その昔、うどん屋さんが売っていた風邪の“妙薬” 店のおばちゃん「熱めのお白湯で飲んでごらん」  

 コロナ、コロナで、読者の皆さんも、このところ辟易(へきえき)としておられるのではないでしょうか。今回はコロナを忘れて、ほっこりと医療ウンチクのお話でも。

 私が子供の頃と言うと、もう半世紀も昔の話になってしまうのですが、家の近所によく行くうどん屋さんがありまして、休日の昼食は家族でうどん屋さん、というのが庶民の楽しみでした。もっとも当時、外食屋さんといえば「お好み焼き」か「うどん」くらいのものでした。きつねうどん一杯60円くらいでしたっけ。

 ある日、私が風邪をひいて、アツアツの鍋焼きうどんを食べようということになり、そのうどん屋さんに行きますと、店のおばちゃんが古びた海苔の缶から袋に入った粉薬を出してきて、うどん食べてすぐ、熱めのお白湯でこの薬を飲んでごらんと。確か50円くらいだったと思います。薬を飲んで30分も経たないうちに、あら不思議、風邪の症状が消えて、すっかり元気になってしまった私。

 昔はたいていのうどん屋さんでカゼ薬が売られていました。明治時代、中国の医学書からヒントを得て、大阪のうどん店でカゼ薬が売られるようになったのが始まりのようです。その後、薬事法の改正で「うどん屋のカゼ薬」はなくなりましたが、昔はカゼを引いたらうどん屋さんに駆け込んで「うどん屋のカゼ薬」で治す民間療法が評判になり、全国に広がりました。壷井栄の名著『二十四の瞳』にも登場しています。「大石先生、うどん屋かぜ薬というのがあるでしょ、あれもらったら?」という一節が出てきます。

 さて気になるこの薬の正体、実は「葛根湯」なんです。じっさい私たちが、今でも感冒の初期に処方するのはこの葛根湯。言われてみれば納得ですね。

◆松本 浩彦 芦屋市・松本クリニック院長。内科・外科をはじめ「ホーム・ドクター」家庭の総合医を実践している。同志社大学客員教授、日本臍帯プラセンタ学会会長。

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