手のひらの子猫 命の重みを感じた日 噛まれても噛まれても我慢「この子は人付き合いの方法を知らないんだ」

人間と猫は種族が違いますから、出会ってすぐ家族になれるのは難しいこと。人間同士であっても、喧嘩をしながら徐々に「家族」になっていくものではないでしょうか。紆余曲折が家族の歴史であり、大切な思い出です。

埼玉県に住む一人暮らしの男性・Dさんも、少しずつ猫の「みのりんちゃん」と家族になっていった一人。みのりんちゃんは野良猫のお母さんから生まれ、Dさんの家に生後1カ月半で迎えられた猫です。初めてみのりんちゃんを手のひらに乗せた時、Dさんは「かわいい」と思うよりも責任の重さを感じたそうです。

「この子の命、健康が全て自分の手にかかっているのだと考えたら、子猫がずしっと重たかったです」

この時を振り返り、Dさんはこう言います。

元々猫は好きでしたが、一緒に暮らすのは初めて。しかも一人暮らしですから、すぐに相談できる相手はいません。ですから、最初のころは振り回されっぱなし。仕事があっても「遊んで遊んで」とみのりんちゃんは騒ぎ、気に入らないことがあったら噛みつく。生傷が絶えません。

みのりんちゃんがDさんの家に迎えられ、1週間ほど経った時のことです。みのりんちゃんが思い切りDさんに噛みついたのです。あまりの痛さにDさんは手を離してしまいました。この時、みのりんちゃんはとても悲しそうな表情を見せ、辛そうな声で鳴いたのです。どうやら、噛むことは彼女の愛情表現だったよう。この時のみのりんちゃんを思い出し、Dさんはこう言います。

「この子は自分と同じく、人付き合いの方法を知らないんだと感じました」

Dさんはみのりんちゃんに「家族なんだから見捨てることはないよ」と伝え、これから彼女とどうコミュニケーションを取るかを本格的に模索し始めたのです。猫だからといって言葉が通じないと考えず、ちゃんと自分の気持ちを言葉で伝える。特に褒める時は、とことん褒めました。褒められるとみのりんちゃんも分かるのか、とても嬉しそうな表情を見せるんですよ。

ただ、褒めるのも一苦労。みのりんちゃんは虫取りが好きなのですが、食べられては困ります。変なばい菌や寄生虫がいるかもしれませんからね。でも、虫取りを禁じるのは可愛そう。そこで、みのりんちゃんが目で虫を追い始めると、「見つけてくれたか!やったぞ!すごいぞ!」と褒めてから、虫をそっと外に逃がすようにしました。この方法なら、みのりんちゃんは好きなことを止めなくても済みます。

でも、時には先に虫を捕まえてしまうことも…。大きなカマキリをくわえて来た時には、さすがのDさんもビックリ。みのりんちゃんは褒めてもらえると思ってからワクワクした表情でDさんを見つめています。この時もDさん、みのりんちゃんを盛大に褒めて、カマキリを逃がすことに成功しました。みのりんちゃんは「わたし、やったのね!」と満足げな表情だったのだそう。褒めるのも大変です。

こんなドタバタな日々が始まって、間もなく3年。みのりんちゃんとDさんは最初と比べると、各段にコミュニケーションが取れるようになりました。「おいでー」と呼ぶと、気が向けば来てくれるし、「ダメだよ」と言うとちゃんと止めてくれます。

みのりんちゃんもDさんに伝えたいことがいっぱい!「今からベランダに行くよ」「そこに虫がいるよ」「トイレが終わったよ」等々、全部をDさんに伝えようとしてくれるんですよ。他の人が聞いたら全部「にゃー」にしか聞こえないかもしれませんが、Dさんはほとんど分かるのだそう。

「コミュニケーションが取れた時が一番幸せですね」

気付けばDさん、みのりんちゃんを迎える以前の孤独感がまったくなくなっていました。猫が1匹増えるだけで、こんなにも賑やかになるのかと心底ビックリです。その反面、自由な時間はゼロになってしまいましたが、そんなのは気にしない。

今のDさんの願いは、みのりんちゃんが元気で健康に過ごしてくれることだけ。病気になっても人間の言葉を話せませんから、よく観察してあげないとと考えています。みのりんちゃんもそう考えてくれているのは分かりますから、Dさんにたくさん話しかけるんでしょうね。

不器用でも、できることからコミュニケーションを取っていく。これがDさんが実践した、猫と家族になっていく方法だったようです。これからも2人仲良く過ごせますように。

(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)

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