デジタル招き猫がお出迎え! NFTアートの“看板猫”がいる老舗温泉旅館

 老舗温泉旅館に飾られているNFTアートの「看板猫」が注目を集めている。長野県千曲(ちくま)市の戸倉上山田温泉にある1903年創業の旅館「荻原館(おぎわらかん)」。玄関に43インチのデジタルサイネージ(電子看板)があり、丸まって寝ている1匹の猫のアニメーション動画が流されている。

 このNFTアートを購入したのは同館の長男で、ウェブ事業を営む荻原健太さん(37)。「これは数多くの人気アニメを手掛けている国内トップアニメーター『GOZ:(ゴズ)』さんのNFTアート作品です。昨年12月、東京・銀座で開催された個展『GOZ:初NFT展』に伺い、直接購入させていただきました。老舗旅館とデジタルアートの融合を楽しんでもらい、コロナ禍で落ち込んでいる旅館業を盛り立てられないかと」。今年2月22日のスーパー猫の日に合わせてお披露目した。

 NFT(Non-Fungible-Token)は、日本語で「非代替性トークン」と呼ばれ、唯一性や希少性を保証したデジタルデータのこと。複製ができず、新たな資産価値を生み出す技術として、国内でも作品などを売買するマーケットプレイス(ウェブ市場)を利用する人が増えている。

 健太さんは神奈川県の大学を卒業後、旅館業界で10年間勤めたが、「業界の外から、自分にしかできないアプローチで旅館業を盛り上げたい」と独立。現在は都内でウェブマーケティング事業を行なっている。

 実家の旅館の売上はコロナ禍で例年より約4割減少。このゴールデンウィークはようやく利用者が戻りつつあるというが、厳しい経営状態が続いている。何かしたいとひらめいたのがNFTアートの猫を飾ることだった。

 「小さいころから猫を飼いたかったんですけど、昔からうちの旅館では、お客様への配慮からペットを飼うことはできませんでした。最近は本物の猫がいる旅館も人気ですが、看板猫がいたらいいなあとの思いも心の片隅にあったんです。僕が調べたかぎり、NFTアートの『看板猫』は旅館業界初です」(健太さん)

 猫の名前をSNSなどで募ったところ、100通以上の応募があり、千曲市の名産品、あんずにちなんで「あんずちゃん」に決定。アニメーションのあんずちゃんは、ゆっくりと呼吸してお腹をふくらませたり、尻尾がちょっと動いたりと軽微な動きをするのみで、いつものんびり。動き回ったり何かをしたりするわけではないが、お客さんからは「旅館のゆったりとした雰囲気にぴったり」、「ほっこり癒される」などと評判は上々だ。ちなみに性別や年齢は明らかにされていない。「観ていただく方が、それぞれの想い、バックグラウンド、国籍、経験などを投影して、自由な発想でストーリーを感じてもらえること、考えてもらうこと、楽しんでもらうことが、作者の願いなんです」と健太さんはほほえむ。

 今年1月から、健太さんは「メタバース温泉街『METAーBATH』」というプロジェクトを進めている。世界中どこからでも気軽に参加できるバーチャル空間の温泉街を構築しようとの試みだ。現在、起業家、イラストレーター、放送作家、旅館の若手経営者、飲食店主、地域おこし関係者などの仲間たちとともに開設準備中といい、こちらも楽しみだ。

 「アバター(自分の分身)を用いて『METAーBATH』を訪問すると、全国各地の温泉旅館や飲食店などが並んでいて、その中には荻原館もあり、あんずちゃんが出迎えてくれます。そこではそれぞれの旅館や店の魅力に触れることができ、NFTの購入などもできる。そんなイメージです。今は日本に行けないけれどいずれは訪れてみたいという海外の方などが、この仮想空間で日本の文化などに触れて楽しんでもらう、そして、実際に現地に行ってみようとの流れをつくる、といったことができればと思っています」と健太さん。

 あんずちゃんは、バーチャル温泉街へとあなたを導く招き猫になるかもしれない。このゴールデンウイーク、あんずちゃんに会いに行ってみては。

▼荻原館 https://www.ogiwarakan.com

(まいどなニュース特約・西松 宏)

関連ニュース

ライフ最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング

    話題の写真ランキング

    リアルタイムランキング

    注目トピックス