話題のジオラマ食堂に、新しい「小さな家族」が続々 母猫とはぐれた子、生まれてすぐ母猫を亡くした子…境遇さまざま
超リアルな鉄道ジオラマの上を、わがもの顔で遊びまわる猫たちの姿が楽しめることで話題の食堂に、新しく「小さな家族」が増えた。妊娠中のメス猫が出産したり、松山から14匹迎えたりして、その数は総勢29匹。食堂にいる猫の約半数が生まれたての子猫になった。母猫とはぐれた子、生まれてすぐ母猫が亡くなった子など、境遇はさまざまだ。
■松山から5匹を迎える予定が、いつのまにか増えて14匹に
大阪市天王寺区寺田町にあるジオラマ食堂では、鉄道ジオラマの上で猫が遊び、線路を走る鉄道模型を猫パンチで止める「ハグ」が評判を呼んで連日にぎわっている。
一昨年、コロナ禍で客足がほぼゼロになり、オーナーの寺岡直樹さんは「事実上、倒産していたかも」と当時を振り返る。そんなとき店の前に現れた4匹の母子猫を保護し、ジオラマの上を歩き回る姿をSNSに投稿した。それを観た人たちから猫と鉄道ジオラマのミスマッチが面白くて可愛いと拡散され、猫好きのお客さんが全国から訪れるようになった。おかげで売り上げは回復し、倒産を免れた。今では海外のメディアからも取材を受けるほどの有名店だ。
寺岡さんは「経営がもちなおしたのは猫のおかげ。猫に恩返しをしたい」という想いから、店舗の2階に保護猫施設をつくって、行き場がなく殺処分される猫を1匹でも減らすべく活動している。
今年はいつになく子猫の保護が多いという。
「3月末に『妊娠しているメス猫を保護したい』という連絡を、複数件受けました」
松山で保護されたメス猫は、妊娠していたため殺処分を免れていた。その猫がジオラマ食堂で子を産んだ。
4月初めには、同じく松山の保護団体から「母猫の行方が分からなくなって保護された5匹の子猫を引き受けてほしい」という連絡を受けた。
寺岡さんは、子猫を20匹までは引き受けるつもりだったという。
「ゴールデンウィークに面談会をやって里親を募ったら、相当数の子が幸せになるだろうと考えていました」
ところが、松山から5匹を迎える前日になって「全部で14匹になりました」と連絡を受けた。断るわけにはいかない。14匹を引き受けた結果、ジオラマ食堂にいる子猫は29匹になった。大人の猫をあわせると、現在約60匹の猫がいる。そのうち半分が生後2~4週間の子猫という、空前のベビーラッシュになっているのだ。経営危機から救ってくれた親子4匹も、まだ元気に「接客」している。
■子猫を生んですぐ虹の橋のたもとへ旅立った母猫・happy
4月の初めに、大阪市西成区で保護されたメス猫がいた。出産直前に保護されて、すぐ4匹の子を産んだが、5匹目になるはずだった子がお腹の中で息絶えていたため、手術で取り出された。
母猫は「happy(はっぴー)」、子供たちはそれぞれ「Hikalu(ひかる)」「Asahi(あさひ)」「Puku(ぷく)」「Pocke(ぽっけ)」「Yuuhi(ゆうひ)」と名付けられた。頭文字を並べると「happy」になる。死産の子は頭文字をとって「Hikalu」と名付けられ、手厚く供養された。
しかしhappyも、このあと永くは生きられなかった。感染性腹膜炎を発症し、夜間の緊急診療につれていったが、手の施しようがなかったという。
母親ときょうだいをいっぺんに失った4匹は、ほかの子猫たちと一緒に、24時間の見守り体制で大切に育てられている。
不幸な猫が1匹でも減るように精力的に活動を続ける寺岡さんが、今手掛けているプロジェクトがある。
三重県の伊勢市に、現在のジオラマ食堂を大型化させたイメージの、あらたな保護猫施設をつくろうとしている。
「オープンは今年7月16日の予定です。猫に特化した保護施設では、日本最大規模になります」
施設内の飲食スペースには全長16メートルの鉄道ジオラマを設置することになっており、工場を借り切って製作を進めているそうだ。その上で猫たちが自由に遊ぶ。訪れたお客さんは、そんな猫たちを写真に収めたり遊んだりできるという。ただし「宿泊はできません」とのこと。
「コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻で、否応なしに命と向き合わざるを得ない局面が増えているように思います。でも、せめてここへ来れば、小さな命と触れ合うことによって、笑ったり癒されたりして命の大切さを感じてほしいと思います」
最後に、ジオラマ食堂では子猫たちにミルクをあげたりケージの掃除を手伝ったりしてくれる「ミルクボランティア」を募っている。この取材の最中にも、高校生から「ミルクボランティアをやりたい」という電話がかかってきた。
手伝ってくれる人がいれば、その間スタッフが猫の世話に集中する時間が増えるから助かるという。
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)