「衛生管理の欲求」「運動欲求」「狩猟欲求」「縄張り欲求」…人と異なる「猫ちゃんの要求」を知っていますか
みなさんは愛猫ちゃんの「欲求」について考えたことはありますか?「欲求」とは生理的・心理的に不足や不満が生じたときに、それを満たすために行動を起こそうというものです。たとえば「食欲」は空腹という不足感によって、食べ物を食べたい、胃袋を満たしたいという欲求がはたらくことを意味します。欲求が不満足だと、生きていく上でストレスになったり、場合によっては生存が困難になったりすることもあります。愛猫ちゃんの欲求についてマスターしておくことは、素晴らしい飼い主さんになるためにはとても大切なことです。
■猫と人の欲求の違いとは?
ヒトとネコ、そしてイヌなど、動物の種類によって身体のつくりや生活スタイルは異なりますが、基本的な欲求にも異なるポイントがあります。たとえば、ヒトには「食欲・睡眠欲・性欲」といった基本的な欲求があります。心理学的な欲求として有名なのが「マズローの欲求五段階説」です。生理的欲求・安全欲求・社会的欲求・承認欲求・自己実現欲求という順に満たされていくといったものです。
「生理的欲求」には食欲や排泄欲、睡眠欲など、生きていく上で必要最低限のことを満たすための欲求があります。その次に満たすべきは「安全欲求」という、病気や事故を未然に防ぐため、安心安全な生活を求める欲求です。安心安全を獲得すれば「社会的欲求」といって、友人や家族、社会から受け入れられたいという欲求がはたらきます。集団に属することでも満たされる欲求です。そして「承認欲求」とは他人から尊敬され、認められたいという欲求です。集団に属する帰属欲求だけではなく、そこからさらに称賛を求める欲求ということですね。そして最後に「自己実現欲求」というものがはたらきます。これは、自分自身の世界観・人生観があり、自分のあるべき姿になりたいという欲求です。存在欲求ともいわれています。
人間のもつ欲求はこのように説明できるのですが、さてさて、猫ちゃんにはどんな欲求があるのでしょうか?
■猫ちゃんが特に大切にしている欲求とは
猫ちゃんたちの欲求は人と共通する部分もあれば、異なる部分もあります。特に生理的・安全欲求の部分は共通するところが多いです。「安全欲求」「飲食の欲求」「睡眠欲求」は猫ちゃんに限らず多くの動物が求めるものです。さらに、猫ちゃんが特に大切にしている欲求として「衛生管理の欲求」があります。ひとことでいうと「綺麗好き」ということですね。
普段寝るところや、排泄するところが汚いと、ストレスを受けることがあります。猫ちゃんは1日の多くの時間をグルーミングに使います。自分自身の臭いを体につけて、他の臭いを消しているといわれています。つまり、グルーミングによって身体を綺麗にして自分本来の臭いに戻すという習性があるのです。そして、汚れたトイレにはなかなか入りたがりません。「衛生管理の欲求」を満たすために飼い主さんができることは、部屋やトイレの掃除をこまめにすること、そしてブラッシングをすることや、空気清浄機などで空間を綺麗にしてあげることです。
そのほかにも「運動欲求」「狩猟欲求」「縄張り欲求」などが挙げられます。これらは満たされなくても生存はできますが、ストレスや本能といった観点からしっかり考えていく必要があります。ネコは本来、狩猟して摂食します。フードが目の前に置かれて、それを食べられるという生活は本来送っていません。そして、ネコは縄張り(テリトリー)をもちます。マーキングなどで行動範囲を決めて、喧嘩や外敵を避けてきました。もともとは単独行動の動物です。お部屋の中でも愛猫ちゃんが安心して過ごせるテリトリーとなるスペースを与えることも必要かと思います。
■愛猫ちゃんの欲求マネジメントを!
猫ちゃんには、人とは異なる欲求もあります。人間中心で考えると、そこを疎かにしがちですが、「同じ家族、違う動物」ということを認識して、愛猫ちゃんの本来の立場に立って共同生活すると良いでしょう。運動欲求や狩猟欲求などを満たすために、ただフードを与えるというだけではなく、食事を投げて獲らせたり、遊びながら食事やコミュニケーションを取ったりもしてみましょう。そうすることで、人間とのスキンシップやパートナーシップの強化にもつながり、より家族としての絆をもたらします。そして、弱みを見せられる関係になると、病気の早期発見にもつながることでしょう。スキンシップだけではなく「縄張り欲求」を満たすために愛猫ちゃんが落ち着けるようなプライベートスペースも作ってあげる。そうすることで安全欲求も満たされて、ストレスが少なく健康的で豊かなキャットライフを実現することになるでしょう!
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◆直良 拓朗(なおら たくろう)島根県出雲市出身、1991年生まれ。宮崎大学獣医学科卒業。大学時代は再生医療やiPS細胞の研究に着手。卒業後、動物救急医療を中心に小動物臨床に従事。愛する動物たちの最期をたくさん見送った経験から、動物予防医療の発展を決意。現在はペットライフに関する教育や研究や経営を中心に展開している。▽東京都、神奈川県、千葉県、静岡県内の動物救急医療センター 獣医師として歴任▽(株)Pet Life College 代表取締役社長▽動物予防医療研究協会 代表理事▽愛猫ちゃんのためのお役立ちビデオ講座『ネコデミー』でも講師を務める