「糸結び」に明け暮れていた外科医時代 医療は進歩しても変わらない大切なこと

「君は今まで回ってきたレジデントの中で一番糸結びがうまいなぁ」と褒めて頂いたのは、私が医師4年目で都内の三井記念病院呼吸器外科を回っているときの事です。普段は物静かで穏やかな部長先生ですが、手術にはとても厳しい態度で臨まれていました。

普通の病院なら手術しない、あるいは手術ができない進行した肺がんに果敢に立ち向かい、何とか命を繋げて患者さんの希望を消さない努力をする立派な先生でした。その人に褒めて頂いた。褒められることが、ほとんどなかった私にとって思い出深い一言です。

医師になったころは「外科は糸結びが基本!!」と言われていました。みなさんは「糸結び」なんて思われるかもしれませんが、結構難しいのです。いい加減な結び方をすると出血したり、組織を損傷したりと大事故につながるのです。結ぶ速度が遅いと出血量が増したり、肝臓手術のように大量に糸結びが必要なら大幅に手術時間が延長します。

カンファレンスの時、廊下を歩いている時、今考えるとあまりよくありませんが、あらゆるものを使って糸結びをしていました。外科医は皆、練習をしていましたから医局の中は「糸」で溢れていたような気がします。

私の時代は開腹手術が主流でしたが、今は、腹腔鏡手術やロボット手術が主流になってきており、それぞれの技術を習熟するためには多大な努力が必要。大変な仕事です。外科医だけが大変ではありませんが、大変な「科」の一つであると思いますし、外科の先生を尊敬しています。

大袈裟ではなく、自分の命を削って仕事に臨んでいる外科医も多いでしょう。先日、そんな志の高い集団が病院を一斉に退職した報道を見ました。余程の理由があったと思います。安心して仕事ができる環境をつくることは、病院としての使命だと思います。

◆谷光 利昭 兵庫県伊丹市・たにみつ内科院長。外科医時代を経て、06年に同医院開院。診察は内科、外科、胃腸科、肛門科など。

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