新入りにご飯を譲るほど優しくて控えめだった元保護猫 オレ様猫とも相性抜群で幸せな日々
2016年、兵庫県宝塚市在住のNさんは大阪にある保護猫カフェから1歳のオス猫「すすむ」を迎え入れた。すすむは人懐っこく、すぐに仲良くなった。しかし、4カ月が過ぎた頃、Nさんが仕事で家を空ける間、すすむが一人ぼっちで寂しがっているのではないかと思うようになった。四六時中、Nさんのそばから離れず、出かける間際の後追いが激しくなっていったからだ。
すすむは保護猫カフェで賑やかに暮らしていたことからNさんは「猫の友達もいた方がいいのかも知れない」と、思いを巡らせた。そこですすむを譲渡された保護猫カフェに相談ついでに遊びに行くことに。すると、たくさんいる猫の中から1匹の猫を勧められた。
白黒柄の「あーたん」という推定4歳ほどのオス猫だった。あーたんは大阪のある地域で地域猫として暮らしていたが、世話をしていた方が近隣住民から嫌がらせを受けるようになったことで、保護の要請が入ったそうだ。あーたんの姿を一目見た瞬間、Nさんはまるで恋に堕ちるように強く心惹かれたという。
「女の子のような優しく甘い面立ち。あまりにも愛らしかったんですよ」
以前飼っていた愛猫が白黒柄だったことと「あーたん」という名前がNさんの幼少期のあだ名と同じだったことから強い親近感を覚えたという。
保護猫カフェでのあーたんは、写真を撮る時にちゃんとポーズ取ってくれることから「フォトジェニック」というあだ名をつけられ、かわいがられていた。保護猫カフェのスタッフからは「あーたんは控えめな性格で、僕、あとで良いよって感じだから、ザ・俺様のすすむとは相性が合うかも」と、勧められたそうだ。
初対面の日。ケージに入れられたあーたんに対し、すすむは一瞬「フー!」と威嚇したが、あーたんはケージの扉を開けるとすぐに出てきて、怒ることも怖がることもなく、まったりと過ごしたという。おおらかでなかなかの強者。すすむもそれ以降は威嚇する様子もなく、あーたんに抱きついたり飛びついたりするようになった。
それからしぼらくは「あーたん」と呼んでいたNさんだが、動物病院で診察券を作ってもらった時、「あーたん ちゃん」と書かれていたことがかわいそうだと思い、他の名前を名づけることに。ただ「あーたん」というのはNさんの幼少期のあだ名でもあり、愛着があったため「あ」のつく名前と、条件をつけてNさんの母親に名付けてもらうことになった。
母は「これまではびくびくと日陰で暮らしてきたので、これからは朝日の当たる場所で暮らせるように」という思いを込めて「あさひ」と名付けてくれたそうだ。あさひは、とにかくおっとりした性格で、遊んで欲しいすすむにやんちゃされても許して、本当に優しい子だという。
Nさんは当団体の預かりボランティアをしてくれているが、あさひの温和な性格は特に新たな保護猫を受け入れた時に発揮されている。新入りの保護猫に対していつも大きな心で受け入れて、ご飯やおやつも譲ってあげたり、みんなが食べ終わってからようやく食べ始めるような優しい性格だ。
「本来は、誰よりも甘えん坊なのに、人間に甘えにくるのもいつも一番最後。人間が落ち着いて手が空くのを待ってくれているかのように甘えにきます。長い外暮らしの影響からか、今もやっぱり怖がりで、他の人の気配にはすぐ隠れてしまうし、私にも背中を見せることはありません。夜中にゴミ箱をあさることもしばしばありました」
どれだけ過酷な環境で暮らしていたのかと思うと不憫でならず、Nさんもついつい甘やかしてしまうのだという。
あさひとすすむの関係も良好で本当の家族のように仲良くなった。お互いがお互いを大好きで、いつも一緒に過ごしている姿を見ると「あさひを家族に迎えて本当に良かった」とNさんはしみじみと感じていた。
そんなある日、Nさんにある事件が起きた。勤務中に原付バイクで転倒し、そのまま入院することになったのだ。Nさんは気が動転しながらも、猫たちのことが心配でなんとか当団体に連絡をくれた。
当時、当団体から保護猫を預かってもらっていたこともあり、わたしたちはNさんの入院中は預かり猫たちとあさひ、すすむのお世話をしに通った。すすむは初日だけ顔を見せに来てくれたが、異変に気が付いたのか、その後は隠れて一度も姿を現さなかった。
Nさんは猫たちのことが心配で、早く退院できるよう医師に頼み、1週間で退院。慌てて自宅に帰ったという。
「ただいま~!」
しかし、猫たちは警戒し隠れて出てこない。
「あれ?すすむ~!あさひ~!どこにいるの~?」
2匹のことが心配で階段を急いで登ると、そこにすすむが待っていた。聞いたことのない声で鳴くすすむを撫でながら、Nさんはその場で泣き崩れた。あさひはというと、数十分たってようやくで出てきたが、しばらくはNさんとすすむを遠目に眺めているだけ。1時間後にようやく手の届く範囲にやってきて撫でることができた。
それ以来あさひはNさんが外出のために着替えようとすると、必ずジッと見つめて悲しげな声で鳴くようになったそうだ。着替えるために出した衣類の上に座り込み、なかなか取らせてくれない日もあるという。
「私の外出を心配してくれていると勝手に解釈し、毎朝、外出の前には撫でまくっています。2匹なりに私のことを心配してくれていたんだなと感じました。猫の性格も千差万別ですが、優しいあさひが加わったことで、さらに家族は円満で強い絆で結ばれたと思っています」と、お互い支え合って幸せに暮らしている。
(NPO法人動物愛護 福祉協会60家代表・木村 遼)