なぜ人は千羽鶴を折るのか 日本折紙協会に聞いた 「海外にも折り紙文化はあります」 

在日ウクライナ大使館に送ろうとした千羽鶴をめぐって巻き起こった議論。侵略に抗っている戦時下、送ることを控えるべきなのか、何が必要な支援なのか見極めるべきではないか、一方、千羽鶴を折ることまで否定するのは行き過ぎではないか、SNSではさまざま観点から賛否の声が上がっています。そもそも、なぜ私たちは千羽鶴に思いを託すのでしょうか。折り紙の国内外の普及に取り組む日本折紙協会(東京)に聞きました。

日本の折り紙文化は、和紙という素材、折りたたむ文化など重なって、開花したといいます。しなやかで破れにくい和紙は、書写目的以外に住環境や生活用品のほか、紙垂や御幣など神事にも使われるようになります。平安の貴族社会では畳んで懐中に入れる料紙や懐紙があり、鎌倉時代の武家社会では礼法折り紙が浸透し、雄蝶雌蝶や熨斗包みはその名残です。それらの儀礼的な折り紙の余技として、鶴や舟などの「遊戯折り紙」を楽しむようになり、江戸時代には庶民の間に広まりました。これが今に続く折り紙です。

■日本折紙協会編集部の青木伸雄さんに聞きました

ー古来より鶴は縁起の良い鳥とされていますが、千羽鶴はそこからでしょうか

「鶴は千年という言葉もあり長生きの代名詞にもなっています。千羽鶴の「千」は元々は「数が多い」というだけの意味で、一枚の紙に切り込みを入れて、一部が繋がった正方形を切り出して折る「つなぎ折り」のことでした。江戸期の寛政9(1797)年に出版された『秘伝千羽鶴折形』は世界最古の遊戯折り紙の本として知られ、49種類の繋ぎ折り鶴が紹介されています」

ー現在の千羽鶴とは異なります

「ごく初期の折り鶴は、祓え(神に祈ってけがれを清め、災厄を取り除くこと)の形代(人の身代りに罪やけがれを移す人形)の意味合いが強いものでした。息を吹き込むのは、けがれを託すことの名残です。現在の糸で繋ぐ千羽鶴は、繋ぎ目が切れやすい洋紙が出回るようになったことと、広島で被爆10年後に亡くなった佐々木禎子さんの悲話から有名になりました。『サダコの千羽鶴』の物語を経て、今の祈願的なものに移り変わったと思います」

ー様々な願いを込めた現在の千羽鶴は比較的最近の形なんですね

「さらに言えば折り紙は日本固有の文化ではありません。15-16世紀頃の洗礼証明書や布のテーブルナプキンを折り畳んで飾り付ける「ナプキン折り」がありました。ドイツの教育者フリードリッヒ・フレーベル が19世紀中頃に創始した教育法には、ヨーロッパの伝承折り紙と幾何学模様(模様折り)が含まれています。明治期、日本の幼稚園教育にフレーベルの教育法が取り入れられ、日本の折り紙に影響を与え、片面に着色した正方形の「いろがみ」も教材として普及しました」

ーウクライナの教会であった犠牲者追悼ミサを報じるニュースの写真を見ると、折り紙らしきものが遺影のそばに飾られていました

「写真だけでは折り紙らしきものが何かは判別できませんでした。以前スペインで起きた鉄道テロの際には、教会での追悼を伝える記事の中で、人型に切った紙を亡くなった人の数だけ(手が繋がった)切り紙の手法で作って吊るしたという内容を覚えています」

ーウクライナに千羽鶴を送ることについて

「『ウクライナへ千羽鶴を届けたい』といった相談は寄せられてはいますが、こちらでは先方の事情を把握できていないので、送るようには伝えていません。お気持ちとしては皆さん平和を願ってのことと思いますが、それが今、ウクライナの状況で実際にどのように役に立つかということは我々も想像がつかないので…」

青木さんによると、折り鶴はツルをかたどったものではなく、折っていくうちにできた四芒星をもとに、最後に首を曲げた瞬間に「鶴が生まれた」と考えるのが自然といいます。「千羽鶴に込められた日本人の思い、願い、祈りを機微を込めて海外に伝えるのは相当難しいのではないか、と個人的には思います」とコメントしています。

■折り鶴をめぐっては過去にも    

今回の「ウクライナへ千羽鶴」論争は、報道によると、2ちゃんねる創設者のひろゆき氏と、メンタリストのDaiGo氏が否定的な発言を繰り返し、拡散したようです。戦争と災害の違いはありますが、東日本大震災以降、「被災地に折り鶴を送るのは迷惑ではないか」というテーマは、ネット上で繰り返し話題になっています。

外務省のサイトによると、東日本大震災間もない2011年3月21日には、ウクライナ・ルガンスク国立大学外国語学部の学生と教員が、9時間かけて千羽鶴を折り、被災者への支持を示しました。千羽鶴の作成は、日本語を学ぶ女子学生の1人が千羽鶴が悲しみを和らげるということで呼びかけたものです。当時、同大学では40人が日本語を学んでいました。

2016年に出版されたボランティアに関する書籍では、「広島市が千羽鶴の処分に年間1億円を計上している」という事実誤認の表記があり、ブロガーの指摘を受けて修正するという問題がありました。

広島市によると、平和記念公園の「原爆の子の像」に捧げられる折り鶴は、年によって差はあるもののおおむね10トン。市は折り鶴を処分せずに保管してきましたが、2011年度からは「折り鶴に託された思いを昇華させるための方策」に基づいて、配布を希望する個人や団体に渡すようになり、2011年度は101・8トンだった折り鶴の保管量は2022年3月は22・6トンに。市の施設で保管しているため、折り鶴に関する費用は(1)原爆の子の像に捧げられた折り鶴を市の保管施設へ運搬(2)折り鶴の配布を希望する個人・団体への運送料が主で、合わせて約250万円といいます。

(まいどなニュース・竹内 章)

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