「家が見つからない」→引っ越ししようと思ったら「業者のエリア外」!? 「あこがれの地方移住」は苦労の連続
新型コロナウイルス感染症の流行により、自分の生き方を見直す方が増え、「地方への移住」を考えている人が増えています。その背景には、在宅ワークの導入など、多様な働き方が実現したことにより、居住地にこだわる必要がなくなったことも影響しているでしょう。
Rさん(女性・30代)は、家族とともに2020年、九州にある離島へ移住しました。実際に地方移住した経験をもとに感じたメリット・デメリットについて話してくれました。
■生活に追われる日々からの脱却
Rさんは夫と娘の3人暮らしです。もともと九州の都市部に住んでいたRさんたち家族は、仕事と育児に追われる慌ただしい日々を過ごしていました。
イベント会社の社長である夫のSさんは、週末はもちろんのこと大型連休も仕事で不在にすることが多く、家族との時間がなかなか確保できなかったといいます。
「少し息抜きしたいな…」と思いながらRさんが何気なく旅行番組を観ていると、そこには壮大で美しい海の映像が映し出されていました。
番組で映った景色に魅了されたRさんは、さっそく、インターネットでリサーチ。飛行機なら45分で行けることがわかり、家族旅行で行くことにしました。
■あこがれの地方移住にはだかる壁
ご主人がほぼいない中でのワンオペ育児に疲れきっていたRさん。旅行の際に、美しい自然を満喫しただけではなく、人々の優しさにも触れ、心が洗われたように感じたといいます。「ここに住みたい」と夫のSさんに伝えると、Sさんも同じ気持ちだったようで、すんなり離島への移住が決まったそうです。
しかし、いざ移住の準備を開始すると、家が見つからないという問題に直面しました。不動産屋で探しましたが、もともと離島では賃貸物件が少ないこともあり、水回りが整備されていない「修繕が必要な古民家」しか見つからなかったのです。
地方移住の難しさを実感したRさんは、「ネットの情報じゃらちが明かない」と思い、市の移住支援制度を活用することにしました。移住支援制度では、市の担当職員が移住希望者に対しオンライン相談会を実施しているだけではなく、「空き家バンク」に登録されている空き家を紹介してくれます。
また、保育園や学校といった教育機関の情報も提供してくれるため、非常に助かったといいます。
市の職員のサポートもあり、リフォームしたての一軒家を借りることができたRさん一家は、引っ越し業者の手配をはじめましたが、また別の問題が浮上しました。
Rさんが移住を決めた島に、引っ越しをしてくれる業者が見つからなかったのです。問い合わせた会社からは、どこからも「エリア対象外」だと言われてしまったそうです。
「船も飛行機も利用できる島なのに、どうして引っ越し業者のエリア対象外なの?」と途方に暮れたそうですが、悩んでいても仕方ありません。
家具は全部処分し、移住先で揃えることにしました。その当時を振り返り、Rさんは「引っ越し業者のエリア対象外になるとは予想外だった。移住で引っ越しが1番大変だった」と教えてくれました。
■家族で人間らしい日々を謳歌できるという喜び
「引っ越しには苦労したけど、離島での暮らしで人間らしさを取り戻した」と話すRさん。野菜・魚介類・精肉など新鮮な食材が安く手に入るため、自然と外食する機会が減り、健康志向が高まったそうです。
夫のSさんは1カ月に1回本社へ出勤する勤務スタイルへと移行。主に仕事はリモートで行い、週末には家族団らんの時間をつくれるようになったそうです。また、環境を変えたことで、新たな発見が生まれ、新規事業を開始させました。さらに、福利厚生の一環として島でワーケーションを行うなど、社員が喜ぶ福利厚生の整備も実現しました。
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環境を変えることはそう容易なことではありません。家族がいればなおのこと慎重になるでしょう。しかし、地方移住には、都会での暮らしでは得られない幸せや癒やしがあります。
実際Rさんは、地方移住の大きなメリットとして、「子どもも大人ものびのびと暮らせる」ことをあげていました。また「食費や固定費なども都会に比べると抑えられる」「移住前よりも移住後のほうが経済的にゆとりがある」とも話してくれました。
しかし、田舎になればなるほど保育園や学童保育の施設数が限られてきます。「待機児童ゼロの自治体ばかりではないから、子どもがいる方は、移住前にきちんと調べることが大切」といった注意点もあるそうです。そして「求人情報の数が限られてくることも念頭に置く必要がある」といいます。
なお、自治体によっては移住者向けの賃貸物件の提供や、「起業支援」「住宅建築補助」「引越費用の支給」といった資金面の支援も行っているようです。また、職探しが不安な人に向けて、地元企業の紹介や、求人情報の提供など、親身に対応してくれる場合もあるといいます。関心のある人は、まずは自治体の担当課に相談しながら準備を進めてみては、とRさんは語ってくれました。
(まいどなニュース特約・長岡 杏果)