大学名だけで敬遠された…学生開発の“殺虫”ならぬ“逃虫”商品に企業が助け船!「コンセプト、こだわりを聞いて愛着が湧いた」
新型コロナの影響で、殺虫剤の売れ行きが伸びている。換気のために窓を開閉することで、害虫の侵入が増えたのが理由と見られているそうだ。一方で、「できれば殺虫剤は使いたくない」「できるだけ虫は逃がしたい」という声も少なくない。虫は苦手だけれど殺すのは抵抗がある…。そんな人にうってつけの「逃虫」商品を日本大商学部の学生4人が開発した。
商品名は『むしキャッチリー』。見た目は、下部に穴が開いた二重構造の透明な箱。箱の穴の部分を虫にかぶせて取っ手を引っ張ると捕獲でき、箱ごと外に持ち出して取っ手を押し込めば穴から逃がせる。
開発のきっかけは、全国の大学3年生を対象としたゼミ対抗の商品企画コンテスト「Sカレ」への出場だった。与えられたテーマは「クリアシート小物」。その企画会議でメンバーの1人が「虫が大嫌いだけど、できれば殺さないで外に逃がしたい」と話したことから、4人は「部屋に侵入した虫」についてインターネット調査を実施。「殺さず逃がしたい」というニーズが多いことを知る。
そこで彼らはニーズをさらに深掘り。「ティッシュで包むなど間接的にでも触れるのはイヤ」「捕まえるのに時間がかかる」といった悩みをすくい上げ、触らず簡単に捕まえられ、逃がしやすい商品を企画した。
そうして誕生した『むしキャッチリー』は、コンテストで見事優勝。優勝特典として、東大阪市の製造メーカー『美販』と、商品を共同製作する権利を与えられた。
商品化に向け、4人はPR活動にも注力。試作品で虫を捕まえて逃がす動画を継続してTikTokに投稿し、累計500万回超の再生回数を獲得するなど注目を集めた。そして2021年末、ついに『むしキャッチリー』を発売。新商品は瞬く間に約3000個を売り上げた。
しかし、彼らの活動は「卒業まで」の期限付きだ。製造は『美販』がやってくれるが、営業・販売を引き継いでくれる会社を新たに見つけなければ新商品は消えてしまう。だが、タイミングが悪かった。2021年といえば、日大の負の側面が大きくクローズアップされていた時期だ。
メーカーに話を持ちかけても、大学名で敬遠され、相手にしてもらえない。「殺虫」「防虫」ではなく「逃虫」という新しい市場を育てたいと願っていた学生たちの想いは行き場を失くした。
そこに協力の手を差し伸べたのが、大阪市のプラスティックメーカー『旭電機化成』。同社の原守男専務は言う。「コンテストの関係者から話を聞いたのですが、商品のコンセプトや想いを知るほどに愛着が湧いてきて。市場調査も開発業務も、学生たちが自ら考えて動いてきた。そうして作り上げた商品ですから、世に残してあげたいと思ったのです」
もちろん、ただのボランティアではない。旭電機化成といえば、『ふたがトングになる保存容器』『なにわのエジソンの串抜き皿』など、ユニークな実用品を数多く販売しているメーカー。学生たちの着眼点に魅力を感じたからこそ受け取ったバトンでもある。
「よそとはちょっと違う、変わっているけどほしくなる、そんな商品が当社の強みです。そういう意味では『むしキャッチリー』は、うちにぴったりの商品。それに、できれば殺虫剤を使いたくないというのは僕も同じ。個人的には、殺しているところを子どもに見せたくないですもん」
記者も小さな蜘蛛で試してみたが、スムーズな動作でベランダに逃がすことができてホッとした。「見た目が苦手だから退治する」という行為に、どこか罪の意識を感じていたのかもしれない。
大きな虫や飛び回る虫には向かないが、小さな蜘蛛やカメムシなどを逃がすには非常に便利な『むしキャッチリー』。販売価格は550円(税込)。Amazon、楽天、Yahoo!といった総合ECサイトで購入できる。
(まいどなニュース特約・鶴野 浩己)