先代猫からの贈り物?海辺で一目ぼれした猫、急逝した近所のおばあさんの愛猫 看板猫になった2匹と運命の出会い
七宝、彫金アクセサリーの制作、販売で有名な「本村工芸美術研究所」(鹿児島市)。ジュエリーアーティストの久冨木原(くふきはら)妙さん(37)は、母・睦美さんとともに、ネックレス、ブローチ、ピアス、指輪など、独創的なアクセサリーを次々と生み出し、人気を博している。創作の原動力は、笹かま猫の「なぎたん」(メス、推定3歳)と、額の模様がユニークな「まろたん」(オス、推定3歳)の存在。18歳で天寿をまっとうした先代の「びびたん」(メス)が「悲しむ私たちに2匹を送りこんでくれたのかも」(妙さん)という。先代猫のことや2匹との出会いなどについて、妙さんに話を聞いた。
一昨年(2020年)2月、先代の「びびたん」が18歳で天国に旅立ちました。びびたんとは私が高校生のころからずっと一緒でしたし、仕事で苦労していた時期をともに乗り越えてきた仲。とても飼い主思いな子で、いつも私の仕事をそばで見守ってくれていました。私が仕事しすぎて体を壊しそうになると、代わりに自分が体の具合を悪くして私の仕事をストップさせる、といったこともありました。
私も母も悲しみに暮れ、心にぽっかりと大きな穴があいて、猫は当分飼えないと思っていました。ところが、半年後の9月のある日、運命的な出会いがあったんです。海岸をジョギングしていたら、ぽつんと一匹、青い瞳が美しい野良猫が海辺にいて、目があった瞬間、あっ、これはやばいと。というのも、座ったとき前足を揃えて少しくねっとするところなど、しぐさや佇まいがびびたんにそっくりだったから。
出会って10秒くらいで、その子はゴロゴロと私の足にまとわりつき、お膝だっこで甘えてきました。あまりの可愛さと人なつこさに、一瞬で恋に落ちてしまいました。まわりに母猫など家族や仲間はおらず、栄養失調気味でガリガリだったこともあり、数日後にもう一度行って保護し、うちで飼うことに。渚で出会ったので「なぎたん」と名づけました。
びびたんがいたとき、私は朝晩、お腹にボフっと顔を突っ込んで、おはよう、おやすみを言うのが日課だったんです。なぎたんがうちにやってきて、それがまたできるのがすごく嬉しかったです。
一方、まろたんは、「猫を飼っていた近所のおばあさんが急に亡くなられて…」という知人からの電話がきっかけで、引き取った子です。そのおばあさんが住んでいたアパートは、大家さんも住人の方々も猫を飼うことに理解があり、彼女が亡くなった後も、残された猫は住人の方々が毎日かわるがわる世話をしていました。
■遺品が片付けられた部屋にぽつんといた猫
その猫は「夢」という名前でした。会いに行くと、遺品が片付けられた部屋に、ぽつんとケージが置かれ、そこに夢がいました。何度かトライヤルに行ったそうですが、そばにいつも誰かがいないと寂しがる性格のため、なかなか新しい飼い主が見つからずにいました。
おばあさんは猫が大好きで、夢を飼う前にも別の猫と長年一緒に暮らしていたそうです。その猫が死んだとき、彼女は「もう高齢だから猫は飼えない」と、しばらくは猫のいない生活を送っていたそう。ところが、ある日、野良猫がそのアパートの床下で、赤ちゃん数匹を産んでいるのが見つかり、大家さんが床をひっぱがして保護しました。
おばあさんは「また猫を飼う夢が叶った」と喜び、それで1匹を「夢」と名付けて一緒に暮らすことに。残りの子たちはアパートの人たちが里親を探し、無事もらわれていきました。アパートでは、おばあさんだけでなく、住人さんたちも夢をみんなで可愛がっていたので、おばあさんが急に亡くなられた後も、夢の世話を引き継いでおられたんです。
このまま飼い主が見つからなければ、おばあさんのいない部屋で、ひとりぼっちで過ごすのかと思うと耐えられず、先住のなぎたんとの相性を心配しつつも、夢をうちで引き取り、多頭飼いに挑戦することに。
額の模様がユニークなので、夢改め「まろたん」と命名しました(笑)。最初は部屋に隔離して、なぎたんとは少しずつ慣らしていくつもりでしたが、まろたんは好奇心旺盛ですぐにドア開けをマスターし、ケージに入れておくと鳴き続けるので、なぎたんが「もう出してあげたら」という顔をする始末。そこで自由にしてみると、なぎたんとはすぐに打ちとけました。
アパートの人たちが優しい方ばかりだったからでしょう。人を疑うことを知らず、誰がきても膝の上に飛び乗るので、七宝、彫金教室の生徒さんの間でも人気の看板猫になりました。母も今はまろたんにべったりです(笑)。
2匹はいま、私や母の生活を再び幸せな日々に彩ってくれています。先代のびびたんのことを思い出すと今でも涙が出るけれど、飼い主思いのあの子のことだから、きっと「悲しんでばかりいてはだめだよ。そんな姿はもう見たくないよ」と、天国から私たちのもとへ2匹を送り込んでくれたのかもしれないと、今は思っています。縁あって出会えた2匹との暮らしをこれからも大切にしていきたいです。
【会社名】「本村工芸美術研究所」
【住所】鹿児島県鹿児島市薬師2-26-15
(まいどなニュース特約・西松 宏)