「冷やし中華おわりました」なぜ見かけない? 「はじめました」は夏の風物詩なのに…中華料理屋さんに理由を聞いてみた
さっぱりとした酸味のあるスープの味わいと、ツルっとしたのどごしが心地よい「冷やし中華」の美味しい季節がやって来る。中華料理屋さんやラーメン屋さんの店頭に「冷やし中華はじめました」の貼り紙が出る光景は、今や日本の夏には欠かせない感さえある。ところが秋になっても「冷やし中華おわりました」の張り紙は見たことがないことに気がついた。「はじめました」はアナウンスされるのに、「おわりました」がアナウンスされないのは何故だろう。そんな冷やし中華の謎について調べてみた。
■「冷やし中華はじめました」も、必ず出すわけじゃない
東京都内で34店舗を展開する中華料理店「福しん」の代表取締役、高橋順さんに伺った。
「『冷やし中華はじめました』の貼り紙を出す時期は4月中旬から5月上旬の間です。『冷やし中華終わりました』の貼り紙を出さない理由は、ポスターを貼れるスペースに限りがあるので、終わった告知よりも新しい商品の告知をしたいためです」
ただ「冷やし中華はじめました」の貼り紙を毎年必ず出しているわけではなく、出さない年もあるという。
「出さない理由は、とくにありません」
季節の商品や新商品が、年間でだいたい8種類出るという。そうなると、やはり「おわりました」より「はじめました」が優先されるのは自然な流れなのだろう。
残暑が落ち着いてきた頃、冷やし中華がメニューからひっそりと消えていることに気付いたとき、夏の終わりを実感する人は多いのではないだろうか。
■冷やし中華発祥の地は昭和初期の東京と仙台
冷やし中華は「中華」と付いても、日本で生まれた麺料理である。その発祥を調べていくと、まず、東京の神田神保町が発祥だとする説が浮上した。その元になったお店が、今も営業を続けている「揚子江菜館」だ。
「1933(昭和8)年に2代目店主が考案した『五色凉拌麵(りゃんぱんめん)』、いわゆる五目冷やし中華です。富士山の四季を彩る料理で、具材は全部で10種類。甘酢タレ味が特徴です」
「揚子江菜館」からの返信メールには「麺」ではなく「麵」の字が使われていたから、これが店としての正式表記なのだろう。
また、ゆで玉子、野菜、ハムなどの具を放射状に盛りつけるイメージは、東京から広まったといわれている。
一方で、宮城県仙台市を発祥の地とする説もある。1937(昭和12)年に仙台市で営業する中華料理店が、暑い夏でも来店客を減らさないメニューを考えて、試行錯誤の末に完成させたという。このお店も営業を続けているようだが、連絡がつかず、真偽を確認することは叶わなかった。
ちなみに関西では、冷たい麺料理を総じて「冷麺(れいめん)」と呼ぶ。だから冷やし中華も冷麺だ。東京の冷やし中華は麺皿に盛りつけられたイメージが強いのに対し、関西の冷麺はラーメン鉢に入った冷たい汁麺のイメージが強い。
冷やし中華が全国へ広がったのは、戦後になってからのこと。地方ごとに、そしてお店ごとにさまざまな形に変化していった。すべての具材を麺にトッピングしたり、別皿で添えられていたりして、バリエーションに富んでいる。
今年は、久しぶりに行動制限のない夏。旅に出かけた先で冷やし中華の違いを楽しんだり、店主に直接「なんで『冷やし中華おわりました』がないのですか?」と尋ねてみたりするのも一興かもしれない。
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)