老夫婦の保護した三毛猫、新天地で美猫に成長 施設に転居した叔母から「みぃは幸せものやね。ありがとうね」

 2019年11月、兵庫県川西市在住のTさんは二匹目の猫を家族に迎え入れようとしていた。福岡県久留米市に住むTさんの叔父母からの申し出だった。2人には2017年春ごろからお世話をしていた地域猫がいた。

 「みぃ」という三毛猫で、庭先で子猫3匹を出産したという。まだ小さな子猫を連れているので、心配になりご飯をあげたところ、毎日朝と夕方にご飯をもらいにやって来るようになった。

 そうこうしているうちに、みぃは叔母にとても懐いていったという。子猫達も逃げることもなく触らせてくれたので「こんなに人に慣れているなら、里親が見つからないかな?」と、思うようになった。地域ボランティアと役所に相談し、みぃと子猫3匹を保護することになった。

 まだ小さかった子猫は、2カ月程育ててから譲渡会に参加するとすぐに里親が見かった。母猫のみぃは推定年齢2~3歳ということで里親は見つかりにくいだろうと、避妊手術をして元の場所に戻すことになった。

 ところが、近隣住民の中には糞尿被害で迷惑がっている人もいた。みぃが水を掛けられたりしている様子を見た叔母は「かわいそうで見ていられない!」と、自ら里親となり、家猫として迎え入れたそうだ。

 叔父母とみぃは2年ほど一緒に暮らし、穏やかな日々を送っていたが、高齢な叔父母は福岡県を離れ、千葉県にある施設に入所する事になった。ただ、その施設には猫と一緒に入ることはできず、泣く泣く叔父母は久留米でみぃの新たな飼い主を探すことにした。

 「みぃ、ずっと一緒にいられなくてごめんね。ここよりずっと良いお家を見つけるからね」

 叔父母の息子夫婦や近所の方に飼ってもらえないかを相談したが、なかなか新たな飼い主は見つからなかった。そのころ、大阪に住むTさんの父のもとに「娘さんに飼ってもらえないだろうか?」という相談があったそうだが、当時川西市に引っ越して1カ月程しか経っていないTさんを気遣った父は「無理だと思う」と返答していた。

 その後しばらく、みぃの飼い主探しの話を聞かなくなったので、Tさんは「誰かいい人、見つかったのかな?」と安心していたが、施設に入所するまで1カ月を切ったある日、父より「みぃちゃんの飼い主がまだ見つかっていない」と連絡があった。

 Tさんはその頃には新しい生活にも慣れ、2カ月前から生後5カ月になる黒猫「ウニ」を迎え入れていた。

 「ヨシ、それなら」

 Tさんはウニのお母さん役兼遊び相手になってくれればという期待と、すぐにでもみぃちゃんを迎え入れる環境が整っていたこともあり、急いで叔母に連絡。「みぃちゃんを引き取らせてもらえないかな?」と伝えた。

■飼い主が見つからないと施設に行くことなんてできない

 「みぃちゃんの飼い主が見つからないと千葉の施設に行くことなんてできない。とても困っていたから嬉しい!」と、電話越しに叔母が涙を流しているのが分かった。

 「本当にありがとう!他の誰かでもない、あなたなら、安心…。みぃは幸せになるね」と、心から喜んでくれたそうだ。

  みぃを連れて帰ってくるのに、福岡県久留米市から兵庫県川西市まで車と電車を乗り継いで5時間以上かかった。キャリーケースに入れて運んだが、車内では暴れたり鳴く事も一切せずとてもおとなしくしてくれていた。

 「みぃちゃん、お疲れ様。えらかったね。わが家へようこそ。」

 みぃは「顔も体もまん丸でコロコロしていて、かわいい!お目目もクリクリ!」だった。みぃは家に到着してすぐはカーテンの裏に引き籠って全く出てこなかったそうだ。そして、ご飯も水も口にしない日が丸2日ほど続いた。Tさんはとても心配になったが、3日目の朝、少しだけではあったが、ご飯と水が減っていたのを見て、胸をなでおろした。

 「少しずつ、みぃちゃんのペースで慣れていってね」

 一方のウニはみぃに興味津々で、アクリル引き戸越しに近づいたり鳴いたりしていたが、みぃは全く興味を示さず、みぃが家の環境に慣れるまで1カ月程かかったという。

 みぃの性格は縄張り意識が強く、我の強い女の子。一方でなでられるのが大好きな甘えん坊。家に来た当初は鳴いてもとても小さな声だったのが一緒に暮らして2年経った今、お腹がすいた時や一緒に寝たい時、かまって欲しい時には大きな声で鳴いてアピールするようになった。

 そんな姿に叔母はとても驚いたそうだ。というのも叔父母と暮らしていたころのみぃは何かを要求する時も小さな声で「ニャー」と鳴くくらい。あまり遊んだりする事もなく、とても大人しい猫だったそうだ。

 「そんなみぃではなかったのに…。みぃはとても幸せな暮らしをしてるんだね。甘えてばかりで迷惑掛けてない?ウニ君は嫉妬してない?少し寂しいけど、みぃが幸せになってくれて、本当によかったわ」

 一緒に暮らして2年半が経った現在の2匹の関係はというと、残念だが親子の様にとはいかないようだ。それでも今では仲良く追いかけっこをしたり、少しだけ距離を保ちながらも一緒に出窓で外の景色を眺めたりしている。毎晩Tさんのベッドで1人と2匹、川の字で仲良く一緒に寝ているそうだ。親子の様に仲良くはなくても、みぃは時々ウニを舐めてあげることもあり、お互いのほどよい距離感を保って仲良く過ごしている。

 Tさんは今でも叔母と定期的に連絡を取っていて「みぃちゃんは元気?迷惑掛けてない?ウニ君とは仲良くしてる?」といつもみぃの話題になるそうだ。そして電話の最後に「みぃは大事にしてもらって、幸せものやね。ありがとうね」と、毎回感謝を伝えてくれるという。

 Tさんは毎年クリスマスに1年間のみぃちゃんの行動記録をアルバムにして叔母にプレゼントしており、叔母はとても喜んで部屋に飾っているそうだ。

 Tさんにみぃちゃんを家族に迎えた感想を尋ねると「叔父と叔母から譲り受けた大切な大切なみぃちゃんです。叔母が今のみぃの生活を聞いて安心してくれています。叔母もみぃちゃんも幸せになるお手伝いができていると思うと、私も幸せな気持ちになります。みぃちゃんをお迎えして本当に良かったです」と満面に笑顔を浮かべた。

 1匹の野良猫を保護したことがきっかけで、Tさんと叔父母は強い絆でつながっている。

 今日も1人と2匹、川の字で仲良く寝ていることは言うまでもない。

(NPO法人動物愛護 福祉協会60家代表・木村 遼)

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