“日本人”みたいになりたかった…5カ国のルーツ持つViVi専属モデル嵐莉菜が「周りと違う」ことで抱いた葛藤語る 難民問題テーマの映画で初主演
日本で家族と暮らすクルド人の少女が、自分の“居場所”やアイデンティティに悩みながら成長していく姿を描いた映画「マイスモールランド」が全国で公開されている。日本の難民問題という硬派かつ深刻なテーマを扱いながらも、青春の儚い光と危うさを繊細に表現した物語に仕上がっており、SNSなどでは「大傑作」「今年ベスト級」「主役の2人(嵐莉菜、奥平大兼)の演技が瑞々しく素晴らしい」など、賞賛の声が飛び交う。映画初主演を果たした嵐莉菜さんは、ファッション誌「ViVi」の専属モデル。5カ国のルーツを持ち、主人公と同じく、周囲との違いに悩んだ経験を持つ。「自分にとって宝物のような作品になった」と語る嵐さんに話を聞いた。
嵐さんは埼玉県出身の18歳で、現役高校生。日本とドイツをルーツに持つ母親と、イラン、イラク、ロシアのミックスで日本国籍を取得している父親がいる。「ミスiD2020」でグランプリとViVi賞をダブル受賞し、2020年からViViの専属モデルに。最新6月号では初めてソロで表紙を飾り、大きな注目を集めた。
■「どこから来たの?」日本人とは違う外見に葛藤
「マイスモールランド」の主人公サーリャはクルドと日本の間でアンデンティティに葛藤しているが、親しい友人たちでさえ日本人とは違う彼女の容姿を無邪気に羨ましがり、どこか一線を引かれているように感じている。サッカーのW杯で日本を応援するとは思われていなかったり、バイト先のコンビニで「日本語が上手よ」「頑張ってね」と客から悪気なく話し掛けられたりと、外国ルーツならではのエピソードがさりげなく重ねられていく。
「私自身、幼少期に『何人(なにじん)?』とか『どこから来たの?』と聞かれて、日本生まれ日本育ちなのでどう答えたらいいのかわからなかった経験があるので、置かれた状況は違いますが、サーリャの気持ちはよく理解できます。やっぱり『あなたは日本人ではない』と暗に言われているように感じるんです。声を掛けてきた人に悪気がないことはもちろんわかっているので、その人を責めたいわけではないけど、ただ、自分ではそれがずっとコンプレックスでした。演技には、そういう感情や経験が反映されています」
「W杯の話は、川和田恵真監督に伝えた私の実体験が採用されたんです。当たり前に日本を応援するつもりだったのに、友達から『どこを応援するの?』と聞かれたことがあって。そんなことを聞かれるとは思っていなかったのでビックリしたのと同時に、私は日本を応援したらダメなのかな、そんな風に思われていたんだな、とちょっとネガティブになった出来事でした」
■「カワイイ」に複雑な思い…黒髪ストレートに憧れ
今はモデルとして強力な武器になっている自身の「容姿」についても、思春期にはやはり悩みがあったそうだ。
「私の髪、本当は癖毛でクルクルなんですよ。それが以前はすごく嫌いで。映画のサーリャもやっていましたが、中学生の頃は毎朝必死にストレートアイロンを当てていました。一度クルクルのまま登校したら、ストレートの子に『それカワイイ』と言われて、それが何故か嫌みに聞こえてしまって…。当時は黒髪のストレートになりたくて仕方なかったので、自分の髪がもっと嫌いになったんです。今なら素直に『ありがとう!』と言えますし、『ないものねだり』だったということがわかるんですけど」
「日本人の友達と違う外見もすごく嫌で、日本人らしく見える顔や黒髪に憧れました。でも、モデルのお仕事を始めてから、この容姿だからこそ求められることが多いことに気づきました。それでようやく自分の外見を好きになれたんです。今は、お仕事の現場やスタッフの方々との関係が、私が自信を持てる大事な場所。自分の居場所ができたから、今は何を言われても全然へっちゃらです」
■外国ルーツならではの悩みと難民問題テーマに
そしてやはり本作で刮目すべきなのは、日本の難民問題を題材にしているところ。「国家を持たない世界最大の民族」とも呼ばれるクルド人は、日本ではほとんど難民として認定されず、やむを得ず「不法滞在」の状態で生活している。映画ではサーリャの父マズルムが難民申請を却下されて在留資格を失い、「仮放免」の身分に。就労も禁じられるが、生きるために仕事をしていたところを見つかり、入管施設に収容されてしまう。この日を境に、サーリャの穏やかな日常は終わりを告げるのだった。
「私はクルド人ではないので、この問題を役として背負うことに最初はプレッシャーを感じていました。でも撮影前、実際にクルド人の家族にお会いして生活の話を聞き、家庭料理をごちそうになったり、歌を聞かせてもらったり、民族衣装を着せていただいたりするうちに、自分がしっかり演じたいと強く思うようになりました。プレッシャーよりも、絶対にやるぞ、頑張るぞ、という気持ちの方が大きかったです」
「シリアスな題材ではありますけど、私のような外国にルーツを持つ人が共感できる部分がたくさんある映画です。そして、青春や学業、バイトなど、ルーツに関係なく誰もが一度はぶつかったことのあるような壁や悩みも描かれています。是非、難しそうだと身構えないで見てもらいたいです」
■アニメ「転スラ」の話でヒートアップ
本作で鮮烈な映画デビューを飾った嵐さん。今後の展望を聞くと、「演技の魅力に目覚めました」と目を輝かせながら、俳優の仕事に対する意欲を覗かせた。「いろんなことを学ばせていただいた『マイスモールランド』は、本当に宝物のような作品。この先、これを超える作品にまた出会えるよう頑張りたいです。そういう意味ではサーリャは自分にとって手強い“敵”になるかもしれないですね」
「アニメの実写化にも挑戦してみたい」と言うので、何か具体的に好きなアニメがあるのかと水を向けてみたところ、表情がさらに5段階くらい明るくなり、怒涛の勢いで「転生したらスライムだった件(転スラ)」への愛を語り始めた。
「転スラが大好きで、もしかしたら今、一番好きなアニメかもしれないです。妹に勧められて見たんですが、転生や美形キャラなど私の好きな要素がたくさん詰まってて、『なんだ!? この素晴らしいアニメは!』と衝撃を受けました。もし願いが叶うなら、主人公のリムル=テンペストを演じてみたいです! 本当に大好きなんで、絶対にやりたいです!」
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「マイスモールランド」は新宿ピカデリーなど全国の映画館で公開中。
(まいどなニュース・黒川 裕生)