イッテQみやぞん企画「獲れたてのホタルイカをその場で味わう」に皮膚科医が警鐘「踊り食いは絶対だめ!」 

日本テレビの冒険バラエティー「世界の果てまでイッテQ!」で放送された「獲れたてのホタルイカをその場で味わう」という企画に対し、「ホタルイカの生食は旋尾線虫症っていう寄生虫が皮膚を這う感染症になる」と危険を指摘する医療者のツイートが注目を集めています。春から初夏にかけてが旬のホタルイカ。酢味噌和えや刺身、春キャベツと合わせたパスタなどさまざまなレシピがありますが、知らない人もいる生食リスクを取材しました。

問題視されている企画は、お笑いコンビ・ANZEN漫才のみやぞんによる「みやぞんが行くジャパンツアー」での一幕。富山県を訪れ、ホタルイカの身投げの鑑賞と漁に挑戦するというもので、番組内では夜の海岸に集まる人の映像とともに、ナレーションとテロップで「海岸に集まるホタルイカをすくい獲れたてをその場で味わう」と紹介されました。

このシーンについて、Twitterユーザーで皮膚科専門医のScomb(@Scomb)さんが、生食による寄生虫の感染リスクを踏まえ、「危険な情報を流布するのはやめてほしい」とツイート。5万超のいいねがつくなど拡散しました。

Scombさんによると、生食によってヒトの体内に入った幼虫が腸や皮膚を這い回る「旋尾線虫幼虫移行症」という感染症を引き起こする恐れがあるとのこと。約20年の臨床経験の中で現認したのは2~3例といいますが、「患部のインパクトが強いので印象に残っています」(Scombさん)。診断・治療には虫を狙って皮膚ごと切除することになり、虫を捕らえることができれば治癒しますが、虫は常に移動しているため捕まらないこともあったり、そのうち幼虫が死んで移動が止まることもあります。「2000年代前半の経験ですが、(患者さんは)生食のリスクは知っていたけどつい食べてしまったようです」と話します。

国立感染症研究所や富山県のサイトによると、ホタルイカの内臓に寄生するのは旋尾線虫という線虫。体長1センチ程度で、幼虫が体内を移行するのに伴い、主に(1)腹部を中心に出現する皮膚爬行疹(ミミズばれ)(2)腹痛、嘔吐、腸閉塞などの発症という2つの病型があります。予防策は、踊り食いや内臓付き未冷凍のものの刺身を絶対に避けること。生で食べたい場合は、冷凍処理を行った表示のあるもの、または内臓をきれいに除去することが求められます。

■ホタルイカの「踊り食い」は絶対だめ!

Scombさんに聞きました。

ー医療現場ではホタルイカ生食による感染症はどのように受け止められていますか

「旋尾線虫による皮膚爬行症の症例は1990年代までそこそこの数が報告されたとされていますが、医師になる前なので実感としてはわかりません。実際に症例を経験した2000年代前半には一般の方が購入できる形で商業的に流通する「生」のホタルイカは適切に冷凍処理されており、個人で獲ってルールを守らず調理してしまうようなことをしなければ感染のリスクは低いといわれていました。厚労省や富山県は注意喚起しており、以前よりも生食が危険であることは知られているのではと思います」

ー問題のシーンを目にして

「富山県では沿岸まで産卵のため上がってきたホタルイカを砂浜や漁港の岸壁などで一般の人が採集できます。地元の人は加熱処理して食べることを知っている人が多いようですが、知識のない人があの場面を見たらそのまま生で食べる、その場で踊り食いしてもよい、と十分誤解しうる表現と感じ、治療経験者の一人としてツイートしました」

ーテレビ局に求めることは

「番組内で生食するシーンはありませんでしたが、最近情報量が増えているYouTube上のホタルイカの採集・調理動画ではまず「寄生虫がいるから安全に処理して」と呼び掛けています。知らずに生のまま食べて不用意に感染してしまった人が怖い体験をしてしまうことがないよう、マスメディアとして「洗練された表現」を心がけてほしいと感じました。「普通に考えたらわかる」ではなく「予備知識のない人が万が一目にしても危険にさらさない」コンテンツが求められているのではないでしょうか」

■2000年に国がホタルイカの取り扱いを通知

1988年から1994年までの7年間に旋尾線虫が原因の皮膚爬行症32例、腸閉塞20例、眼寄生1例の報告がありました。1994年にホタルイカの内臓付き生食が危険であることが広く報道され、生産者が加熱あるいは冷凍処理後に出荷したこともあり、翌1995年には症例報告が激減しました。

厚生省(当時)は2000年6月21日、都道府県、各政令市、特別区の衛生担当者に「生食用ホタルイカの取扱いについて」を通知。関係する営業者に対し周知徹底を図るとともに一般消費者にも情報提供に努めることを求めています。内容は以下の通りです。

1.生食を行う場合には、次の方法によること。

①-30℃で4日間以上、もしくはそれと同等の殺虫能力を有する条件で凍結すること。(同等の殺虫能力例:-35℃(中心温度)で15時間以上、または-40℃で40分以上)

なお、凍結処理を行った場合、製品にその旨表示を行うこと。

②内臓を除去すること、または、内臓除去が必要である旨を表示すること。

2.生食用以外の場合には、加熱処理(沸騰水に投入後30秒以上保持、もしくは中心温度で60℃以上の加熱)を行うこと。

3.販売者、飲食店等関係営業者に対し、生食用としてホタルイカを販売等を行う場合には、1.にある方法により処理したものを販売するよう指導すること。

4.一般消費者に対し、ホタルイカを生食する場合の寄生虫感染の可能性について情報提供を行うとともに、生食する場合には1.にある方法による旨を啓発すること。

兵庫県は富山に並ぶホタルイカの水揚げ高を誇ります。県健康医療部生活衛生課によると、旋尾線虫が原因とみられる症例については近年は報告はありませんが、生食のリスクと処理の徹底については保健所を通して競売りや販売業者に定期的に注意を呼び掛けています。

(まいどなニュース・竹内 章)

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