「あっちの部屋になんかおるね」といった感じで少し気にする程度だった。隔離期間が終わり、本格的な同居生活が始まってからも徐々にお互いを認識していくことができた。

 小春の鳴き声は特徴的で、無理やり言葉で表現すると「ん゛ん゛ん゛~」「る゛る゛る゛~」「ぬ゛ぬ゛ぬ゛~」といったところ。「ニャー」とは鳴かないそうだ。

 おしゃべりな性格でよく独り言を言ったり、人間や猫に話しかけてくるのだという。なぜか夫にだけ「る゛る゛る゛~」「ぬ゛ぬ゛ぬ゛~」と鳴いて起こしにくるそうだ。

 現在は3匹とも程よい距離感を保ち、お互いをストレス要因と感じず、お気に入りのスペースでマイペースに過ごすしている。距離が近づきすぎると、どちらかが鳴いて程よく離れる。幼い黒の助はたまにパンチを浴びるが、ケロッとしているそうだ。小春はシニア猫なりに体に悪いところもあるが、定期検診も受け、薬を飲んで穏やかに過ごせている。

 Aさん夫婦は元々は犬派だったそうで、犬の散歩中に猫を拾い、犬猫同居生活を送っていたこともあったそうだが、いまの生活に満足している。

 「しーちゃんを亡くした時はコロナ渦で外出する気分になれず、余計に動物が恋しくなりました。もしコロナ禍じゃなかったら無理にでも外に出て気を紛らわせながら人間だけの生活を楽しんで、落ち着いたら犬を家族にしていたかもしれませんね。

 しーちゃんが亡くなった後、早々に夫が小春を見つけたのは不思議なご縁です。今は甘えん坊の黒の助、姫気質の小梅、人の側にいたがりな小春と幸せな日々です」

 シニアの野良猫が家族に迎えられることは多くない。不思議な関係で結ばれた親切な夫婦と3匹の猫。末長い幸せを心から願っている。

(NPO法人動物愛護 福祉協会60家代表・木村 遼)

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