「このタイミングしかない」NATO加盟申請したフィンランドとスウェーデン 歴史的転換を決断したその背景を豊田真由子が解説

ロシアのウクライナ侵攻を受け、フィンランドとスウェーデンが、西側軍事同盟であるNATOへの加盟申請をしました。

これまで敢えて“軍事的中立”を保ってきた両国のNATO加盟は、欧州における安全保障体制の大きな転換であるとともに、私は、トルコの反対表明や、ハンガリーのロシア寄り姿勢から、この危機下において、EUやNATOすら一枚岩では無い、ということが改めて明らかとなり、国際政治外交の複雑さ・難しさを痛感します。

EUの抱える難しさについては、ジュネーブで外交官として仕事をしていたとき、主要国に実情を聞いてみると、やはり、EUとしてまとまった行動を取るのが建前だとはいっても、実際には、経済力や歴史、民主化の程度等について差異のある国々が、様々な論点について、足並みを揃えて一致団結して行動していくのは容易なことではない、ということがよく分かりました。

フィンランドとスウェーデンは、歩んできた歴史も、ロシアとの関係性も異なりますが、なにがどう現在につながっているのかを振り返りつつ、次回コラムではトルコやハンガリーの動きも踏まえ、今後を考えてみたいと思います。

■フィンランド

フィンランドには、伝統的にロシアに対する強い不信感があります。

フィンランドは、約700年に渡るスウェーデンの支配下から、1808年からのロシア・スウェーデン戦争の結果ロシアに割譲され、そして1917年のロシア革命時に独立を果たしました。第二次世界大戦中には、二度にわたりソ連に侵攻され(1939.11~冬戦争、1941.6~継続戦争)、カレリアなど領土の一部を取られました。

島国に住む私たちには想像が付きにくいですが、他国と国境を接しているというリスク、殊に、1340㎞にわたりロシアと国境を接し、どこから攻め込まれてもおかしくないという状況は、常に大きな恐怖であり続けたはずです。フィンランドにとっては、ロシアを警戒しつつ、刺激して攻撃されることのないよう、“良好な関係を保つ”ことが、至上命題でした。

1948年には、ソ連との間に「友好協力相互援助条約」を締結し、フィンランドの中立を認めさせるとともに、ソ連崩壊後も、引き続き、両国に対する第三国の侵略に、相互の領土を使わせないという条約を結んできました。EUに加盟し(1995年)、西側への接近を進める一方で、軍事同盟であるNATOには非加盟を維持しました。そしてまた、東西両陣営の対立から一定の距離を保つ国が存在することによって、この地域に一定の安定をもたらしてもきました。

しかし、こうした機微な外交姿勢というのは、あくまでも相手が、「こちらの配慮や懸念を理解し、それに応じた対応をしてくれる」ことが前提で成り立つものであり、その意味で、今回ロシアがウクライナに侵攻したことが、「変貌したロシアと国境を接する中で、もはや自国だけで、平和な未来が築けるとは到底思えない。」(5月15日 マリン首相:We cannot trust anymore・・という強い言葉を使っていました。)という大きな方針転換を決意させるものでありました。

ロシアにとっては、自国と“良好な”関係を構築・継続しようと努力し続けてきたフィンランドは、東西対立の緩衝地帯としての役割はもちろん、“自分に敵意をあらわにしない西側陣営の一員”という絶妙なポジションの国が存在するという意味でも、非常に貴重であったはずです。だから今回、自ら招いたこととはいえ、フィンランドがNATOの一員となることは、ロシアにとって相当手痛いことであり、そうした焦りからどういう態度を取ってくるか、注意が必要かと思います。

■スウェーデン

スウェーデンの“中立政策”の歴史は長く、200年にわたります。かつては強大な軍事力によってバルト海周辺に君臨したスウェーデンですが、度重なる戦争の結果、国力が低下したこともあり、1834年、カール14世が、英国とロシアの対立に巻き込まれないよう、両国政府に覚書を送り、中立を宣言しました。

ただ、“中立”とはいっても、第二次世界大戦中もドイツとノルウェー双方に協力したり、戦後、秘密裏に核開発をしたり、どうやって自国を守るか、という安全保障に腐心してきました。冷戦期には、“中立国”として人権外交や軍縮に取り組みつつ、実質的にNATOとも協力してきました。

冷戦が終結してソ連の脅威が低下し、中立の意義も変わってきましたが、ロシアによるジョージア(2008年)とクリミア侵攻(2014年)を受け、スウェーデンは軍備を再強化しました。具体的には2017年、ロシアの飛び地カリーニングラードと向かい合うゴットランド島に、常駐軍(2004年に引き揚げ)を再配備し、徴兵制(2010年に廃止)を復活させました。それでもなお、「地域の緊張を高めてしまう」として、NATOの加盟申請には慎重であり続けました。

◇ ◇

こうして見てみると、フィンランドとノルウェーのNATO加盟申請は、今回突然出てきたというわけではなく、冷戦終結、ソ連邦崩壊、ロシアと西側諸国との接近、そして再びロシアの脅威が高まってきたという状況変化の中で、長らく模索されてきたものが、今回のウクライナ侵攻によって最終的に背中を押された、といえるのだと思います。

そしてまた、両国にとっては、「まさに今このタイミングしかない」のだともいえます。もし、平時にNATOに加盟しようとしたならば、ロシアから相当な圧力がかかったはずで、強い軍事的報復もあったかもしれませんが、ロシアがウクライナに注力している今は、大きく手出しをする余裕はなく、そしてNATO側としても、ロシアに対して結束する必要性を痛感している今、強い軍事力と経済力を持つフィンランドやスウェーデンの加盟は、大いに歓迎されるはずです。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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